本当は、やめてほしくなかった

さい

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1章

12.変わらないこと

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 「た…」
   

  (……)


 「ぅた…」


  (……)


 「ゆうた…」

 誰かが、僕の名前を呼んでいる。ゆうたと、呼んでくれている。誰だろうか。怜なのか? いや、女の声だ。温かく、優しい声。しかし、あまりにも弱々しい声。優しいだけの声。

 「だから届かないんだよ、母さん」

 「優しいだけじゃ、ダメなんだ」

 ♢♢♢

 「悠太、起きて!!」

 「悠太!!」

 霞は悠太の頬を何度か叩いて、無理矢理にでも起こそうとする。もう10分も待たせているのだ。もちろんその分が料金に加算されるわけだが…

 しかし、悠太はなぜか一向に起きようとしない。霞は仕方なく、運転手の力を借りて、家の中にまで運んでもらうことにした。
 部屋のベッドに運ばれている間にも、悠太は起きなかった。ここまで深く眠ってしまって本当に大丈夫なのかと、霞はそろそろ心配になった。

 「本当に助かりました」

 「いいえ、これも仕事のうちですから」

 「夜中にお客さん乗せると、酔っ払ってて、全然起きないとかザラにありますよ」

 「そうなんですね」

 「じゃあ、失礼します」

 「ありがとうございました」

 運転手が出ていくと、施錠をし、急いで悠太の様子を見に行った。まだ寝ているのだと思っていたので、ノックはせず、そっと閉まっているドアを開けて部屋に入った。しかし悠太は起きていた。起きていて、全身鏡の前に、裸になって立っていた。悠太の体中の痣と、ペニスが先に目に入った。

 「起きてたの…ごめん」

 と言って、慌ててそのまま出で行こうとすると、

 悠太は「ううん。いいんだ。シャワー浴びてくる」と言って、霞の立っている方に歩いてきた。

 「大丈夫?」

 と、霞は聞くが、悠太は「うん」と、答えるだけで、霞を通り過ぎ、先に部屋から出ていった。今はそっとしてあげるべきなんだと、霞は思った。

 ♢♢♢

 悠太はシャワーを浴びながら、これからどうするべきかと考え始めた。38度のちょうどいい水温が気持ちいい。

 「今日は、休んだ方が良さそうだ。眠くてしょうがない」

 「明日から、学校に行くとして…それから怜と何を話せばいいんだろう」

 「僕は、一体何がしたいんだ」

 悠太はそれについてしばらく考えていた。

 「僕は、怜のことが好きだ。だから、これからもずっと一緒にいたいと思ってる。でも優しいだけの怜なんて、考えたこともないんだ」

 「先生は、怜が僕のことを好きになったから、優しくなったのだと言った。だからなんだ? 優しくなった彼を受け入れろって言うのか? いい機会だって? ふざけんじゃねえ!! みんな勝手なことばかり…」

 「怜は、変わってなんかいない。変わることを求められすぎていて、変わるべきだと勘違いしているだけなんだ」

 「それこそ間違っている」

 「僕は知ってたんだ。最初から、怜は、色んなことに億劫になっていたことを。それについて話せばいい。怜は変わるべきじゃないって、言ってあげるんだ。無理して変わろうとしなくていいって、僕が、全部受け止めてあげるからって、言ってあげるんだ。怜は間違ってなんかいない。僕が、その全てを受け入れてあげさえすれば、怜は、怜のままでいられるんだ」

 「怜、お前は生粋のドSなんだ…そうだろう? それは、変わろうとして変わるもんじゃない。ただお前が苦しむだけなんだ」

 


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