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竹尾安五郎
◯十
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さて、綱太郎が市松と法印の助っ人に駆けつけると、騒乱に参五郎が加わっていた。参五郎は、女を連れている。遊女らしく、赤い襦袢姿だった。彼女は、参五郎といい仲の節だった。客を取っている最中に連れ出され、嬉しさよりも混乱の方が先に来ていた。履いている草履も左右の大きさが違う。
混乱の中、綱太郎が怒鳴る。
「清水寿郎長一家の方とお見受けします。手前、坂東綱太郎と言う半端者です。竹尾安五郎に恨みが有り、お味方します。付いてきなせぇ」
寿郎長勢としては、二匹の猛犬を操る不審な男だが、助けてくれているのは解っていた。ここは、信用して頼るしかなかった。
綱太郎の犬、紅と白は、安五郎の子分どもを威嚇して、足止めする。二匹とも大きく、狼のように恐ろしい上、牙を剥き出しにする。その間に、寿郎長一家の悪童どもは逃げ延びる。そのまま、山に入る。
山の中で焚き火をしていた。節は薄着なので、参五郎は心配する。綱太郎は、野良着の上に獣の毛皮を着ていたので、節に貸してあげる。
「綱太郎さん、すまねぇな」
「なぁに、良いって事よ」
そうしている内に、二匹の犬が追いついて来た。
「おっ、紅と白が来た。もう出発するぜ」
全員が疲れていたが、出発した。お喋りする暇もない。竹尾安五郎と黒駒勝堂はかなり怒っている筈で、人を集めて山狩りをするだろう。一行は、犬を先導にして山越えし、上州を目指した。数日後、前田栄五郎一家に戻って来た。
さて、前田栄五郎一家では大騒ぎになっていた。湯治に行った筈の市松、法院、参五郎の三人が、竹尾安五郎が仕切る女郎屋に殴り込み、遊女を足抜けさせた事件が問題になる。甲州の親分衆に寿郎長を弾劾する書状が回り、大勢の博徒が賛同した。
早速、当の本人たちが呼び出される。
「市松、法印、参五郎、どう言う了見だ。おれに黙って勝手な事をしてくれたな」
三人は、柄にもなくしおらしくしていた。
やがて、法印が言い訳をする。
「親分、堪忍してください。こっそり連れ出して、こっそり帰って来ようと思ったのに、知り合いに会ってしまったんだわ」
参五郎は土下座して謝った。
「親分、澄まない。おれの色の事で親分に迷惑をかけたくなかったんだ」
市松も謝罪する。
「おっおれが言い出したんだなぁ」
寿郎長は、どうしてこうも喧嘩っ早い連中が子分で集まるのか不思議だった。とは言え、寿郎長自身も、天神一家の親分を斬った事から始まっていた。類は友を呼ぶ、なのかも知れない。
さて、寿郎長は、もう一人の人物に注目した。彼は、市松たちを助けた恩人だった。大きな犬を二匹連れている。
「子分が世話になったようだね。清水寿郎長だ」
「坂東綱太郎と言います」
「そうかい。ところで、竹尾安五郎に恨みがあるそうだが、どんな訳だい?」
寿郎長の質問に、綱太郎は答えた。
「あっしは、犬を猟犬に育てて猟師に売る仕事をしています。ある日、竹尾安五郎が犬を買いに来たんです。ヤツは、あっしが手塩にかけた犬、黒を見初めて、大金を払って買い取ったんですが、猟犬として使う気は最初から無かったんです。恐ろしい事に、犬に阿片を与えて狂わせ、人を食べさせていたんです。その目的は、同じ甲斐の博徒、祐天一家の新田開発を妨害する為の騒動のタネでした。ヤツは、山犬の祟りを仕掛けていました。それに失敗すると、今度は祐天一家の花会に黒を乱入させ、死傷者を出した。おれは、黒が可哀想で泣けましたよ。犬は飼い主を選べない。竹尾安五郎は、犬を悪事の道具に使った」
綱太郎は憤る。
混乱の中、綱太郎が怒鳴る。
「清水寿郎長一家の方とお見受けします。手前、坂東綱太郎と言う半端者です。竹尾安五郎に恨みが有り、お味方します。付いてきなせぇ」
寿郎長勢としては、二匹の猛犬を操る不審な男だが、助けてくれているのは解っていた。ここは、信用して頼るしかなかった。
綱太郎の犬、紅と白は、安五郎の子分どもを威嚇して、足止めする。二匹とも大きく、狼のように恐ろしい上、牙を剥き出しにする。その間に、寿郎長一家の悪童どもは逃げ延びる。そのまま、山に入る。
山の中で焚き火をしていた。節は薄着なので、参五郎は心配する。綱太郎は、野良着の上に獣の毛皮を着ていたので、節に貸してあげる。
「綱太郎さん、すまねぇな」
「なぁに、良いって事よ」
そうしている内に、二匹の犬が追いついて来た。
「おっ、紅と白が来た。もう出発するぜ」
全員が疲れていたが、出発した。お喋りする暇もない。竹尾安五郎と黒駒勝堂はかなり怒っている筈で、人を集めて山狩りをするだろう。一行は、犬を先導にして山越えし、上州を目指した。数日後、前田栄五郎一家に戻って来た。
さて、前田栄五郎一家では大騒ぎになっていた。湯治に行った筈の市松、法院、参五郎の三人が、竹尾安五郎が仕切る女郎屋に殴り込み、遊女を足抜けさせた事件が問題になる。甲州の親分衆に寿郎長を弾劾する書状が回り、大勢の博徒が賛同した。
早速、当の本人たちが呼び出される。
「市松、法印、参五郎、どう言う了見だ。おれに黙って勝手な事をしてくれたな」
三人は、柄にもなくしおらしくしていた。
やがて、法印が言い訳をする。
「親分、堪忍してください。こっそり連れ出して、こっそり帰って来ようと思ったのに、知り合いに会ってしまったんだわ」
参五郎は土下座して謝った。
「親分、澄まない。おれの色の事で親分に迷惑をかけたくなかったんだ」
市松も謝罪する。
「おっおれが言い出したんだなぁ」
寿郎長は、どうしてこうも喧嘩っ早い連中が子分で集まるのか不思議だった。とは言え、寿郎長自身も、天神一家の親分を斬った事から始まっていた。類は友を呼ぶ、なのかも知れない。
さて、寿郎長は、もう一人の人物に注目した。彼は、市松たちを助けた恩人だった。大きな犬を二匹連れている。
「子分が世話になったようだね。清水寿郎長だ」
「坂東綱太郎と言います」
「そうかい。ところで、竹尾安五郎に恨みがあるそうだが、どんな訳だい?」
寿郎長の質問に、綱太郎は答えた。
「あっしは、犬を猟犬に育てて猟師に売る仕事をしています。ある日、竹尾安五郎が犬を買いに来たんです。ヤツは、あっしが手塩にかけた犬、黒を見初めて、大金を払って買い取ったんですが、猟犬として使う気は最初から無かったんです。恐ろしい事に、犬に阿片を与えて狂わせ、人を食べさせていたんです。その目的は、同じ甲斐の博徒、祐天一家の新田開発を妨害する為の騒動のタネでした。ヤツは、山犬の祟りを仕掛けていました。それに失敗すると、今度は祐天一家の花会に黒を乱入させ、死傷者を出した。おれは、黒が可哀想で泣けましたよ。犬は飼い主を選べない。竹尾安五郎は、犬を悪事の道具に使った」
綱太郎は憤る。
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