もののけの森 美貌の孤児は呪われた怪物に愛される

遠間千早

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十一話 町へ行こう・再挑戦 前

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 それから二年、またノクスとのんびり暮らした。
 あのとき買った鋏や針は大活躍して、小屋にあった服をいくつか自分の大きさに直して着ることができた。サンダルもいまだに重宝している。
 塩は大事に使っているからまだあるけど、もうほんの少しだ。
 十五歳になったら、背が伸びて声も少し低くなった。見上げるほどに高かったノクスの胸の辺りまで、もう目線が近づいている。

「ノクス、最近なんだか風が強いような気がしない?」

 小屋の外に服を干しながら声を出したら、テーブルの上に鶏肉と芋の煮込みスープを置いていたノクスが振り向いた。

「気のせいかな。嵐がくる季節でもないのに」

 首を傾げたら、ノクスはわずかに胸を逸らし、上を見上げるようなそぶりをした。それからロイの方に身体を向けて、黒い霧をくるくると回した。

「ノクスもそう思う? 外に出られなくなる前に、町に行ってみようかな……」

 二年経って、もう一度町に行こうと思うようになった。
 もう見た目は子供に見えない。背も伸びたし、肩幅も大きくなった。言いがかりをつけられるような小さな身体ではなくなったから、たとえ二年前の姿を覚えていても、ロイだとはわからないだろう。買い物をするだけならきっと問題ない。

「寒くなる前に毛皮を売ってみようかと思って」

 ノクスは森で魔物や獣を狩ってくる。
 いつも食べない部分は森の中に返して獣達の食糧になっているが、最近は綺麗な毛皮や丈夫そうな外皮を剥いでもらうようにしている。

「市にはあまり毛皮は売ってなかったけど、買い取ってくれるお店はあると思うんだ。そしたら冬に着る服と、食料が手に入る」

 声に出しながら、自分の気持ちを整えて奮い立たせる。
 ノクスがいれば冬にも飢えることはないけど、保存できる食糧があるなら、あるにこしたことはない。それに、町に行けば今度こそ砂糖が買える。

「だから……ふわっ!」

 木の棒に干した服が風ではためくのを見ていたら、突然身体が浮いた。
 驚いてノクスを見ると、側腕に腰を持たれて持ち上げられていた。するすると引き寄せられて、ノクスに抱き上げられる。

「心配してるの? もう僕大丈夫だよ。それに髪も切ってもらったから、女の子と間違われたりしない」

 長かった髪は、ノクスに整えてもらうようになった。ノクスは意外と器用で、長い指を自在に動かして鋏を操っている。うなじまで見えて短くなった髪は軽くて、洗いやすいから気に入っている。
 最初に長かった髪を切ったときは、燃料にでもしようと思ったが、ノクスがほしいと訴えてきたので渡したら、どこかに持っていってしまった。どこかに秘密の収納庫があるんだろうか。小さくなってしまった服も、燃やそうとすると横から摘んで持っていってしまう。
 町に行くと言った途端に心配そうにうごうごと蠢いている側腕を撫でて、笑いかけた。

「また影の中に入って、ノクスもついてきて。一緒に行こう」

 そう言ったらもう反対するつもりはないのか、ノクスは黒い霧をくるくる回して同意した。
 帯状になった霧がすうっと近づいてきて、ロイの額をなぞる。くるりと顔の周りを一周した霧に微笑んで口を開けると、霧が口の中まで入ってきて舌と顎をするりと撫でてきた。

「ん……」

 湿った霧の粒が口内を蠢いて、舌の表面をするすると擦ってくる。その霧が出ていく前にぱくりと口を閉じた。

「んく」

 ごくんと飲み込む。
 ノクスの霧が喉を通ると、身体の中に何かが溶け込んでいく気がする。不思議な高揚感と、理由はわからないけどお腹の中が甘く捩れるような感覚。
 最近ノクスはよくロイの顔に霧を当てる。口を開けて迎え入れてあげると尾を振って喜ぶ。それが可愛くて、ノクスの黒い霧と戯れているともっと、と思う気持ちがどこからか湧いてくる。もっとどうしたいのか、自分でもわからないのだけど。

「行ってみよう、大丈夫だから」

 ロイを傷つけないように丸くなることを覚えた指先を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
 ノクスがいれば何も怖いことはないと知っている。子供の腕には大きかった腕輪は、今ぴったりのサイズになった。
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