10 / 13
竹尾安五郎
◯十
しおりを挟む
さて、綱太郎が市松と法印の助っ人に駆けつけると、騒乱に参五郎が加わっていた。参五郎は、女を連れている。遊女らしく、赤い襦袢姿だった。彼女は、参五郎といい仲の節だった。客を取っている最中に連れ出され、嬉しさよりも混乱の方が先に来ていた。履いている草履も左右の大きさが違う。
混乱の中、綱太郎が怒鳴る。
「清水寿郎長一家の方とお見受けします。手前、坂東綱太郎と言う半端者です。竹尾安五郎に恨みが有り、お味方します。付いてきなせぇ」
寿郎長勢としては、二匹の猛犬を操る不審な男だが、助けてくれているのは解っていた。ここは、信用して頼るしかなかった。
綱太郎の犬、紅と白は、安五郎の子分どもを威嚇して、足止めする。二匹とも大きく、狼のように恐ろしい上、牙を剥き出しにする。その間に、寿郎長一家の悪童どもは逃げ延びる。そのまま、山に入る。
山の中で焚き火をしていた。節は薄着なので、参五郎は心配する。綱太郎は、野良着の上に獣の毛皮を着ていたので、節に貸してあげる。
「綱太郎さん、すまねぇな」
「なぁに、良いって事よ」
そうしている内に、二匹の犬が追いついて来た。
「おっ、紅と白が来た。もう出発するぜ」
全員が疲れていたが、出発した。お喋りする暇もない。竹尾安五郎と黒駒勝堂はかなり怒っている筈で、人を集めて山狩りをするだろう。一行は、犬を先導にして山越えし、上州を目指した。数日後、前田栄五郎一家に戻って来た。
さて、前田栄五郎一家では大騒ぎになっていた。湯治に行った筈の市松、法院、参五郎の三人が、竹尾安五郎が仕切る女郎屋に殴り込み、遊女を足抜けさせた事件が問題になる。甲州の親分衆に寿郎長を弾劾する書状が回り、大勢の博徒が賛同した。
早速、当の本人たちが呼び出される。
「市松、法印、参五郎、どう言う了見だ。おれに黙って勝手な事をしてくれたな」
三人は、柄にもなくしおらしくしていた。
やがて、法印が言い訳をする。
「親分、堪忍してください。こっそり連れ出して、こっそり帰って来ようと思ったのに、知り合いに会ってしまったんだわ」
参五郎は土下座して謝った。
「親分、澄まない。おれの色の事で親分に迷惑をかけたくなかったんだ」
市松も謝罪する。
「おっおれが言い出したんだなぁ」
寿郎長は、どうしてこうも喧嘩っ早い連中が子分で集まるのか不思議だった。とは言え、寿郎長自身も、天神一家の親分を斬った事から始まっていた。類は友を呼ぶ、なのかも知れない。
さて、寿郎長は、もう一人の人物に注目した。彼は、市松たちを助けた恩人だった。大きな犬を二匹連れている。
「子分が世話になったようだね。清水寿郎長だ」
「坂東綱太郎と言います」
「そうかい。ところで、竹尾安五郎に恨みがあるそうだが、どんな訳だい?」
寿郎長の質問に、綱太郎は答えた。
「あっしは、犬を猟犬に育てて猟師に売る仕事をしています。ある日、竹尾安五郎が犬を買いに来たんです。ヤツは、あっしが手塩にかけた犬、黒を見初めて、大金を払って買い取ったんですが、猟犬として使う気は最初から無かったんです。恐ろしい事に、犬に阿片を与えて狂わせ、人を食べさせていたんです。その目的は、同じ甲斐の博徒、祐天一家の新田開発を妨害する為の騒動のタネでした。ヤツは、山犬の祟りを仕掛けていました。それに失敗すると、今度は祐天一家の花会に黒を乱入させ、死傷者を出した。おれは、黒が可哀想で泣けましたよ。犬は飼い主を選べない。竹尾安五郎は、犬を悪事の道具に使った」
綱太郎は憤る。
混乱の中、綱太郎が怒鳴る。
「清水寿郎長一家の方とお見受けします。手前、坂東綱太郎と言う半端者です。竹尾安五郎に恨みが有り、お味方します。付いてきなせぇ」
寿郎長勢としては、二匹の猛犬を操る不審な男だが、助けてくれているのは解っていた。ここは、信用して頼るしかなかった。
綱太郎の犬、紅と白は、安五郎の子分どもを威嚇して、足止めする。二匹とも大きく、狼のように恐ろしい上、牙を剥き出しにする。その間に、寿郎長一家の悪童どもは逃げ延びる。そのまま、山に入る。
山の中で焚き火をしていた。節は薄着なので、参五郎は心配する。綱太郎は、野良着の上に獣の毛皮を着ていたので、節に貸してあげる。
「綱太郎さん、すまねぇな」
「なぁに、良いって事よ」
そうしている内に、二匹の犬が追いついて来た。
「おっ、紅と白が来た。もう出発するぜ」
全員が疲れていたが、出発した。お喋りする暇もない。竹尾安五郎と黒駒勝堂はかなり怒っている筈で、人を集めて山狩りをするだろう。一行は、犬を先導にして山越えし、上州を目指した。数日後、前田栄五郎一家に戻って来た。
さて、前田栄五郎一家では大騒ぎになっていた。湯治に行った筈の市松、法院、参五郎の三人が、竹尾安五郎が仕切る女郎屋に殴り込み、遊女を足抜けさせた事件が問題になる。甲州の親分衆に寿郎長を弾劾する書状が回り、大勢の博徒が賛同した。
早速、当の本人たちが呼び出される。
「市松、法印、参五郎、どう言う了見だ。おれに黙って勝手な事をしてくれたな」
三人は、柄にもなくしおらしくしていた。
やがて、法印が言い訳をする。
「親分、堪忍してください。こっそり連れ出して、こっそり帰って来ようと思ったのに、知り合いに会ってしまったんだわ」
参五郎は土下座して謝った。
「親分、澄まない。おれの色の事で親分に迷惑をかけたくなかったんだ」
市松も謝罪する。
「おっおれが言い出したんだなぁ」
寿郎長は、どうしてこうも喧嘩っ早い連中が子分で集まるのか不思議だった。とは言え、寿郎長自身も、天神一家の親分を斬った事から始まっていた。類は友を呼ぶ、なのかも知れない。
さて、寿郎長は、もう一人の人物に注目した。彼は、市松たちを助けた恩人だった。大きな犬を二匹連れている。
「子分が世話になったようだね。清水寿郎長だ」
「坂東綱太郎と言います」
「そうかい。ところで、竹尾安五郎に恨みがあるそうだが、どんな訳だい?」
寿郎長の質問に、綱太郎は答えた。
「あっしは、犬を猟犬に育てて猟師に売る仕事をしています。ある日、竹尾安五郎が犬を買いに来たんです。ヤツは、あっしが手塩にかけた犬、黒を見初めて、大金を払って買い取ったんですが、猟犬として使う気は最初から無かったんです。恐ろしい事に、犬に阿片を与えて狂わせ、人を食べさせていたんです。その目的は、同じ甲斐の博徒、祐天一家の新田開発を妨害する為の騒動のタネでした。ヤツは、山犬の祟りを仕掛けていました。それに失敗すると、今度は祐天一家の花会に黒を乱入させ、死傷者を出した。おれは、黒が可哀想で泣けましたよ。犬は飼い主を選べない。竹尾安五郎は、犬を悪事の道具に使った」
綱太郎は憤る。
0
あなたにおすすめの小説
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる