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エピソード 2

奇蹟の生還

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 早苗の手から滑り落ちたスマホは、自然の法則に従って落下する。
 画面には、トイレを背景に少女が映っていて、険しい顔で早苗を睨んでいた。
 少女は、歳は小学生くらいで、おかっぱ頭をしていて、目は切れ長で鋭い。
 服装は、白いシャツに紅いスカートの、トイレの花子さん2018モデルだった。

 花子は、早苗に罵詈雑言を吐きながら小さくなる。
 そのまま、彼女の到着を待ちわびる川面へ近付いて行く。


 ポッチャン

 その時、大きな水音がして、水面が割れた。水中から川嘘、いや、カワウソが現れ、立ち泳ぎを継続する。
 その愛らしい目には、落下するスマホが映っていた。

 そしてカワウソは、名外野手顔負けのスーパーキャッチでスマホを確保した。
 小さな前足で前へ習えのポーズでのキャッチは、かなりの偉業であろう。


「沙悟浄、助かったよ」

 花子がカワウソに礼を言う。

「いえいえ、あっしは花子さんのお役に立てて嬉しいんです。水族館で捕らわれの身だったあっしを、助けてくれたのは花子さんですから」

「そんな事があったっけ?」

 花子が疑問を投げ掛けると、カワウソが勝手に解釈する。

「またまた、ご謙遜を」

 噛み合わない会話が尽きた頃、カワウソは花子を岸に置いた。

「これであっしは退散しやす」

「おう、ご苦労様。ダディに宜しく」

 カワウソは、水中へ潜って行った。


 暫く静寂な時が流れる。葦の原から、虫の音が聞こえて来た。
 天空には、真ん丸の月が輝いている。
 普通なら、花子は月を眺めながら風流に早苗を待っていた事だろう。
 所が、カワウソは、スマホの画面を下に向けて置いて行った。
 これでは、近すぎて砂利も見えない。

「全くもう、どいつもこいつも!」

 花子は、ご立腹モードに入っていた。


 さて、花子が次に景色を見られたのは、その数分後だった。


「花子ちゃんごめんね。手が滑ってさ。怒ってない?」

 早苗が、申し訳なさそうに言う。
 花子は、ここは大人な対応が求められている気がして、冷静に返事をした。

「いいよ。失敗は誰にでもある」

「ありがとう。それでさ、さっきの凄かったね。ラッコがスマホをキャッチしたよ。

♪ラッコが両手で上手に上手にスマホをキャッチした♪」

 花子は、少し苛っとする。第一、歌に無理がある。

「あんた、あれをラッコだと思ったの?」

「うん、前に水族館で見たのと同じだから、間違いないよ」

 早苗は、キッパリと断言する。そして、花子の苛苛線を刺激する。もう、ソロで暴走する様に掻き鳴らす。

「橋の上から見てさ、『ブッラボー!』なんて叫んじゃった。もう拍手喝采」

 花子は、陽気なラテン系気取りで話す早苗を、冷ややかな目で見ていた。

「原因を作ったあんたが、大はしゃぎしていたんだ……」

 早苗は状況が不利だと感じ、話題を変える事にする。

「でもさ、ラッコが落下、ん、ん、ん? ラッコがラッカ?

♪ラッコがラッカでラップでキャッチ。イエーイ!♪」

 花子の苛苛が頂点を迎える。

「あんた、何が言いたいの?」

「いやいや、あの、偶然にしては出来すぎかな?」

 早苗の言いたい事を察した花子は、説明した。

「簡単に言うと、神様ダディの強制介入だね。人間の世界では、奇蹟と呼ばれている。聖書の時代から今日まで、神は偶然を装った必然で、人間世界に介入しているんだよ」

 花子のうんちくに、早苗は感嘆した。

「へぇ、そうなんだ。オーマイゴット! じゃあ、家に帰りましょうか?」

 早苗は、感嘆した振りだけで、それほど興味はないらしい。
 とは言え、花子も早苗の提案に異存はない。

 そもそも、花の女子学生に神だの何だの話しても、ピンと来ないだろう。
 事によると、トイレで神に紙を求めようとはするかも知れないが、一過性の問題でしかない。

 奇蹟の生還を果たした花子は、早苗と共に帰路につく。
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