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閑話 ロイのノクスのほのぼの生活③
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※十四話の後くらい。ロイ15歳。
「おはよう、アム」
「おはよう、ロイ。今日はいいものがある」
「え? なに?」
朝、アムの店に遊びに来たら、店の作業台にパンを置いて準備していたアムが振り返った。
にこやかに台の上を指差すアムに近寄って見てみると、いつもコーヒーが入っているカップの中には、黄色い液体が入っていた。
「これ何?」
「リンゴジュース」
「りんごじゅーす」
ジュースという単語が耳慣れずに首を傾げると、アムは笑ってカップを手渡してくれた。
「リンゴを絞って、飲み物にしてあるんだ。甘くて美味しいよ」
「絞って?」
目を丸くしてカップの中を覗いた。
匂いを嗅いでみると、確かに甘い香りがする。
「リンゴを潰しちゃうなんて、ぜいたくだね」
「この前の嵐でリンゴがたくさん落ちちゃったんだと。傷んでしまうからジュースにしたって果物屋のおっさんに聞いた。ジュースにしてはお値打ちだったから一瓶買ったんだ」
「僕も飲んじゃっていいの?」
「もちろん、一緒に飲もうと思って買ったんだよ。パンと一緒に飲もう」
アムが椅子に座り、自分もいつもの木の椅子に腰掛けた。
促してくるからそうっとひとくち口をつけると、口の中いっぱいにとろりとしたリンゴの甘さが広がる。
「わぁ、美味しい!」
思わず大声で感嘆した。
まじまじとカップの中のジュースを見つめる。
「すごい、甘くて美味しいね。ジャムを飲んでるみたい」
「そうだろ。冷やしても美味しいんだ」
満足そうに微笑んだアムが自分もカップに口をつけてジュースを飲む。
この量のリンゴジュースを作るのに、リンゴはいくつ必要なんだろう。今小屋の裏になっているリンゴを潰したら、同じものができるのかな。
そう思ってアムに聞いてみたら、彼は少し考えてから頷いた。
「リンゴを潰すことができれば、皮と種と芯を濾してできるんじゃないか? でもたくさん作ろうと思うと結構大変だと思うぞ」
「うん、わかった」
「気に入ったなら、これ持って帰っていいよ。俺はまた町で買えるから」
「本当? ありがとう」
気前のいいアムが瓶に残ったリンゴジュースを帰りに持たせてくれた。
◇
嬉しくてルンルンした気分で森まで帰り、ノクスを呼び出してからその瓶を誇らしげに見せる。小屋まで運んでもらいながら、初めて飲んだリンゴジュースの味を説明した。
「これ、リンゴのジュースなんだよ。ちょっと飲むだけでリンゴを口にいっぱい入れてるみたいに美味しいの。残った分はアムがお土産にくれたんだ」
大袈裟なくらい美味しいと繰り返して、アムに聞いた作り方を教えたら、ノクスはふんふんと頷くように黒い霧をくるくるさせていた。
あっという間に小屋について、早速その日のお昼ご飯でも少しだけコップに入れて飲んだ。
「美味しい。たくさんあったら傷まないうちにジュースにするなんて、町の人は頭がいいんだね」
感心しながらちょっとずつ大事に飲んでいたら、後ろからグシャっという音がした。
「え?」
振り向くと、竈門の隣に最近作った新しい作業台で、ノクスがリンゴを握りつぶしていた。
グシャっ
グシャっ
ブシュッ
「あっ……え?」
ちょうど収穫してあったのか、リンゴが三個、瞬く間に潰れて大きな鍋の中に落ちる。
「ノクス……?」
後ろ姿を見つめていると、ノクスは小屋の裏に歩いていき、少し経ってリンゴを山ほど抱えて戻ってきた。
「あ、木になってたリンゴ……」
止める間もなく、ノクスはリンゴをどんどん潰していく。
もう一つの鍋に洗ったばかりの手巾を広げ、その中に潰したリンゴを全部入れた。器用な指が丁寧にリンゴを包み、それを持ち上げるとぎゅうっと絞った。
ドボドボ
と、あまり聞かないような音でリンゴが濾されて汁が鍋に落ちる。
呆気に取られるロイの前で、あっという間に鍋に満杯になるほどのリンゴジュースができあがった。
それをたっぷりコップに掬い、ロイのところに持ってきたノクスは、ロイが今しがた飲んでいたコップを取り上げてそれと交換した。
「あ、ありがとう」
受け取ってなみなみとつがれたリンゴジュースを見下ろす。
ノクスが目の前に立って待っているので、一口飲んだ。
「わぁ……美味しい!」
びっくりしてコップを見つめる。
「すごいね、新鮮なリンゴで作るともっと美味しいね!!」
満面の笑みでノクスを見上げると、満足そうに尾を振ったノクスはもっとあるぞ、と言うように台に置いてある鍋を指差した。
「うん、明日の朝はお茶じゃなくてジュースにしよう。ノクス、ありがとう」
言いたいことは色々あった気がしたが、ノクスが誇らしげに鋏をカチカチさせているので、細かいことはまぁいいかという気持ちになった。
しばらくの間、食卓にはリンゴジュースが並び、この年は珍しくリンゴを余らせることなく美味しく食べた。沢の向こうに集まる動物達は毎回絞ったリンゴのカスが置いてあるので訝しんでいたが、ジュースを少しかけてふやかしておいたらみんな先を争って食べていた。
アムに瓶を返すついでに、ノクスが作ったリンゴジュースを入れて持っていったら、皮や繊維がほとんど入っていないジュースを見て驚いていた。
「すごいな。専門の道具でプレスしたみたいだ」
そう言って感心したアムに微笑んで、
「うちのお父さんリンゴも潰せるんだ」
とうっかり答えてしまったから、しばらくの間アムの中のロイの父親像は、足が悪いがムキムキの大男になったらしい。
「おはよう、アム」
「おはよう、ロイ。今日はいいものがある」
「え? なに?」
朝、アムの店に遊びに来たら、店の作業台にパンを置いて準備していたアムが振り返った。
にこやかに台の上を指差すアムに近寄って見てみると、いつもコーヒーが入っているカップの中には、黄色い液体が入っていた。
「これ何?」
「リンゴジュース」
「りんごじゅーす」
ジュースという単語が耳慣れずに首を傾げると、アムは笑ってカップを手渡してくれた。
「リンゴを絞って、飲み物にしてあるんだ。甘くて美味しいよ」
「絞って?」
目を丸くしてカップの中を覗いた。
匂いを嗅いでみると、確かに甘い香りがする。
「リンゴを潰しちゃうなんて、ぜいたくだね」
「この前の嵐でリンゴがたくさん落ちちゃったんだと。傷んでしまうからジュースにしたって果物屋のおっさんに聞いた。ジュースにしてはお値打ちだったから一瓶買ったんだ」
「僕も飲んじゃっていいの?」
「もちろん、一緒に飲もうと思って買ったんだよ。パンと一緒に飲もう」
アムが椅子に座り、自分もいつもの木の椅子に腰掛けた。
促してくるからそうっとひとくち口をつけると、口の中いっぱいにとろりとしたリンゴの甘さが広がる。
「わぁ、美味しい!」
思わず大声で感嘆した。
まじまじとカップの中のジュースを見つめる。
「すごい、甘くて美味しいね。ジャムを飲んでるみたい」
「そうだろ。冷やしても美味しいんだ」
満足そうに微笑んだアムが自分もカップに口をつけてジュースを飲む。
この量のリンゴジュースを作るのに、リンゴはいくつ必要なんだろう。今小屋の裏になっているリンゴを潰したら、同じものができるのかな。
そう思ってアムに聞いてみたら、彼は少し考えてから頷いた。
「リンゴを潰すことができれば、皮と種と芯を濾してできるんじゃないか? でもたくさん作ろうと思うと結構大変だと思うぞ」
「うん、わかった」
「気に入ったなら、これ持って帰っていいよ。俺はまた町で買えるから」
「本当? ありがとう」
気前のいいアムが瓶に残ったリンゴジュースを帰りに持たせてくれた。
◇
嬉しくてルンルンした気分で森まで帰り、ノクスを呼び出してからその瓶を誇らしげに見せる。小屋まで運んでもらいながら、初めて飲んだリンゴジュースの味を説明した。
「これ、リンゴのジュースなんだよ。ちょっと飲むだけでリンゴを口にいっぱい入れてるみたいに美味しいの。残った分はアムがお土産にくれたんだ」
大袈裟なくらい美味しいと繰り返して、アムに聞いた作り方を教えたら、ノクスはふんふんと頷くように黒い霧をくるくるさせていた。
あっという間に小屋について、早速その日のお昼ご飯でも少しだけコップに入れて飲んだ。
「美味しい。たくさんあったら傷まないうちにジュースにするなんて、町の人は頭がいいんだね」
感心しながらちょっとずつ大事に飲んでいたら、後ろからグシャっという音がした。
「え?」
振り向くと、竈門の隣に最近作った新しい作業台で、ノクスがリンゴを握りつぶしていた。
グシャっ
グシャっ
ブシュッ
「あっ……え?」
ちょうど収穫してあったのか、リンゴが三個、瞬く間に潰れて大きな鍋の中に落ちる。
「ノクス……?」
後ろ姿を見つめていると、ノクスは小屋の裏に歩いていき、少し経ってリンゴを山ほど抱えて戻ってきた。
「あ、木になってたリンゴ……」
止める間もなく、ノクスはリンゴをどんどん潰していく。
もう一つの鍋に洗ったばかりの手巾を広げ、その中に潰したリンゴを全部入れた。器用な指が丁寧にリンゴを包み、それを持ち上げるとぎゅうっと絞った。
ドボドボ
と、あまり聞かないような音でリンゴが濾されて汁が鍋に落ちる。
呆気に取られるロイの前で、あっという間に鍋に満杯になるほどのリンゴジュースができあがった。
それをたっぷりコップに掬い、ロイのところに持ってきたノクスは、ロイが今しがた飲んでいたコップを取り上げてそれと交換した。
「あ、ありがとう」
受け取ってなみなみとつがれたリンゴジュースを見下ろす。
ノクスが目の前に立って待っているので、一口飲んだ。
「わぁ……美味しい!」
びっくりしてコップを見つめる。
「すごいね、新鮮なリンゴで作るともっと美味しいね!!」
満面の笑みでノクスを見上げると、満足そうに尾を振ったノクスはもっとあるぞ、と言うように台に置いてある鍋を指差した。
「うん、明日の朝はお茶じゃなくてジュースにしよう。ノクス、ありがとう」
言いたいことは色々あった気がしたが、ノクスが誇らしげに鋏をカチカチさせているので、細かいことはまぁいいかという気持ちになった。
しばらくの間、食卓にはリンゴジュースが並び、この年は珍しくリンゴを余らせることなく美味しく食べた。沢の向こうに集まる動物達は毎回絞ったリンゴのカスが置いてあるので訝しんでいたが、ジュースを少しかけてふやかしておいたらみんな先を争って食べていた。
アムに瓶を返すついでに、ノクスが作ったリンゴジュースを入れて持っていったら、皮や繊維がほとんど入っていないジュースを見て驚いていた。
「すごいな。専門の道具でプレスしたみたいだ」
そう言って感心したアムに微笑んで、
「うちのお父さんリンゴも潰せるんだ」
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