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エピソード 4
☆愛しのメリー 5
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私の目の前で広がる映像が移動して行き、マンションのエレベーターの中へ入った。
さて、エレベーター内には、男女が二人ずつ乗っていた。全員が、重苦しい雰囲気を放っている。
男二人の内一人は、三十代で体格が良かった。彼は、角刈りに丸首の長袖に作業ズボンと言った出で立ちで、土木作業員を思わせる。
日焼けと深く刻まれた皺は、容赦なく降り注ぐ紫外線と、過酷な労働による物だろう。
もう一人の男は六十代で、物静かなご隠居風だった。
企業戦士だった頃の名残はワイシャツのみで、無難な色のチョッキとズボンで引退生活をアピールしている。
女性陣はと言うと、一人は老婆で、年齢を肯定する地味な服を着て、背中も曲がっている。
顔も、梅干しの様に無秩序に皺が寄り、年齢を重ねた味わい深さを出していた。
もう一人の女は、三十代の美女で、真っ赤な唇が映える白い肌をしていた。漆黒の黒髪と同色のワンピースを着ていて、毒蛇をイメージさせる雰囲気があった。彼女は、何故か自信あり気に微笑んでいる。
「志穂さん、良三さん、田島さん、わしを呼び出して何の用かね?」
老婆は、怯えた声で三人に尋ねた。
「いいから、屋上でゆっくり話しましょう」
蛇のような美女は、何の気負いもない淡々とした声で返事をする。ただ、その静けさが、逆に無気味な印象を周りに与えていた。
四人が乗るエレベーターがRの階に着く。全員が無言で屋上へ出た。
青空の下、話し合いが始まった。
だが、それは話し合いと言うよりは、老婆を問い詰める訊問だった。
「梅さん、あんたがこのマンションに越して来てから、不可解な事件が頻発するのはどういう訳だね」
ご隠居風の田島は、梅婆さんに激しく詰め寄った。
「どうもこうも、ワシにも解らんよ」
梅婆さんは、かなり困惑していた。
田島は、更に容疑者を問い詰める。
「あんたが越して来た日、家内がゴミの出し方を注意したら、その日の夜に心臓発作で急死した。おかしいじゃないか、何の持病も無かったのに……」
梅婆さんは、すっかり黙ってしまった。
代わりに、職人風の良三が喋りだす。
「息子の健太は、あんたと親しくなったばかりに悲惨な目にあったんだ! どうしてくれるんだ!」
良三は、顔が赤黒くなるほど興奮していた。
その鬼の様な表情は、年寄りを萎縮させるのに充分だった。
「健太くんの事故はワシも哀しんでいる。じゃが、何も知らないし、何もしていない」
「事故だと? お前が呪いでエレベーターを誤作動させたんだ! 健太は、体が二つに分かれて死んだんだぞ!」
「そうよ、この婆さんは呪術師に違いないよ。わたしの亭主も転んだだけで死んでしまった。偶然打ち所が悪かったじゃ済ませない」
蛇のような美女の声が、老婆の心に突き刺さる。
梅婆さんは、それでも抵抗を試みる。
「ぜんぶ偶然としか言えん。呪いなどではない」
梅婆さんの言い分は、被害者の会に却下される。
「あんたが出したゴミ袋の中に、藁人形やら無気味な道具が出て来たんだよ。動かぬ証拠だろ」
良三に怒鳴られ、梅婆さんは困惑していた。
「その事については身に覚えがないのう。それに、仮にワシが捨てた物だとしても、事件との因果関係は証明されんのでは?」
梅婆さんの冷静な意見は、志穂によって遮られた。
「田島さんも良三さんも、もう腹は決まっているんでしょ。この婆さんを法律で裁けないのは明白よ。それに、もしこの機会を逃したら、反撃される恐れがあるでしょ」
毒蛇女の目が妖しく光る。
田島も良三も、最愛の人の最期が目に浮かんだ。
二人は、恐怖心から暴走した。
梅婆さんに襲い掛かると、力を合わせてフェンスの向こう側へ老婆を落とした。
