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今妖諸話「やまのなか余禄」(後編)
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六-弐
「で、君はなんでこんなところに?」
青年の呼びかけに岩に座って俯いていた少年が頭を上げる。
ポカンとしたその表情が少年の驚きを物語っていた。
こういう時は目線を同じ高さにすると相手が安心するとか
どこかで聞いたことがあるなあと思いつつ
青年はしゃがみ込んで少年と目線を合わせ、微笑を浮かべる。
「よかったら、俺に事情を話してくれないか」
頷いて自分の体験談を話し出した少年の説明を聞きながら、
青年は彼が間違いなく自分の探している迷子なのだと理解する。
それで思わず
「つまり君は迷子なのかい」
などと聞かなくてもいい事を口走ってしまい、
少年のプライドを刺激したりしてしまったが、
内心の「あ、失敗した」という思いを悟られないよう
なんでもないような表情で少年の頭にポンッと右手を乗せて
「まあ、心配することはない。大船に乗ったつもりでいろ」
などと言い放った。
まあ、実際ここは自分の家の裏庭なので、大船も小船もないものだが、
こんなとき大人が気楽に大口を叩けば子供は安心するだろうとの
計算もあっての発言ではあった。
「おじさん、帰り道わかるの?」
少年のおずおずとした問いかけに
「俺はまだオジサンって年じゃないんだが……」
と呟く程度の余裕は、だがしかし、次の瞬間吹き飛んだ。
背後に人ならぬものの気配を感じた。
青年の肩越しにその正体を目撃してしまったのだろう少年の表情が固まった。
そして、少年の絶望に満ちた「ああ」という呻きが引き金となったかのように
事態は急展開した。
青年は少年を抱きかかえて即座に横跳び。
襲い掛かってきた鋭い牙を間一髪でかわした。
「うわっ?!」
少年から思わず悲鳴が漏れる。
「舌噛むぞ、黙ってな」
反射のように少年に注意する。
そして、少年を背に庇い襲い掛かってきたそのモノと対峙する青年。
それは、蜘蛛だった。
大きな大きな蜘蛛だった。
ありえないほど大きな蜘蛛だった。
大きいな。
蜘蛛を見た青年の感想はまずそれだった。
先ほど銅鏡でその姿形を確認していたから
蜘蛛の妖怪が侵入者であることはわかっていた。
ただ銅鏡の映像ではサイズの実感は伴わなかったから、
ここまで大きいとは思っても見なかった青年だった。
だからこそ彼の所感は単純なものにならざるを得なかった。
ただ、蜘蛛の妖怪でここまでの大きさのモノは初見であったが、
単純にでかい妖怪はこれまで何回か見ている青年だったので、
驚愕や恐れを持つほどではなかった。
しかも、ここはサッカーとかで言えば自分のホーム。
というか本当に自分ん家の庭なので、
招かれざる客は出て行ってもらわねばならない。
元々、そのために来たんだし。
ということで、青年は軽く溜息を吐きつつ、蜘蛛に視線を向けて、
「お宅、不法侵入者だよね」
と、態度と口調を強めにして切り出す。
背後にいる少年が身じろぎしたのを、
『まあ、ふつう人間は蜘蛛と会話しようとか言う発想自体
湧かないからびっくりするよなあ』
と感じつつ、目の前の蜘蛛が話のわかるやつだったら
いいなあとも一縷の期待を抱いた青年は、
「あのさ、ウチの神社に用事があるんなら正門から入ってくれば
別にかまわないんだけど。神社の裏山でこそこそされるほうが迷惑なんだよね」
と続ける。
すると蜘蛛から返答。
音としては、kiti kiti kitiという、何か硬い殻が擦れ合うような高音が
聞こえただけだが、青年の意識にははっきりとその妖怪の意思表示が感じとれた。
そして、感じ取れた青年はその言い分にあきれ返る。
「え、別に神社に用は無い?腹空いたから何か食わせろ?」
kiti kiti kiti
そして続く蜘蛛からの回答。
「狩の邪魔はするなって……。ここは君の縄張りじゃないだろ」
聞く耳を持たぬ内容に事実を返す青年。
kiti kiti kiti
だがかまわず蜘蛛は自らの主張を述べ続ける。
「ここ気に入った。今からオレの縄張り。手始めにそこの人間の子食わせろ
……って、ここは我が神社の裏庭!ウチの神域!なあ、人の話、聞いてた!?
最初に「ウチの神社」「神社の裏庭」って言ったよな、オレ。
お宅、ここがウチの縄張りだって分ってるよな!」
身勝手なその主張にブチ切れる青年。
『なんってこった、聞く耳持たない最悪のヤツが進入してきたのか!』
このまま、この蜘蛛の妖怪をのさばらして置くわけには行かなかった。
この領域には他にも妖怪が棲んでいるが、
それはウチの神社の了解と決まりを守る事を条件としている。
そうでなければ、こちらが神社で、どうしても人間との付き合いがあるいう性格上、
住み着いた妖怪を庇いきれないからだ。
そして、こいつのようにルールを無視するやつがいれば、
他の妖怪にもその影響が及ぶ可能性があるわけで……。
『うん、こいつには即刻ここから出て行ってもらわないと!』
そう即断した青年の背後で、「お、おじさん……」と、
怯えた声音で少年が呼びかける。青年はちらりと彼を見た。
ここに至っては、
先のこの蜘蛛の排除をしないとこの少年の安全も図れないが、
経験しなくてよければしないほうがよい非日常な争いの場に
少年を引きずり込んでしまうことに申し訳なさを感じ、
侘びにはならんなあと思いつつも、
「巻き込んじまって悪いが、ちょっと堪忍してくれ」
と断りを入れ、真っ青になった少年から視線を外しながら、
「事が済むまで、そこから動かないように」
と釘を刺す。
そして青年は、小声で少年に防御効果がある呪文をかけた後、
巨大な蜘蛛に対峙する。
「お宅に、最後通牒」
青年は蜘蛛へ冷酷を漂わせて問う。
「今すぐここから出て行くか、直ちにここから出て行くか、
とっととここから出て行くか、選べ」
劇憤したかのように襲い掛かる大蜘蛛。
それを見た青年は不敵な笑みを浮かべてぼそりと言い放つ。
「歯向かうというなら、おしおきあるのみ……」
青年が蜘蛛を挑発したのには意味があった。
それはこの地から確実にこの不遜な妖怪を追い出すための呪術に必要な手順。
術をかける相手がこの場の掟を破っているという事をつまびらかにするためのもの。
なぜなら彼がこれから放つ技は罪に対しての罰となるから。
青年は拳を握り締め、拳闘士宜しく腰を大きくひねって一撃を繰り出す構えを取る。
そして朗々とした声で言い放つ!
「カミナリオヤジのおおおおおおおおおお、ゲンコツうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
一見、不真面目で間抜けな名称の必殺技は、
だが、握り締められた青年の拳に光を纏わせ稲光を生み出す。
文字通り、まさしく雷親父の拳骨が出現、
光り輝く拳が巨大な蜘蛛の顔面を捉えた瞬間、その場は閃光で満たされる。
その術は単なる雷や稲妻を生み出すだけのものではない。
当然、それだけでもとてつもない破壊力を秘めてはいる。
だが、その真骨頂は決まりを破ったものに罰を与える強制力を
持っていることにある。
昔、「雷親父の拳骨」は決まりを破った子を親が叱る時に使われた。
それは決まりに従わないものを強制的に従わせる権威と暴力であり、
それを受けるものにとっての恐怖であった。
この術は、雷と相性が良い天狗の一族が生み出した、
掟を破る者へ罰をあたえるものなのである。
そして、青年が実家の庭ともいえるこの森の中で、はっきりと
即時の退去を求めたのは、明確な決まりごととなって大蜘蛛を縛り、
それを破ったかの妖怪は、強力な電撃で身を焼かれつつ、
罰に服することになったのだった。
七
ローカル放送のテレビニュースが、山中で遭難した少年の退院を
伝えてから一週間。
久しぶりに晴天に恵まれた平日の昼前、青年は自宅の居間で新聞を
広げ爪を切っていた。
横には彼の姉がちゃぶ台に置いた皿の中の落花生をほおばりながら
本を読んでいた。
本から目を離さずに彼女はぽつりと青年に尋ねる。
「そういや、今日は大学に行かないの?」
「今日はたまたま、午後遅くの講義しかないから、もう少ししたら行く」
「あ、そう」
「で、姉貴こそ、行かないでいいのか、大学?」
「用事があって、自主休校」
「……おい」
「用事、お母さんがらみなんだけど。なんなら交代する?」
露骨にいやな表情を浮かべながら吐き出された姉のその言葉を聴いて
青年はうんざりした。
母絡みということは、妖怪が関わってくる可能性が大きく、
しかも母の用事だと父から同じような頼まれごとをされた時より、
荒事になる確率が高いのだ。
平和主義者を標榜する彼としてはなるべく避けたい事態だった。
「そういや」
と、ふと気がついたかのように尋ねてくる姉。
「この前の裏山への不法侵入事件、結末を聞いていないような気が
するのだけれど、結局どうなったのよ」
「話してなかったっけ」
あれ、とばかり首をひねる青年。
「うん、あの頃は忙しくて事が片付いたとしか聞いていないとおもう。確か」
それならと、かいつまんで事のあらましを話し出す青年。
……雷親父の拳骨の威力は大蜘蛛に効果覿面だった。
甚大なエネルギーを宿した激しい雷電と禁忌を破った罰としての呪術の2つの
効果は巨大な妖怪をして抗うことが出来ぬものだった。
呪いとして全ての妖力を封ぜられ、雷を纏った拳骨の一撃を受けた大蜘蛛は、
その正体である女郎蜘蛛の姿を曝し、瀕死の状態で地面の転がったのだった。
「てか、それで死ななかったってところが、大妖怪たる所以かしら」
呆れを含みながら感想を述べる姉。
「元々懲罰の要素が強い術だから、妖怪だと早々死なないって聞いてるな。
ただ、普通の動物とか人間だと簡単に感電死するレベルの電圧がかかるらしいから
気をつけろとは言われているが」
「で、その蜘蛛はどうしたの、ちゃんとどっかへ捨ててきたんでしょうね」
険のある口調で問いただす姉。因みに姉は虫が嫌いだ。蜘蛛はもっと嫌いだ。
ここで口を濁す青年。
「いや、実はホントに瀕死で、このままだと死んじゃうっていう本人というか、
本虫?……の懇願もあったんで」
「……あったんで?」
「ウチにいます。つれて帰りました」
瞬間、ムンクの叫びのようになる姉。
「こ、この、馬鹿ッ!!なんてことすんのよっ!?」
「や、だって、あのまま、おっ死にでもしたら、寝覚め悪いし」
弁解する青年。因みに自己申告によれば青年は優しい性格である。
でも、よく考えたら姉には優しくない。
姉の嫌いなものを家の中に引き込んでくるなんて。
「こうなったら、家捜しよっ!」
「え、わざわざ?」
寝た子を起こすような事をしなくても……こっそりと心の中で反論する青年。
ただ、もう、このテンションの姉に何を言っても無駄なのは、
短い人生の中で十二分に知ったので、言葉にすることはないのだった。
「ええぃ、隠れてないで、出て来なさいっ!」
いきりだって周囲を見渡す姉。その瞳はまるで鷹の目のよう。
その探索は居間を離れて台所、各人の個室、風呂場、トイレと広がって
しまいには、神社の社務所まで広がっていく。
で、間の悪いことに社務所の縁側にノコノコは出だしてきた一匹の女郎蜘蛛。
渦中の人物、いや、人虫であった。
それを目聡く見つけた姉の第一声はこれ。
「ぎやあああああ、でたでたでたでた。翔ちゃん、何とかしてーーー」
だったら最初から探さなければいいのにと、溜息ばかりに一人ごちる青年。
ただ、ここに来て、一旦命を助けたモノを叩き殺すのもどうかと思い、
何かいい工夫はないかとあたりを見回したところで良い知恵も浮かばず、
とりあえずはと社務所の片隅に置いてあった天狗のお面を見つけて、
何もしないよりはましかとお面を手にとって、
鍋に蓋をするかのごとく縁側を闊歩する蜘蛛に被せてみたのだった。
「さあ、これで蜘蛛の姿は見えないぞ、姉貴」
「……な、なんの解決にもなっていないじゃん」
「とりあえず、姿が見えないモノは、いないモノと思い込め」
「えー……、その言い草って、あたし等妖怪に対する暴言のような……」
たしかに彼女の言うとおり、
姿が見えないことが存在しないことの証明になるのなら
姿を消すことが出来る妖怪は存在自体が否定されるので、
暴言といえば暴言だが
「それはそれ、これはこれ」
と言い張る青年であった。
「……いや、もういいわ。あたしこれからお母さんと合流するから、
帰ってくるまで何とかして。ただし、家で飼うのはだめだからね、絶対!」
子犬とか子猫を拾ってきた子供へきつくダメだしを言い渡す母親のように
宣言しつつ逃げるように家を出て行く姉。
後に残るは青年一人。
それと、縁側に青年が置いた天狗のお面とその中の蜘蛛一匹。
「やれやれ」
と、溜息をつきながら社務所を後にし、元来た道を戻る青年。
ほとぼりが冷めるまで、この女郎蜘蛛にはここでガマンしてもらうしかないか
と思いながら。
遠くから小鳥の囀る声が聞こえてくる静かな6月の晴れた昼前、
居間に戻った青年は、その真ん中にどっかと座り、途中だった爪切りを再開する。
暫くして切り終えた爪をゴミ箱に入れながら、
青年は縁側の天狗のお面に思いを馳せる。
そういえば、何で社務所にあんなものがあったんだろう?
首をかしげて記憶をたどる。が、何も浮かび上がらない。
「っと、ボツボツ出なきゃ、授業に遅れるな」
気がつくとすでに正午に近い時間となっている。
青年は大学へ向かうため自室へ荷物を取りにいく。
そしてそのまま外出する。
こうして、天狗の面とともに大蜘蛛の成れの果ては縁側に放置された。
正午を回って暫くの後、男性と女性、そして十歳ぐらいの男の子が
境内に入ってくる。
神主の迎えを受けて社務所へ入っていく客人たち。
男性と女性、すなわち神社の裏の山林で迷子になった少年の両親は、
少年本人をつれて第一発見者である神主に改めて御礼をしに来たのだった。
お礼を述べた後、社務所から出てきた少年は縁側に置いてある天狗の面をみて
表情をこわばらせ、その面を凝視する。
「おや、どうかしたのかい?」
神主の問いかけに、少年は天狗の面を指差して
「あの、これ……」
と、あいまいに返事を返す。
神主は、少年の返事よりより指差した先にあるものに驚いたようで、
「おや、何でこのお面がここに?」
思わず呟いていた。
「これ、天狗のお面ですよね」
「そうだよ、これは天狗のお面で、普段は神社の倉庫に仕舞ってあるんだが、
誰か出したのかなあ?」
少年に応えつつ、おかしいなあと呟きながら神主は面を拾って少年に挨拶する。
「それじゃ、気をつけて帰りなさい。ご両親もお待ちだよ」
神主さんの言葉に、少年はうつつに戻ってきたかのように目を瞬かせて、
父母を探すかのように、首を左右へ回す。
と同時に、鳥居へ向かって先に歩みを進めた両親がこちらを振り返って、
少年を呼ぶ声が聞こえる。
父母の声に少し慌てながら、少年は神主さんに
「さようなら」
と暇を告げて、両親の元へ急ぎ歩みだす。
その後ろ姿を見送って後、神主さんはお面に視線を向けて少し首をひねった後、
その場を立ち去っていく。
社務所の前に人影は絶え、辺りは再び静寂に包まれる。
縁側の天狗の面が置かれていた場に、腹を仰向けにして転がった一匹の女郎蜘蛛
を残して。
それから、一陣の風が吹いた。
蜘蛛は風に吹かれて飛んで行き、縁側から落ちて社務所に庭に転がっていく。
風が止んだとき蜘蛛は庭の隅にうつ伏せでまるで死んでいるかのように
動かなかった。
それは一見死骸のように見えた。
だが突然足がぴくりと動いた。
女郎蜘蛛は生きていた。
天狗の若い男と天狗の娘の突然の襲撃に見も心も凍るほどの恐怖と衝撃
を受けながら何とか生き残った。
女郎蜘蛛は考えた。
そして震える足を動かして何とか這い上がろうと蠢いた。
もういやだ、もういやだ、
こんなところにゃ居られない。このままじゃ殺される。
天狗の姉弟に殺される。
kiti kiti kiti kiti kiti kiti
思わず吐いた泣き言に
「えっ、誰に殺されるって」
こんな返答があるなんて全く想定していなかった蜘蛛にとって、
この状況は青天の霹靂だった。
いかに以下に瀕死の状態でも女郎蜘蛛は感じ取るべきだったのだ。
先ほどの一陣の風にわずかに天狗の妖力が混じっていた事を。
そして上空から音もなく一人の女人が舞い降りてきていた事を。
「社務所に商売道具の天狗面を忘れてきたから取りに戻ったら、
こういう場面に出くわすなんてねぇ……」
蜘蛛は視線を動かした。
そこには、自分の命を握る若い男と娘の母親たる、
そしてこの地の天狗の頭たる存在が笑みを浮かべて自分を見ていた。
女郎蜘蛛は震撼した。混乱した。そして恐怖した。
その笑みが悪魔の笑みに見えた。
殺される、殺される、殺される殺される!!
kiti kiti kitikiti
混乱したまま、かの蜘蛛は瀕死の状態だったのが嘘のように跳びはねて
その場から逃げ出した。
いきなりの反応に唖然とした母親天狗を残したまま。
……女郎蜘蛛は、二度と山なんかには行かない。
あの恐怖の天狗たちが住まう恐るべき昏い森のある山の中へなんて。
(完)
「で、君はなんでこんなところに?」
青年の呼びかけに岩に座って俯いていた少年が頭を上げる。
ポカンとしたその表情が少年の驚きを物語っていた。
こういう時は目線を同じ高さにすると相手が安心するとか
どこかで聞いたことがあるなあと思いつつ
青年はしゃがみ込んで少年と目線を合わせ、微笑を浮かべる。
「よかったら、俺に事情を話してくれないか」
頷いて自分の体験談を話し出した少年の説明を聞きながら、
青年は彼が間違いなく自分の探している迷子なのだと理解する。
それで思わず
「つまり君は迷子なのかい」
などと聞かなくてもいい事を口走ってしまい、
少年のプライドを刺激したりしてしまったが、
内心の「あ、失敗した」という思いを悟られないよう
なんでもないような表情で少年の頭にポンッと右手を乗せて
「まあ、心配することはない。大船に乗ったつもりでいろ」
などと言い放った。
まあ、実際ここは自分の家の裏庭なので、大船も小船もないものだが、
こんなとき大人が気楽に大口を叩けば子供は安心するだろうとの
計算もあっての発言ではあった。
「おじさん、帰り道わかるの?」
少年のおずおずとした問いかけに
「俺はまだオジサンって年じゃないんだが……」
と呟く程度の余裕は、だがしかし、次の瞬間吹き飛んだ。
背後に人ならぬものの気配を感じた。
青年の肩越しにその正体を目撃してしまったのだろう少年の表情が固まった。
そして、少年の絶望に満ちた「ああ」という呻きが引き金となったかのように
事態は急展開した。
青年は少年を抱きかかえて即座に横跳び。
襲い掛かってきた鋭い牙を間一髪でかわした。
「うわっ?!」
少年から思わず悲鳴が漏れる。
「舌噛むぞ、黙ってな」
反射のように少年に注意する。
そして、少年を背に庇い襲い掛かってきたそのモノと対峙する青年。
それは、蜘蛛だった。
大きな大きな蜘蛛だった。
ありえないほど大きな蜘蛛だった。
大きいな。
蜘蛛を見た青年の感想はまずそれだった。
先ほど銅鏡でその姿形を確認していたから
蜘蛛の妖怪が侵入者であることはわかっていた。
ただ銅鏡の映像ではサイズの実感は伴わなかったから、
ここまで大きいとは思っても見なかった青年だった。
だからこそ彼の所感は単純なものにならざるを得なかった。
ただ、蜘蛛の妖怪でここまでの大きさのモノは初見であったが、
単純にでかい妖怪はこれまで何回か見ている青年だったので、
驚愕や恐れを持つほどではなかった。
しかも、ここはサッカーとかで言えば自分のホーム。
というか本当に自分ん家の庭なので、
招かれざる客は出て行ってもらわねばならない。
元々、そのために来たんだし。
ということで、青年は軽く溜息を吐きつつ、蜘蛛に視線を向けて、
「お宅、不法侵入者だよね」
と、態度と口調を強めにして切り出す。
背後にいる少年が身じろぎしたのを、
『まあ、ふつう人間は蜘蛛と会話しようとか言う発想自体
湧かないからびっくりするよなあ』
と感じつつ、目の前の蜘蛛が話のわかるやつだったら
いいなあとも一縷の期待を抱いた青年は、
「あのさ、ウチの神社に用事があるんなら正門から入ってくれば
別にかまわないんだけど。神社の裏山でこそこそされるほうが迷惑なんだよね」
と続ける。
すると蜘蛛から返答。
音としては、kiti kiti kitiという、何か硬い殻が擦れ合うような高音が
聞こえただけだが、青年の意識にははっきりとその妖怪の意思表示が感じとれた。
そして、感じ取れた青年はその言い分にあきれ返る。
「え、別に神社に用は無い?腹空いたから何か食わせろ?」
kiti kiti kiti
そして続く蜘蛛からの回答。
「狩の邪魔はするなって……。ここは君の縄張りじゃないだろ」
聞く耳を持たぬ内容に事実を返す青年。
kiti kiti kiti
だがかまわず蜘蛛は自らの主張を述べ続ける。
「ここ気に入った。今からオレの縄張り。手始めにそこの人間の子食わせろ
……って、ここは我が神社の裏庭!ウチの神域!なあ、人の話、聞いてた!?
最初に「ウチの神社」「神社の裏庭」って言ったよな、オレ。
お宅、ここがウチの縄張りだって分ってるよな!」
身勝手なその主張にブチ切れる青年。
『なんってこった、聞く耳持たない最悪のヤツが進入してきたのか!』
このまま、この蜘蛛の妖怪をのさばらして置くわけには行かなかった。
この領域には他にも妖怪が棲んでいるが、
それはウチの神社の了解と決まりを守る事を条件としている。
そうでなければ、こちらが神社で、どうしても人間との付き合いがあるいう性格上、
住み着いた妖怪を庇いきれないからだ。
そして、こいつのようにルールを無視するやつがいれば、
他の妖怪にもその影響が及ぶ可能性があるわけで……。
『うん、こいつには即刻ここから出て行ってもらわないと!』
そう即断した青年の背後で、「お、おじさん……」と、
怯えた声音で少年が呼びかける。青年はちらりと彼を見た。
ここに至っては、
先のこの蜘蛛の排除をしないとこの少年の安全も図れないが、
経験しなくてよければしないほうがよい非日常な争いの場に
少年を引きずり込んでしまうことに申し訳なさを感じ、
侘びにはならんなあと思いつつも、
「巻き込んじまって悪いが、ちょっと堪忍してくれ」
と断りを入れ、真っ青になった少年から視線を外しながら、
「事が済むまで、そこから動かないように」
と釘を刺す。
そして青年は、小声で少年に防御効果がある呪文をかけた後、
巨大な蜘蛛に対峙する。
「お宅に、最後通牒」
青年は蜘蛛へ冷酷を漂わせて問う。
「今すぐここから出て行くか、直ちにここから出て行くか、
とっととここから出て行くか、選べ」
劇憤したかのように襲い掛かる大蜘蛛。
それを見た青年は不敵な笑みを浮かべてぼそりと言い放つ。
「歯向かうというなら、おしおきあるのみ……」
青年が蜘蛛を挑発したのには意味があった。
それはこの地から確実にこの不遜な妖怪を追い出すための呪術に必要な手順。
術をかける相手がこの場の掟を破っているという事をつまびらかにするためのもの。
なぜなら彼がこれから放つ技は罪に対しての罰となるから。
青年は拳を握り締め、拳闘士宜しく腰を大きくひねって一撃を繰り出す構えを取る。
そして朗々とした声で言い放つ!
「カミナリオヤジのおおおおおおおおおお、ゲンコツうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
一見、不真面目で間抜けな名称の必殺技は、
だが、握り締められた青年の拳に光を纏わせ稲光を生み出す。
文字通り、まさしく雷親父の拳骨が出現、
光り輝く拳が巨大な蜘蛛の顔面を捉えた瞬間、その場は閃光で満たされる。
その術は単なる雷や稲妻を生み出すだけのものではない。
当然、それだけでもとてつもない破壊力を秘めてはいる。
だが、その真骨頂は決まりを破ったものに罰を与える強制力を
持っていることにある。
昔、「雷親父の拳骨」は決まりを破った子を親が叱る時に使われた。
それは決まりに従わないものを強制的に従わせる権威と暴力であり、
それを受けるものにとっての恐怖であった。
この術は、雷と相性が良い天狗の一族が生み出した、
掟を破る者へ罰をあたえるものなのである。
そして、青年が実家の庭ともいえるこの森の中で、はっきりと
即時の退去を求めたのは、明確な決まりごととなって大蜘蛛を縛り、
それを破ったかの妖怪は、強力な電撃で身を焼かれつつ、
罰に服することになったのだった。
七
ローカル放送のテレビニュースが、山中で遭難した少年の退院を
伝えてから一週間。
久しぶりに晴天に恵まれた平日の昼前、青年は自宅の居間で新聞を
広げ爪を切っていた。
横には彼の姉がちゃぶ台に置いた皿の中の落花生をほおばりながら
本を読んでいた。
本から目を離さずに彼女はぽつりと青年に尋ねる。
「そういや、今日は大学に行かないの?」
「今日はたまたま、午後遅くの講義しかないから、もう少ししたら行く」
「あ、そう」
「で、姉貴こそ、行かないでいいのか、大学?」
「用事があって、自主休校」
「……おい」
「用事、お母さんがらみなんだけど。なんなら交代する?」
露骨にいやな表情を浮かべながら吐き出された姉のその言葉を聴いて
青年はうんざりした。
母絡みということは、妖怪が関わってくる可能性が大きく、
しかも母の用事だと父から同じような頼まれごとをされた時より、
荒事になる確率が高いのだ。
平和主義者を標榜する彼としてはなるべく避けたい事態だった。
「そういや」
と、ふと気がついたかのように尋ねてくる姉。
「この前の裏山への不法侵入事件、結末を聞いていないような気が
するのだけれど、結局どうなったのよ」
「話してなかったっけ」
あれ、とばかり首をひねる青年。
「うん、あの頃は忙しくて事が片付いたとしか聞いていないとおもう。確か」
それならと、かいつまんで事のあらましを話し出す青年。
……雷親父の拳骨の威力は大蜘蛛に効果覿面だった。
甚大なエネルギーを宿した激しい雷電と禁忌を破った罰としての呪術の2つの
効果は巨大な妖怪をして抗うことが出来ぬものだった。
呪いとして全ての妖力を封ぜられ、雷を纏った拳骨の一撃を受けた大蜘蛛は、
その正体である女郎蜘蛛の姿を曝し、瀕死の状態で地面の転がったのだった。
「てか、それで死ななかったってところが、大妖怪たる所以かしら」
呆れを含みながら感想を述べる姉。
「元々懲罰の要素が強い術だから、妖怪だと早々死なないって聞いてるな。
ただ、普通の動物とか人間だと簡単に感電死するレベルの電圧がかかるらしいから
気をつけろとは言われているが」
「で、その蜘蛛はどうしたの、ちゃんとどっかへ捨ててきたんでしょうね」
険のある口調で問いただす姉。因みに姉は虫が嫌いだ。蜘蛛はもっと嫌いだ。
ここで口を濁す青年。
「いや、実はホントに瀕死で、このままだと死んじゃうっていう本人というか、
本虫?……の懇願もあったんで」
「……あったんで?」
「ウチにいます。つれて帰りました」
瞬間、ムンクの叫びのようになる姉。
「こ、この、馬鹿ッ!!なんてことすんのよっ!?」
「や、だって、あのまま、おっ死にでもしたら、寝覚め悪いし」
弁解する青年。因みに自己申告によれば青年は優しい性格である。
でも、よく考えたら姉には優しくない。
姉の嫌いなものを家の中に引き込んでくるなんて。
「こうなったら、家捜しよっ!」
「え、わざわざ?」
寝た子を起こすような事をしなくても……こっそりと心の中で反論する青年。
ただ、もう、このテンションの姉に何を言っても無駄なのは、
短い人生の中で十二分に知ったので、言葉にすることはないのだった。
「ええぃ、隠れてないで、出て来なさいっ!」
いきりだって周囲を見渡す姉。その瞳はまるで鷹の目のよう。
その探索は居間を離れて台所、各人の個室、風呂場、トイレと広がって
しまいには、神社の社務所まで広がっていく。
で、間の悪いことに社務所の縁側にノコノコは出だしてきた一匹の女郎蜘蛛。
渦中の人物、いや、人虫であった。
それを目聡く見つけた姉の第一声はこれ。
「ぎやあああああ、でたでたでたでた。翔ちゃん、何とかしてーーー」
だったら最初から探さなければいいのにと、溜息ばかりに一人ごちる青年。
ただ、ここに来て、一旦命を助けたモノを叩き殺すのもどうかと思い、
何かいい工夫はないかとあたりを見回したところで良い知恵も浮かばず、
とりあえずはと社務所の片隅に置いてあった天狗のお面を見つけて、
何もしないよりはましかとお面を手にとって、
鍋に蓋をするかのごとく縁側を闊歩する蜘蛛に被せてみたのだった。
「さあ、これで蜘蛛の姿は見えないぞ、姉貴」
「……な、なんの解決にもなっていないじゃん」
「とりあえず、姿が見えないモノは、いないモノと思い込め」
「えー……、その言い草って、あたし等妖怪に対する暴言のような……」
たしかに彼女の言うとおり、
姿が見えないことが存在しないことの証明になるのなら
姿を消すことが出来る妖怪は存在自体が否定されるので、
暴言といえば暴言だが
「それはそれ、これはこれ」
と言い張る青年であった。
「……いや、もういいわ。あたしこれからお母さんと合流するから、
帰ってくるまで何とかして。ただし、家で飼うのはだめだからね、絶対!」
子犬とか子猫を拾ってきた子供へきつくダメだしを言い渡す母親のように
宣言しつつ逃げるように家を出て行く姉。
後に残るは青年一人。
それと、縁側に青年が置いた天狗のお面とその中の蜘蛛一匹。
「やれやれ」
と、溜息をつきながら社務所を後にし、元来た道を戻る青年。
ほとぼりが冷めるまで、この女郎蜘蛛にはここでガマンしてもらうしかないか
と思いながら。
遠くから小鳥の囀る声が聞こえてくる静かな6月の晴れた昼前、
居間に戻った青年は、その真ん中にどっかと座り、途中だった爪切りを再開する。
暫くして切り終えた爪をゴミ箱に入れながら、
青年は縁側の天狗のお面に思いを馳せる。
そういえば、何で社務所にあんなものがあったんだろう?
首をかしげて記憶をたどる。が、何も浮かび上がらない。
「っと、ボツボツ出なきゃ、授業に遅れるな」
気がつくとすでに正午に近い時間となっている。
青年は大学へ向かうため自室へ荷物を取りにいく。
そしてそのまま外出する。
こうして、天狗の面とともに大蜘蛛の成れの果ては縁側に放置された。
正午を回って暫くの後、男性と女性、そして十歳ぐらいの男の子が
境内に入ってくる。
神主の迎えを受けて社務所へ入っていく客人たち。
男性と女性、すなわち神社の裏の山林で迷子になった少年の両親は、
少年本人をつれて第一発見者である神主に改めて御礼をしに来たのだった。
お礼を述べた後、社務所から出てきた少年は縁側に置いてある天狗の面をみて
表情をこわばらせ、その面を凝視する。
「おや、どうかしたのかい?」
神主の問いかけに、少年は天狗の面を指差して
「あの、これ……」
と、あいまいに返事を返す。
神主は、少年の返事よりより指差した先にあるものに驚いたようで、
「おや、何でこのお面がここに?」
思わず呟いていた。
「これ、天狗のお面ですよね」
「そうだよ、これは天狗のお面で、普段は神社の倉庫に仕舞ってあるんだが、
誰か出したのかなあ?」
少年に応えつつ、おかしいなあと呟きながら神主は面を拾って少年に挨拶する。
「それじゃ、気をつけて帰りなさい。ご両親もお待ちだよ」
神主さんの言葉に、少年はうつつに戻ってきたかのように目を瞬かせて、
父母を探すかのように、首を左右へ回す。
と同時に、鳥居へ向かって先に歩みを進めた両親がこちらを振り返って、
少年を呼ぶ声が聞こえる。
父母の声に少し慌てながら、少年は神主さんに
「さようなら」
と暇を告げて、両親の元へ急ぎ歩みだす。
その後ろ姿を見送って後、神主さんはお面に視線を向けて少し首をひねった後、
その場を立ち去っていく。
社務所の前に人影は絶え、辺りは再び静寂に包まれる。
縁側の天狗の面が置かれていた場に、腹を仰向けにして転がった一匹の女郎蜘蛛
を残して。
それから、一陣の風が吹いた。
蜘蛛は風に吹かれて飛んで行き、縁側から落ちて社務所に庭に転がっていく。
風が止んだとき蜘蛛は庭の隅にうつ伏せでまるで死んでいるかのように
動かなかった。
それは一見死骸のように見えた。
だが突然足がぴくりと動いた。
女郎蜘蛛は生きていた。
天狗の若い男と天狗の娘の突然の襲撃に見も心も凍るほどの恐怖と衝撃
を受けながら何とか生き残った。
女郎蜘蛛は考えた。
そして震える足を動かして何とか這い上がろうと蠢いた。
もういやだ、もういやだ、
こんなところにゃ居られない。このままじゃ殺される。
天狗の姉弟に殺される。
kiti kiti kiti kiti kiti kiti
思わず吐いた泣き言に
「えっ、誰に殺されるって」
こんな返答があるなんて全く想定していなかった蜘蛛にとって、
この状況は青天の霹靂だった。
いかに以下に瀕死の状態でも女郎蜘蛛は感じ取るべきだったのだ。
先ほどの一陣の風にわずかに天狗の妖力が混じっていた事を。
そして上空から音もなく一人の女人が舞い降りてきていた事を。
「社務所に商売道具の天狗面を忘れてきたから取りに戻ったら、
こういう場面に出くわすなんてねぇ……」
蜘蛛は視線を動かした。
そこには、自分の命を握る若い男と娘の母親たる、
そしてこの地の天狗の頭たる存在が笑みを浮かべて自分を見ていた。
女郎蜘蛛は震撼した。混乱した。そして恐怖した。
その笑みが悪魔の笑みに見えた。
殺される、殺される、殺される殺される!!
kiti kiti kitikiti
混乱したまま、かの蜘蛛は瀕死の状態だったのが嘘のように跳びはねて
その場から逃げ出した。
いきなりの反応に唖然とした母親天狗を残したまま。
……女郎蜘蛛は、二度と山なんかには行かない。
あの恐怖の天狗たちが住まう恐るべき昏い森のある山の中へなんて。
(完)
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