映画を一分で読む。

映画2

オール・ユー・ニード・イズ・キル

「降下、二分前」

　飛行艇内に流れるアナウンスが、緊張感を高めた。船内から飛び出した途端に撃墜される可能性もあるので、最期に聞く言葉になるかも知れない。ケイジは、人型兵器のロケットエンジンを始動させる。パワードスーツの動力は電気なので、エンジンの排気ガスを利用して発電している。そして、着地する時も、ロケット噴射で衝撃を和らげる必要があった。

「降下、五秒前」

　船倉の床の部分が開き、眼下に地獄が広がる。つまり、敵味方が入り交じる戦場があった。青白い荷電粒子砲を避けるために、船体が揺れた。

「降下！」

　パワードスーツは、飛行艇から落下した。着地と同時に戦闘に巻き込まれる。凄まじい程のアドレナリンが、体内を駆け巡るのを感じた。目の前には、茶褐色のギタイが居て、火器を使える間合いでは無かった。そこで、ライフルを振り回し、下からギタイの頭部を突き上げる。台座での一撃を喰らったギタイは、上体が起きてしまう。すかさず、ギタイの頚の部分に銃剣を差し込んだ。接近戦では、ライフルの弾よりも銃身に取り付けられた銃剣の方が役に立つ。生命力の強い敵には、銃弾が有効に働かず、槍のような武器が扱いやすい。

　さて、頭部を切り離しても、油断はできない。敵は、腹部の先に有る噴射口を向けてきた。
　ケイジが乗るパワードスーツは、ギタイの腹部に蹴りを入れ、噴射口をそらせる。噴射物は、別のギタイに噴霧され、茶褐色の外骨格を溶かした。どうやら、噴射物への耐性は、噴射口の内部にしかないらしい。
　ギタイの緑色の体液と、パワードスーツのピンク色の冷却液が飛び交い、戦場は蛍光塗料を撒き散らしたようだった。

　実は、ケイジがこの戦場に出るのは、九回目だった。今までに八回も戦死していた。戦死する度に時間が戻り、同じ戦いを繰り返し、繰り返す度に強くなっていた。それと言うのも、初戦で特殊なギタイの血を浴び、その影響で得た能力だった。特殊なギタイは、オメガと呼ばれる敵の母体と繋がっていて、オメガは、特殊なギタイに時間を戻す能力を与えていた。ケイジは、特殊なギタイの血を浴びた時に、この能力を受け継ぎ、何度も同じ経験を反復する事になる。つまり、ケイジが同じ経験を繰り返して強くなっているように、ギタイも同様の仕組みで人類に挑んでいた。そのため、このままでは人類に勝ち目はない。
　絶望的な戦いの最中、ケイジはオメガと意識が通じている事に気づき、敵の母体が潜む場所を探し始める。形勢を逆転する作戦が動き出す。