2 / 31
二話 青い目の男の子と森の怪物 後
しおりを挟む
ロイの声を聞いて、怪物は頭部にある黒い霧を一瞬さざめかせた。波打つ霧の粒が波を打つように揺れ、そしてまた薙いだ水面のように広がる。
怪物の手が動いた。鋏ではなく、細い方の腕が持ち上がり、ロイに伸びてくる。
掴まれて、絞め殺されるかもしれない。そう思って身体が強張ったが、その腕はゆっくりと、どこか恐る恐るというようにロイの胴に巻き付いた。
腕に触れた怪物の肌は艶のある黒い短毛で覆われている。それは思いの外柔らかかった。
「……」
怪物は何も話さない。口がないからそもそも声なんてないのか。
黒い霧を見つめていると、足がふわりと地面から浮いた。
持ち上げられて、慎重な動きで蠢く腕に身体を引き寄せられる。気づけば両腕でふんわりと抱き上げられていた。
「?」
怪物の動作はひどく丁寧で、恭しいといってもいい。
「食べるんじゃないの?」
大事なものを抱えるように胸元に抱き上げられて、ぽつりと声が漏れた。
二の腕に鎧が触れてひやりとしたが、ロイに巻き付く怪物の細い腕は意外にも暖かい。鋭く尖った指先が当たらないように慎重に抱えられていることに気づき、首を傾げた。
怪物の上に漂う黒い霧を見つめると、ロイの問いにくるくると霧の粒が動いて揺れる。細く帯状になった霧が伸びてきて、矢の刺さった肩に集まってきて触れた。
霧に包まれた矢がくっと動いたとき、鋭い痛みが身体を貫いた。
「うあっ」
ぎゅっと強張って身体を丸めたら、黒い霧はザアッと波打って広がり、腰に巻き付いている細い腕が慌てたようにうごうごと蠢いた。
広がった鋏が小刻みに開閉し、カチカチと小さく音を立てる。と思ったら怪物はロイを抱えたままビュンッと跳躍した。
下半身はあまり判別できていなかったが、ちゃんと足があるらしい。走り始めたら飛ぶような速さで木々の間を駆け抜けていく。真っ暗な闇の中を、怪物は障害物を容易く避けながら猛烈な勢いで疾走した。
冷たい風が頬を撫でて身を縮めると、大きな鋏が前に出てきて風避けになる。まるでロイを守るように。
どういうこと?
どこに連れていくの?
そう思ったけれど、怪物に抱えられて胸に抱き込まれたら、何故かそこまでの恐れを感じなかった。
その代わりに肩の痛みが増して、毒が回っているのか、次第に口の中もピリピリしてくる。
怪物に食べられなくても、このまま死んじゃうのかなぁ。
闇の中で気がつかなかったけれど、もう目がよく見えない。薄れていく視界の中で残念だなと思った。
どうせならもう少し、この怪物のことを観察してみたかった。
ぐったりと力を抜いたら、黒い霧が顔の周りに集まってきた。口に触れた霧の粒を吸い込む。特に味はしないし、湿った水蒸気が口の中に広がるような感覚を覚える。
吸い込んだ怪物の霧はどうなるんだろう。
そんなことを考えながら、眠るように意識を手放した。
怪物の手が動いた。鋏ではなく、細い方の腕が持ち上がり、ロイに伸びてくる。
掴まれて、絞め殺されるかもしれない。そう思って身体が強張ったが、その腕はゆっくりと、どこか恐る恐るというようにロイの胴に巻き付いた。
腕に触れた怪物の肌は艶のある黒い短毛で覆われている。それは思いの外柔らかかった。
「……」
怪物は何も話さない。口がないからそもそも声なんてないのか。
黒い霧を見つめていると、足がふわりと地面から浮いた。
持ち上げられて、慎重な動きで蠢く腕に身体を引き寄せられる。気づけば両腕でふんわりと抱き上げられていた。
「?」
怪物の動作はひどく丁寧で、恭しいといってもいい。
「食べるんじゃないの?」
大事なものを抱えるように胸元に抱き上げられて、ぽつりと声が漏れた。
二の腕に鎧が触れてひやりとしたが、ロイに巻き付く怪物の細い腕は意外にも暖かい。鋭く尖った指先が当たらないように慎重に抱えられていることに気づき、首を傾げた。
怪物の上に漂う黒い霧を見つめると、ロイの問いにくるくると霧の粒が動いて揺れる。細く帯状になった霧が伸びてきて、矢の刺さった肩に集まってきて触れた。
霧に包まれた矢がくっと動いたとき、鋭い痛みが身体を貫いた。
「うあっ」
ぎゅっと強張って身体を丸めたら、黒い霧はザアッと波打って広がり、腰に巻き付いている細い腕が慌てたようにうごうごと蠢いた。
広がった鋏が小刻みに開閉し、カチカチと小さく音を立てる。と思ったら怪物はロイを抱えたままビュンッと跳躍した。
下半身はあまり判別できていなかったが、ちゃんと足があるらしい。走り始めたら飛ぶような速さで木々の間を駆け抜けていく。真っ暗な闇の中を、怪物は障害物を容易く避けながら猛烈な勢いで疾走した。
冷たい風が頬を撫でて身を縮めると、大きな鋏が前に出てきて風避けになる。まるでロイを守るように。
どういうこと?
どこに連れていくの?
そう思ったけれど、怪物に抱えられて胸に抱き込まれたら、何故かそこまでの恐れを感じなかった。
その代わりに肩の痛みが増して、毒が回っているのか、次第に口の中もピリピリしてくる。
怪物に食べられなくても、このまま死んじゃうのかなぁ。
闇の中で気がつかなかったけれど、もう目がよく見えない。薄れていく視界の中で残念だなと思った。
どうせならもう少し、この怪物のことを観察してみたかった。
ぐったりと力を抜いたら、黒い霧が顔の周りに集まってきた。口に触れた霧の粒を吸い込む。特に味はしないし、湿った水蒸気が口の中に広がるような感覚を覚える。
吸い込んだ怪物の霧はどうなるんだろう。
そんなことを考えながら、眠るように意識を手放した。
400
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。
異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった
カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。
ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。
俺、いつ死んだの?!
死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。
男なのに悪役令嬢ってどういうこと?
乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。
ゆっくり更新していく予定です。
設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる