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竹尾安五郎
◯八
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寿郎長は、賭場の出納を桶屋中吉に任せて、追分参五郎と一緒に山へ向かう。参五郎が松茸の群生地を知っていると言うので、足取りも軽い。田畑に挟まれた道を歩く。空は快晴で遠くの山まで見えた。寿郎長は、富士山を眺める。駿河の国から観る物と同じはずだが、別物に見えた。茶畑と海が懐かしい。
寿郎長が富士山を眺めながら歩いていると、参五郎が声をかける。
「親分、この山ですぜ」
参五郎は、先導して歩く。壊れた古い石段を進む。
「なんだ、神社か?」
参五郎は、寿郎長の質問に答えた。
「ええ、上に祠しかない古い神社が在るんです。今じゃ誰も参拝しない寂しい所でさぁ」
二人は、古い神社の境内に居た。参五郎は、思い詰めた顔をしていた。寿郎長は、何かを察する。少なくとも、楽しいきのこ狩りでは無さそうだ。
「参五郎、こんな人気の無い所に誘い出して、何か魂胆があるのかい?」
参五郎は、その場で土下座した。
「親分、すまねぇ、あっしと決闘してくれ。おれの色が竹尾安五郎に人質に取られている。親分を殺さなきゃ、女が殺されてしまう。だが、騙し討ちは性に合わねぇ。正々堂々と勝負してぇ。それで、厚かましい頼みなんだが、あっしが死んだら、親分におれの女を何とか助けて欲しい。一生のお願いだ」
寿郎長は、参五郎の頼みを吟味していた。腕を組んで考える。
「参五郎、よく打ち明けてくれた。お前は死ぬ気なんじゃねぇか? 惚れた女と盃を交わした親との板挟み。気持ちは解るぜ。だがな、悪いのは竹尾安五郎さ。卑劣な手を使いやがって。こうなったら、親分衆と相談して、上手く行くように算段するから任せな」
寿郎長と参五郎は山を下りた。そして、一家で参五郎の女について議論する。良い方法は見つからず、後日、仲裁が得意な前田栄五郎に、寿郎長が相談に行く事に決まった。
さて、その夜、市松と中吉と法印が参五郎の所へ訪れる。
「お前がそこまで惚れる女だ。さぞかし良い女なんだろうな」
法印大五郎は、修行僧のような格好をしているが、中身は根っからの渡世人だった。僧侶の経験は無いので、偽装趣向なのだろう。参五郎は、偽坊主に答えた。
「そりゃそうよ。名は節と言うんだぜ」
参五郎が自慢すると、法印は不安な話をする。
「それじゃ、心配だな。おれはよ、竹尾安五郎の所に居たんだが、安五郎は大の女好きで、しかも、島でお勤めしてただろう。もう、球球はパンパンに張って帰って来ているぜ」
「どっどのくらい、溜まっているんだ」
市松が会話に入って来た。
「そうだな、一升徳利くらいかな。それで、アレも大きいんだよ。隣に並べた大根が、ごぼうに見える位だからな」
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「参五郎、こんな人気の無い所に誘い出して、何か魂胆があるのかい?」
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