もののけの森 美貌の孤児は呪われた怪物に愛される

遠間千早

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閑話 ロイとノクスのほのぼの生活①

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※ロイ九歳ごろ。森に来て少し経った頃の話



「ノクス、沢の向こうに狐がいるよ」

 朝、蒸したお芋をもらって、沢で作業しているノクスの隣に座って食べていたら、向こう岸に狐が数匹集まっているのを見つけた。
 魚の血抜きをして鱗を洗っていたノクスが黒い霧をくるんと回して、手を止める。

「時々たぬきとか、兎も来てる気がする。みんなこっち見てるけど、何かご用なのかな」

 首を傾げたら、ノクスが魚を岸に置いて立ち上がり、斜面を上って小屋の方に消えた。
 すぐに戻ってきたノクスの手には野菜がいくつか握られている。

「野菜? 僕が食べなかったやつ?」

 見ると野菜はどれも芯の部分や茎のあるところで、少し芽が出て食べられなくなった芋もある。
 それをノクスはぽいっと沢の向こうに投げた。
 狐がわっと集まって、それをむしゃむしゃ食べ始める。

「もしかして、今まで食べなかった野菜は動物にあげてたの?」

 くるくる

 ロイがここに来るまで、ノクスは何故か自分が食べることのない野菜を畑で育てていた。
 よく考えたら、そのまま放っておいても腐ってしまうし、収穫しても食べないなら捨てていたんだろう。そう思っていたが、それを沢の向こうに来る動物達に分けていたのだとわかって納得した。時々ここに来る動物は、お裾分けを待っていたのだ。

「だからみんな、こっちをじーっと見てたんだ。じゃぁ僕が野菜を食べるようになったから、あの子達の取り分が減っちゃったね」

 お腹を空かせているかな、と申し訳ないような気持ちになったら、ノクスが腰に側腕を巻きつけてきて抱き上げられた。
 もう片方の手が伸びてきて、大きな手のひらには小屋の裏にある木から採れたさくらんぼの実がいくつか握られている。

「小屋から持ってきてくれたの? ありがとう」

 動物のことは気にするな、と言われている気がして、さくらんぼを摘んで口に入れた。

「美味しいね。あのね、僕は一人で畑の野菜も裏の木の果物も全部食べられないから、これからも動物にあげてね」

 くるくる

 そこで今までの食糧事情を思い返したら、小屋の裏で飼っている鶏のことにも気づいた。
 そういえばノクスはこの前、夕ご飯に鶏肉を焼いてくれたけど、柔らかい足の部分をロイにくれて、残りはどこかに持って行って捨てていた。
 鶏は卵も産むから、毎日ゆで卵にしてロイの朝ご飯になっている。でもノクスだけで暮らしていたときはもちろん無駄になるはずだ。
 多分、不要な卵とか、増えすぎて間引いた鶏は蛇とか熊とか、狼が来て持って帰っているのかもしれない。ノクスが沢の近くの森で何かを捨てているのを見たことがあるけど、後で見に行くとみんな綺麗に消えている。

「狼とか熊は小屋の方には来ないのかな。ちょっと怖いかも……」

 何も考えずに暮らしていたけど、夜に熊や狼が小屋の前をうろうろしていたらと思うと少し怖くなった。ぽつりと呟いたら、ノクスはロイを抱き上げたまま沢を指差す。
 沢の流れに沿って少し歩き、小屋のずっと手前の木々の前まで指を差し、黒い鋏をガチガチさせた。次に沢の向こうにいる狐を指差し、川のこちら側を指差すと、鋏をガチガチさせる。

「この沢を越えては来ないってこと? 熊も狼も丘の手前まで?」

 くるくる

 そうだ、と言うように黒い霧が勢いよく回る。平たい手のひらが頭を撫でてきて、安心しなさいと言っているように感じた。

「よかった。じゃあ安心だね」

 にこっと笑って、また差し出されたさくらんぼを口に入れた。

 ノクスが動物達とルールを作っていると知って安心した。食べ終わって眠くなると、鎧を外したノクスが沢の傍に座るので、ふかふかの黒い毛に顔を埋めて、一緒に日向ぼっこする。
 今日の夜ご飯は焼き魚だな、楽しみだな。と思いながら、ノクスの暖かな胸からお日様の匂いを感じて微睡んだ。

 ちなみに、畑を荒らす狸や狐が現れたり、熊や狼が領域を侵して小屋の方に侵入しようとすると、ノクスは即座に気づいて容赦なく屠っているらしい。
 実は、小屋の裏にある倉庫の中には、近づくなの警告のために使う熊や狼の頭蓋骨が山になって積み上がっているのだった。

 けれども、ロイがその事実を知るのは、もう少し大きくなってから。
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