強烈な悲鳴を残し、梅婆さんは落下していく。
屋上には、呆然とするご隠居と、泣きじゃくる労働者と、笑みを浮かべる女が居た。
さて、エレベーター内には、男女が二人ずつ乗っていた。全員が、重苦しい雰囲気を放っている。
男二人の内一人は、三十代で体格が良かった。彼は、角刈りに丸首の長袖に作業ズボンと言った出で立ちで、土木作業員を思わせる。
日焼けと深く刻まれた皺は、容赦なく降り注ぐ紫外線と、過酷な労働による物だろう。
もう一人の男は六十代で、物静かなご隠居風だった。
企業戦士だった頃の名残はワイシャツのみで、無難な色のチョッキとズボンで引退生活をアピールしている。
女性陣はと言うと、一人は老婆で、年齢を肯定する地味な服を着て、背中も曲がっている。
顔も、梅干しの様に無秩序に皺が寄り、年齢を重ねた味わい深さを出していた。
もう一人の女は、三十代の美女で、真っ赤な唇が映える白い肌をしていた。漆黒の黒髪と同色のワンピースを着ていて、毒蛇をイメージさせる雰囲気があった。彼女は、何故か自信あり気に微笑んでいる。
「志穂さん、良三さん、田島さん、わしを呼び出して何の用かね?」
老婆は、怯えた声で三人に尋ねた。
「いいから、屋上でゆっくり話しましょう」
蛇のような美女は、何の気負いもない淡々とした声で返事をする。ただ、その静けさが、逆に無気味な印象を周りに与えていた。
四人が乗るエレベーターがRの階に着く。全員が無言で屋上へ出た。
青空の下、話し合いが始まった。
だが、それは話し合いと言うよりは、老婆を問い詰める訊問だった。
「梅さん、あんたがこのマンションに越して来てから、不可解な事件が頻発するのはどういう訳だね」
ご隠居風の田島は、梅婆さんに激しく詰め寄った。
「どうもこうも、ワシにも解らんよ」
梅婆さんは、かなり困惑していた。
田島は、更に容疑者を問い詰める。
「あんたが越して来た日、家内がゴミの出し方を注意したら、その日の夜に心臓発作で急死した。おかしいじゃないか、何の持病も無かったのに……」
梅婆さんは、すっかり黙ってしまった。
代わりに、職人風の良三が喋りだす。
「息子の健太は、あんたと親しくなったばかりに悲惨な目にあったんだ! どうしてくれるんだ!」
良三は、顔が赤黒くなるほど興奮していた。
その鬼の様な表情は、年寄りを萎縮させるのに充分だった。
「健太くんの事故はワシも哀しんでいる。じゃが、何も知らないし、何もしていない」
「事故だと? お前が呪いでエレベーターを誤作動させたんだ! 健太は、体が二つに分かれて死んだんだぞ!」
「そうよ、この婆さんは呪術師に違いないよ。わたしの亭主も転んだだけで死んでしまった。偶然打ち所が悪かったじゃ済ませない」
蛇のような美女の声が、老婆の心に突き刺さる。
梅婆さんは、それでも抵抗を試みる。
「ぜんぶ偶然としか言えん。呪いなどではない」
梅婆さんの言い分は、被害者の会に却下される。
「あんたが出したゴミ袋の中に、藁人形やら無気味な道具が出て来たんだよ。動かぬ証拠だろ」
良三に怒鳴られ、梅婆さんは困惑していた。
「その事については身に覚えがないのう。それに、仮にワシが捨てた物だとしても、事件との因果関係は証明されんのでは?」
梅婆さんの冷静な意見は、志穂によって遮られた。
「田島さんも良三さんも、もう腹は決まっているんでしょ。この婆さんを法律で裁けないのは明白よ。それに、もしこの機会を逃したら、反撃される恐れがあるでしょ」
毒蛇女の目が妖しく光る。
田島も良三も、最愛の人の最期が目に浮かんだ。
二人は、恐怖心から暴走した。
梅婆さんに襲い掛かると、力を合わせてフェンスの向こう側へ老婆を落とした。
強烈な悲鳴を残し、梅婆さんは落下していく。
屋上には、呆然とするご隠居と、泣きじゃくる労働者と、笑みを浮かべる女が居た。
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