9 / 13
竹尾安五郎
◯九
しおりを挟む
「そっそいつは凄えな」
市松は、本気にして目を丸くする。参五郎以外は笑い出した。
「なっなんでい、冗談かよ」
「あったりめぇだろ。そんな逸物で歩けるか!」
法院は、市松をバカにした。
喧騒の中、参五郎は考えていた。それは、親分に頼り切りで良いのだろうか? と言う事だった。一人では難しいかも知れないが、助っ人が何人か居れば、可能な気がしていた。
「兄い、やっぱり親分に任せ切りってのは、どうかと思いやすよね」
全員が、参五郎の顔を見た。
「そうだな、うちの親分が、前田栄五郎親分に借りを作る事になるからな」
中吉が言う。
「でしょう、しかも、あっしの色の事で骨折りさせちゃ、どうにも居心地が悪いんでやんすよ」
「たったすけだしゃいい」
市松が言う。その場に集ったのは、向こう見ずな連中ばかりだったので、雰囲気で話が決まってしまう。
計画は、とにかく旅に出る事だった。参五郎、市松、法院が湯治の名目で暇を貰う。中吉は、一家でやる事があったので、企てに参加できなかった。
縞の合羽に三度笠、腰には長脇差しをぶち込み、裾を上げて颯爽と歩く。参五郎と市松は浅葱色の股引を穿いていたが、法印は毛脛丸出しで素足に下駄履きだった。その他、法印は刀を差していない。首から大きな数珠を下げているだけだった。渡世人と言うより荒法師だった。
「ほっ法印、寒くねぇのかよ」
「ふん、お前らとは鍛え方が違うわ」
市松は、喋るのが苦手なので、黙ってしまった。
三人は、街道をひたすら進んだ。
夜になり、勝沼宿に入った。ここには祐天善之助の一家が在って、本来なら挨拶に行く所だが、今回は隠密行動が必要だった。町外れに宿を取り、黒駒勝堂が仕切る黒駒宿へ向かう。竹尾安五郎は、島から帰った後、黒駒一家で世話になっていた。
法印は、この辺りの地理に詳しい。夜道を先導した。
「黒駒一家の賭場と女郎屋は人通りが多いからよ、コソコソしとると返って怪しまれる。堂々しとりゃええ」
法印は、堂々と歩いた。
「てめぇ、法印!」
さっそく、顔見知りに見つかる。
「お前、おれの知り合いかい?」
「おお、裏切り者の法印、おれの顔を忘れたか!」
安五郎一家の法被を着た博徒が、法印に近づく。長脇差は持っていないが、ヤクザの嗜みとして、懐に匕首を忍ばせているだろう。
法印は、相手が充分に近づいてから返事をした。
「じゃあ、遠慮せんで」
法院は、鉄入りの数珠を拳に巻き、知り合いの顔面を破壊する。相手は、抜きかけた匕首を握ったまま、路上に吹き飛ぶ。女郎屋の前は騒然となる。
「野郎、何しやがる!」
お決まりの台詞を合図に、大喧嘩になった。長脇差と匕首が閃く。敵味方、ツラツラと抜き連れ、対峙する。
「やっちまえ」
法院の鉄数珠が薙ぎ倒し、市松の長々ドスが安五郎の子分を突き通す。たった二人に大勢が翻弄された。
一方、その頃、女郎屋の方での騒ぎを聞きつけた男が居た。名を、坂東綱太郎と言う。彼は、竹尾安五郎に恨みを持ち、清水寿郎長に恩を感じていた。市松と法印が騒動を起こすと、綱太郎は現場へ向かう。途中、屋根の上に火が見えた。その正体が火縄で、火縄銃を持ったヤツが、市松を狙っているのを理解した。綱太郎は、軒下で前かがみになり、音が鳴らない笛を吹く。すると、白い犬が駆け寄り、飼い主の背中を踏み台にして、屋根に飛び上がる。犬は、火縄銃の男の喉に咬みつき、屋根から引き摺り落とした。綱太郎は、腰刀で狙撃手に止めを刺す。
市松は、本気にして目を丸くする。参五郎以外は笑い出した。
「なっなんでい、冗談かよ」
「あったりめぇだろ。そんな逸物で歩けるか!」
法院は、市松をバカにした。
喧騒の中、参五郎は考えていた。それは、親分に頼り切りで良いのだろうか? と言う事だった。一人では難しいかも知れないが、助っ人が何人か居れば、可能な気がしていた。
「兄い、やっぱり親分に任せ切りってのは、どうかと思いやすよね」
全員が、参五郎の顔を見た。
「そうだな、うちの親分が、前田栄五郎親分に借りを作る事になるからな」
中吉が言う。
「でしょう、しかも、あっしの色の事で骨折りさせちゃ、どうにも居心地が悪いんでやんすよ」
「たったすけだしゃいい」
市松が言う。その場に集ったのは、向こう見ずな連中ばかりだったので、雰囲気で話が決まってしまう。
計画は、とにかく旅に出る事だった。参五郎、市松、法院が湯治の名目で暇を貰う。中吉は、一家でやる事があったので、企てに参加できなかった。
縞の合羽に三度笠、腰には長脇差しをぶち込み、裾を上げて颯爽と歩く。参五郎と市松は浅葱色の股引を穿いていたが、法印は毛脛丸出しで素足に下駄履きだった。その他、法印は刀を差していない。首から大きな数珠を下げているだけだった。渡世人と言うより荒法師だった。
「ほっ法印、寒くねぇのかよ」
「ふん、お前らとは鍛え方が違うわ」
市松は、喋るのが苦手なので、黙ってしまった。
三人は、街道をひたすら進んだ。
夜になり、勝沼宿に入った。ここには祐天善之助の一家が在って、本来なら挨拶に行く所だが、今回は隠密行動が必要だった。町外れに宿を取り、黒駒勝堂が仕切る黒駒宿へ向かう。竹尾安五郎は、島から帰った後、黒駒一家で世話になっていた。
法印は、この辺りの地理に詳しい。夜道を先導した。
「黒駒一家の賭場と女郎屋は人通りが多いからよ、コソコソしとると返って怪しまれる。堂々しとりゃええ」
法印は、堂々と歩いた。
「てめぇ、法印!」
さっそく、顔見知りに見つかる。
「お前、おれの知り合いかい?」
「おお、裏切り者の法印、おれの顔を忘れたか!」
安五郎一家の法被を着た博徒が、法印に近づく。長脇差は持っていないが、ヤクザの嗜みとして、懐に匕首を忍ばせているだろう。
法印は、相手が充分に近づいてから返事をした。
「じゃあ、遠慮せんで」
法院は、鉄入りの数珠を拳に巻き、知り合いの顔面を破壊する。相手は、抜きかけた匕首を握ったまま、路上に吹き飛ぶ。女郎屋の前は騒然となる。
「野郎、何しやがる!」
お決まりの台詞を合図に、大喧嘩になった。長脇差と匕首が閃く。敵味方、ツラツラと抜き連れ、対峙する。
「やっちまえ」
法院の鉄数珠が薙ぎ倒し、市松の長々ドスが安五郎の子分を突き通す。たった二人に大勢が翻弄された。
一方、その頃、女郎屋の方での騒ぎを聞きつけた男が居た。名を、坂東綱太郎と言う。彼は、竹尾安五郎に恨みを持ち、清水寿郎長に恩を感じていた。市松と法印が騒動を起こすと、綱太郎は現場へ向かう。途中、屋根の上に火が見えた。その正体が火縄で、火縄銃を持ったヤツが、市松を狙っているのを理解した。綱太郎は、軒下で前かがみになり、音が鳴らない笛を吹く。すると、白い犬が駆け寄り、飼い主の背中を踏み台にして、屋根に飛び上がる。犬は、火縄銃の男の喉に咬みつき、屋根から引き摺り落とした。綱太郎は、腰刀で狙撃手に止めを刺す。
0
あなたにおすすめの小説
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる