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エピソード 5

呪われたマンション 3

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「早苗、おはよう」

 登校中の私に元気よく声を掛けたのは、茜だった。
 彼女に後ろから抱きつかれます。

「茜ちゃん、ビックリさせないでよ。心臓に悪いよ」

「メンゴメンゴ、久しぶりに朝練なしだからさ、早苗と一緒に登校しようと思って……」

 茜は、小麦色の肌の元気印なスポーツ女子だった。私と茜は、雑談に花を咲かせながら通学路を歩く。

「ところでさ、早苗は呪われたマンションを知っている?」

「もしかして、S市○○町の十階建ての?」

 私は、驚いて聞き返した。何故なら、そこに七歳まで家族と共に住んでいたからで、当時、事故死、病死、自殺が相次ぎ、母も亡くなっている。

「そのマンションがどうかしたの?」

 私は、動揺しないように聞き返す。
 茜は事情を知らないので、屈託のない感じで説明する。

「行方不明者が続出しているらしいよ。今は誰も住んでいない廃墟なんだけど、心霊スポットで有名らしいんだわ。それで、もう何年も前から噂になっているんだけど、戻らない人が居るんだって。数人で肝試しに行って、誰かが居なくなる事があるんだって」

 私は、防衛本能からマンションの話題は避けるようにしていたので、この噂は一切知らなかった。

「怖いの苦手なの」

「だよね、早苗はホラーが嫌いだものね」

 私は、茜との会話を軽く済ませてしまったが、実際は一人で考え込んでいた。
 何故か、この事件に介入する必要を感じていた。
 授業中も上の空で、過去の事ばかりが頭に浮かんだ。
 花子は、早苗の思考を妨げないようにしているのか? スマホの中で静かにしていた。 
 帰宅して家事をしている間も迷っていたが、思い切ってマンションの事を調べる事にした。パソコンで検索すると、最恐心霊スポットとしてヒットした。


「カミウバレジデンスは、十年前に廃墟と化した建物で、当時から呪われたマンションと呼ばれていた」

 私は説明文を読んで、自分が住んでいたマンション名を知る。そこで過ごした日々がトラウマになっていたから、記憶が抜け落ちている。
 それにしても、不気味でインパクトのある名称に思えて、家族が幸せに暮らす集合住宅とは程遠い印象がある。
 
 さて、十年前の事件は把握しているので、最近の事例を見ると、ここ一年間で十人の行方不明者が出ている。
 私は、過去の負債を清算する為にも、カミウバレジデンスを訪れる事にした。
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