もののけの森 美貌の孤児は呪われた怪物に愛される

遠間千早

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十八話 時を告げる訪ね人 前

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 ◇


 アムとの友情は、それからもちゃんと続いた。
 約束通り熊の毛皮でブーツを作ってもらったから、冬が来て履けるのを楽しみにしている。
 防具の方も無事完成したらしい。夏が過ぎて秋が来る頃には、アムが作った腕当てが隣町の兵士の間で評判になったようで、それから何度か倉庫に眠っている狼や狐の毛皮を提供した。

 涼しくなってきた日の朝、いつものように町に来てアムの店に向かうと、扉を開ける前にアムが表に出てきて、腕を掴まれた。

「? どうしたの?」
「こっち」

 いつもよりも険しい顔をしている友人に気づき、言われるままに路地裏に入る。

「今店に来てる奴が変なこと言ってたんだ。中からロイの姿が見えたから、鉢合わせないように適当な理由をつけて出てきた」
「変なこと?」
「探してる人がいるって言ってる。金髪で青い目の、腕輪を持った男だって」

 それを聞いて思わず店のある通りの方を見た。
 今日も帽子を深く被っている。店の中からはロイの外見は見えなかっただろう。

「金髪で青い目? どこの人?」
「それがな、神殿関係者らしい」
「神殿? なら探してるのは僕じゃないよ。金髪に青い目なら、貴族でしょう。そんな人達に探されるようなこと、身に覚えがないし」
「だよな。でも腕輪ってところが気になったんだ」

 夏に薄着になったとき、ロイの手首についている銀の腕輪は見られているので、アムにはバレている。経緯は話していないが、腕輪は大事なものだと話した。

「貴族なら、腕輪くらい……」
「うん。そう思ったけど、今日は念のため森に帰れ。それで二週間くらい経ってほとぼりが冷めたらまた来ればいい」

 警戒し過ぎだと思ったが、素直に頷いた。

「大丈夫になったら森の木にメッセージを貼るから。それまでに俺もどういう話なのか、状況を確かめておく」
「わかった。アムも気をつけてね」

 神殿関係者なんて初めて聞くから、一体なんの用事があって来たのか知らないけど、思い当たることも、面識もない。
 平民の中で金髪に青い目のロイがいたら目立つかもしれないが、貴族ならいたって普通の色だ。
 腕輪というのが気になるが、ロイが持っているものとは関係ないだろう。

 疑問は感じたが、その日はアムのアドバイスに従って何も買わずに帰った。
 




 アムからのメッセージは、なかなか来なかった。
 一月ほど待って、本格的に寒くなってきた頃、ノクスが森の入り口の木にピンで留められていた紙に気づいた。

「アムからの連絡だ」

 小屋まで持ってきてくれたノクスにお礼を言ってカードの裏を見てみると、アムの字で『もう大丈夫だと思う』と書かれている。
 ほっとして肩の力を抜いた。

「よかった。もういいって。ノクス、明日町に行こう。そろそろ冬の食糧も買い込まなきゃ」

 くるくると、ノクスの霧は回る。
 その日は翌日買ってくるもののリストを作ったり、アムにお裾分けするために畑から人参や芋を収穫した。

 
 次の日、朝早くに森から出発した。
 ノクスは影の中に入ってもらって、いつものように町までの街道を歩く。空がまだ薄暗いから、他に人はいない。
 町の門が開いた頃に無事到着して、まず真っ直ぐにアムの店に向かった。

「こんなに早いと、アムはまだ寝てるかもね」

 個人店の営業は、朝の開店は店主の気分によるところが大きい。もし店の扉が開いていなければ裏口から入っていいと鍵を渡されているけれど、まだ使ったことはなかった。

「それとも、パン屋に朝ごはんのパンを買いに行った方がいいかな」

 アムのことだから、昨日のうちにロイが食べる分も買っておいてくれている気もする。
 買いすぎたら食べきれないか、と思いとりあえず店の前に来た。やっぱりまだ扉は閉まっている。久しぶりに町に来たから気分が高揚していて、裏口から入ってみようという気になった。普段なら人の家に入るなんてと気後れするが、今日はできる気がする。
 路地裏の細い道に入り、店の裏手に回った。
 すると、進行方向にパン屋の袋を持ったアムの背中が見えた。裏口の扉の前で、黒い外套を着た誰かと話している。

「アム、おはよう」

 気づいてもらおうと声をかけたら、こっちをぎょっと振り返ったアムが怖い顔で叫んだ。

「来るな!」
「えっ?」

 びっくりして思わず立ち止まる。
 後ろから複数の足音が響いた。ハッと振り向いたら、黒い外套を着た大柄の男が五人、狭い路地の中で自分の周りを取り囲むところだった。

「ノクス」

 後退って、咄嗟に口から声が漏れた。ロイの声に反応したノクスの巨躯が影の中からしゅる、と浮かび上がる。
 薄暗い路地裏に聳えるように現れたノクスに、男達がどよめいた。

「おおお……!」

 興奮を抑えるようなその声を聞いてびくっとする。
 ロイを引き寄せて腕に隠したノクスが、警戒して鋏を大きく広げ、ガチガチと音を鳴らした。それを目にした男達がまた感嘆の声を漏らす。

「これはまさしく、愛し子様」

 誰かがそう呟いた。
 愛し子様?
 困惑顔でアムを見たら、アムも男達を見回して眉を顰めている。

「愛し子様、我々にあなたを害そうという意図はありません。どうか我らの話をお聞きください」

 一人の男が進み出てきて、ロイの前に膝をついた。

「……?」

 ますます困惑して周りを見回すと、男達は次々と膝を折ってロイを拝んでくる。

「アム、この人達、なに?」
「俺もわからない。多分だけど、俺が昨日森にメッセージを置きに行ったのを見られてたのかもしれない。さっきパン屋から帰ってきたときに突然話しかけられて、金髪に青い目の人間に会わせてほしいって言われた」
「この前来た神殿っていうところの人?」

 一月前に訪ねてきたという人達だろうか。
 首を傾げると、ロイの前で膝をついた壮年の男が顔を上げて首を横に振った。

「我らは神殿の人間ではありません。その昔、この土地を治めていたと伝えられている、とある一族の血を引く流民です。森の愛し子様、あなたをずっと探していました」
「僕を?」

 突然探していたと言われても、戸惑ってしまう。
 一体何なんだろうか。
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