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夏休みの始まり
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夏。
俺にとって、初めて家で過ごせる夏休み。
一年前の夏は、俺はまだ親戚の家をたらい回しにされていた。その頃、昼は外で食べて、外で過ごすようにと言われた。渡されたのは500円玉だけだったから、大概ハンバーガーショップで飲食してたっけ。
今は涼しいクーラーが効く部屋で、自由に過ごすことができる。この家にいてもいいし、外に出かけてもいい。だけど、この猛暑じゃ正直外に出かけたいとは思えなかった。去年の俺、すごい。
幸村家に引き取られてから、半年以上が経つ。こんなにも長く同じ場所に住めるのは、初めてのことだ。
幸村家の人たちはとても優しい。児童ホラー作家のミドリさんと、大学の先生であるマサツグさんは、本当に俺によくしてくれる。子どもの面倒がどれだけ大変かなんて、俺を引き取ってくれた大人たちを見ていればよくわかる。その上、俺は問題行動ばかり起こしていたから、追い出されるのも仕方ないと思っていた。
だけど、今は……。
ガッシャーン‼
……なんか、下から窓が割れる音したんだけど。
慌てて俺は、二階にある自分の部屋から飛び出し、ちょっと急な階段を駆け下りる。
「サチ、大丈夫⁉」
和室のふすまを開け放つのと同時に尋ねる。
一方、幸村家の娘であり、俺の同居人であるサチは、呑気にショッキングピンク色の頭をかいた。
「いやあ、ダンベルしながら踊ってたら、うっかりダンベルが飛んで行っちまった」
テヘペロ、と舌を出して誤魔化すサチの後ろでは、庭に通じる大きな窓が割れている。
そして片手には、ダンベルではなく米袋が掴まれていた。多分10㎏のやつ。
多分もう一つ同じサイズの米袋が、ガラスを突き破って庭の方に飛んで行っている。
「……なんで米持って踊ってたの?」
俺がそう言うと、
「や、今年こそ米の不作を防ぐために、祈りのための踊りをささげてほしいって言われたから、こないだ見たインドのダンスを」
こないだ見たインド映画に出てきた、キレッキレのダンスかな。俺、どう動いているのかちっともわからないぐらい動きが速かったんだけど、あれ完コピできたの?
……って、「ささげてほしい」って、一体誰に?
ちら、と和室の隅をみると、床の間に腰掛けた、小さな女の子が座っていた。
この家で一番背丈の低いサチの膝までしかないその子は、白い着物を着て、サチより柔らかいピンク色の髪には、狐のような耳が生えている。
狐耳のカチューシャをつけてコスプレしているサチの友だち……という線はない。見た目以上に、雰囲気とかたたずまいからして、人間ではない。
俺はゆっくりと息を吸い込んで、力の限り叫んだ。
「こらー!」
俺の声が、家じゅうに響く。
その子は俺のことなど素知らぬふうに、お茶を飲んでいた。
「あれだけ独断で妖怪を家に招いちゃいけないって言っただろ! 一言俺に声かけてって言ったよね⁉」
「妖怪じゃなくて神様だし。田の神だぜ?」
「神様ならむしろ! 声を! 掛けて!」
なんでこの人、こんなにも恐れ知らずなのか。
俺の名前は臼井健。
俺には秘密があった。それは、妖怪や幽霊が視えること。
この秘密を知っているのは、同居人のサチだけ。
と言っても、サチには妖怪や幽霊は視えない。
じゃあ何で今認識できているのかというと、話は去年の秋に遡る。
俺にとって、初めて家で過ごせる夏休み。
一年前の夏は、俺はまだ親戚の家をたらい回しにされていた。その頃、昼は外で食べて、外で過ごすようにと言われた。渡されたのは500円玉だけだったから、大概ハンバーガーショップで飲食してたっけ。
今は涼しいクーラーが効く部屋で、自由に過ごすことができる。この家にいてもいいし、外に出かけてもいい。だけど、この猛暑じゃ正直外に出かけたいとは思えなかった。去年の俺、すごい。
幸村家に引き取られてから、半年以上が経つ。こんなにも長く同じ場所に住めるのは、初めてのことだ。
幸村家の人たちはとても優しい。児童ホラー作家のミドリさんと、大学の先生であるマサツグさんは、本当に俺によくしてくれる。子どもの面倒がどれだけ大変かなんて、俺を引き取ってくれた大人たちを見ていればよくわかる。その上、俺は問題行動ばかり起こしていたから、追い出されるのも仕方ないと思っていた。
だけど、今は……。
ガッシャーン‼
……なんか、下から窓が割れる音したんだけど。
慌てて俺は、二階にある自分の部屋から飛び出し、ちょっと急な階段を駆け下りる。
「サチ、大丈夫⁉」
和室のふすまを開け放つのと同時に尋ねる。
一方、幸村家の娘であり、俺の同居人であるサチは、呑気にショッキングピンク色の頭をかいた。
「いやあ、ダンベルしながら踊ってたら、うっかりダンベルが飛んで行っちまった」
テヘペロ、と舌を出して誤魔化すサチの後ろでは、庭に通じる大きな窓が割れている。
そして片手には、ダンベルではなく米袋が掴まれていた。多分10㎏のやつ。
多分もう一つ同じサイズの米袋が、ガラスを突き破って庭の方に飛んで行っている。
「……なんで米持って踊ってたの?」
俺がそう言うと、
「や、今年こそ米の不作を防ぐために、祈りのための踊りをささげてほしいって言われたから、こないだ見たインドのダンスを」
こないだ見たインド映画に出てきた、キレッキレのダンスかな。俺、どう動いているのかちっともわからないぐらい動きが速かったんだけど、あれ完コピできたの?
……って、「ささげてほしい」って、一体誰に?
ちら、と和室の隅をみると、床の間に腰掛けた、小さな女の子が座っていた。
この家で一番背丈の低いサチの膝までしかないその子は、白い着物を着て、サチより柔らかいピンク色の髪には、狐のような耳が生えている。
狐耳のカチューシャをつけてコスプレしているサチの友だち……という線はない。見た目以上に、雰囲気とかたたずまいからして、人間ではない。
俺はゆっくりと息を吸い込んで、力の限り叫んだ。
「こらー!」
俺の声が、家じゅうに響く。
その子は俺のことなど素知らぬふうに、お茶を飲んでいた。
「あれだけ独断で妖怪を家に招いちゃいけないって言っただろ! 一言俺に声かけてって言ったよね⁉」
「妖怪じゃなくて神様だし。田の神だぜ?」
「神様ならむしろ! 声を! 掛けて!」
なんでこの人、こんなにも恐れ知らずなのか。
俺の名前は臼井健。
俺には秘密があった。それは、妖怪や幽霊が視えること。
この秘密を知っているのは、同居人のサチだけ。
と言っても、サチには妖怪や幽霊は視えない。
じゃあ何で今認識できているのかというと、話は去年の秋に遡る。
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