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去年の秋、俺は幸村家にやってきた
俺、フルーツ系妖怪とか初めてなんだけど
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あの頃、俺はひどく緊張していた。
まず好意的に迎えてくれた家族が初めてだった。歓迎会のパーティーまで開いてくれて、俺はますます「この人たちの好意を裏切りたくない」と思った。
一番心配になったのは、サチとの関係だ。前も同じぐらいの歳の女の子と暮らすことがあったが、その子からは嫌われていた。当たり前だ。家族じゃない異性が家にいるだけでストレスだっただろうに、一緒に学校に行くと、「結婚している」と周りの子に囃し立てられていたからだ。
おまけに、俺には妖怪が視えた。
視えることがわかると、あいつらはちょっかいを掛けてくる。いたずらなものから、深刻なものまで。だけど俺にとっては、全部が怖いものだった。『怖いものがいる』と言ってしまうものだから、女の子からはさらに怯えられた。
サチはどうなんだろう。俺のこと、本当は嫌なんじゃないだろうか。
出来るかぎり、ここでは問題を起こさないようにしなきゃ。妖怪が視えても、絶対に黙っているんだ。
そう思っていた矢先に、その妖怪は現れた。
『ごめん』
渋い声に、まるで時代劇に出てくるような挨拶が玄関から聞こえた。
そこで疑問を持てばいいのに、俺は思わず開けてしまったんだ。――まさか、妖怪がわざわざ、玄関から礼儀正しく来るなんて思いもしなかった。
そこに現れたのは、おとぎ話に登場するような、小人のような柿だった。
柿だった。
着物を来た、やけに眉が太く、彫りの深い顔立ちをした柿だった。
『失礼いたす。拙者、天満公園から参った、柿の妖怪のたんたん――』
玄関の引き戸を全力で閉めた。
が、全力で引き留められた。
『どうか、どうか拙者の話を聞いてくだされ!』
『うわあああああ‼ 入って来るな妖怪‼』
妖怪なんだよな!? 柿の妖怪って何⁉ 蛇とか鳥とか魚とかの動物系の妖怪はよく視るけど、フルーツ系の妖怪は初めて視るんだけど!?
とにかく玄関に居続けるのは目立ってしまうと思った俺は、妖怪を自分の部屋に上げてしまった。
妖怪は人間に招かれない限り、家に入ることは出来ない。だから放っておけばよかったのに、冷静じゃない俺は自分で何とかしなくちゃと考えた。
が、そこで現れたのがサチだ。
コンコン、コンコン。
四回ノックの音が聴こえて、俺は自分の部屋のドアを開けた。
『どしたのタケル。誰か来たわけ?』
眉間にしわを寄せるサチ。
ヤバい。あの柿の妖怪の声はサチには聞こえていない。俺が乱暴に引き戸を開けて、一人で声を荒げているようにしか聴こえていないだろう。
俺は内心ドキドキしながら答える。
『いや……誰も来てないよ?』
ほら、とあえて部屋の様子を見せる。
こういう時は、隠す方がダメだ。不幸中の幸いというか、サチの目には誰も映らない。だから渋い顔をした柿の妖怪なんか視えるはずがない。
そのはずだった。
『何? その、渋い顔をした柿のおっさん』
サチの目には、しっかりと柿の妖怪が映っていた。
『……え、視えるの⁉』
『は? 視えるって?』
ますます眉間にしわを寄せるサチに、柿の妖怪は正座をしたまま礼をする。
『拙者、天満公園から参った、たんたんころりんと申す。此度はタケルどのにお願いがあって参った。挨拶もなく屋敷に上がった無礼をお許しいただきたい』
サチの大きな目が、パチパチと瞬かせる。
そして、『あーね。理解した』と呟いた。
『タケル、お前妖怪が視えるってことね』
『う、うんそうだけど……え、サチは違うの?』
『うん。あたしこれが初妖怪』
まさかの初めて視る妖怪が、柿の妖怪。
『たんたんころりんって言うと、仙台に伝わる妖怪よな。柿の実を採らずに放置すると出てくるって言う』
『然り』
俺は初めて聞いたんだけど、たんたんころりん。え、有名な妖怪なの?
『本棚見てないの? 妖怪の本あるじゃん』
『いや……勝手に読んじゃいけないと思って……』
実は俺の部屋は、元々書斎部屋だったところだ。元々と言いつつも、今も書斎として使われていて、壁一面にはたくさんの本がある。
というかこの家、リビングにも階段の壁にも本棚があるぐらい、あちこちに本がたくさんある。
『で? そのたんたんこ……長いからタンちゃんって呼ぶわ』
友だちかな? ってぐらい、急に距離を縮めるサチ。
サチは初めて妖怪を視るはずなのに、怖くないんだろうか。いや、渋い顔をした武士口調の柿に、怖がるポイントがあるのかビミョウだけど。
あの頃、俺はひどく緊張していた。
まず好意的に迎えてくれた家族が初めてだった。歓迎会のパーティーまで開いてくれて、俺はますます「この人たちの好意を裏切りたくない」と思った。
一番心配になったのは、サチとの関係だ。前も同じぐらいの歳の女の子と暮らすことがあったが、その子からは嫌われていた。当たり前だ。家族じゃない異性が家にいるだけでストレスだっただろうに、一緒に学校に行くと、「結婚している」と周りの子に囃し立てられていたからだ。
おまけに、俺には妖怪が視えた。
視えることがわかると、あいつらはちょっかいを掛けてくる。いたずらなものから、深刻なものまで。だけど俺にとっては、全部が怖いものだった。『怖いものがいる』と言ってしまうものだから、女の子からはさらに怯えられた。
サチはどうなんだろう。俺のこと、本当は嫌なんじゃないだろうか。
出来るかぎり、ここでは問題を起こさないようにしなきゃ。妖怪が視えても、絶対に黙っているんだ。
そう思っていた矢先に、その妖怪は現れた。
『ごめん』
渋い声に、まるで時代劇に出てくるような挨拶が玄関から聞こえた。
そこで疑問を持てばいいのに、俺は思わず開けてしまったんだ。――まさか、妖怪がわざわざ、玄関から礼儀正しく来るなんて思いもしなかった。
そこに現れたのは、おとぎ話に登場するような、小人のような柿だった。
柿だった。
着物を来た、やけに眉が太く、彫りの深い顔立ちをした柿だった。
『失礼いたす。拙者、天満公園から参った、柿の妖怪のたんたん――』
玄関の引き戸を全力で閉めた。
が、全力で引き留められた。
『どうか、どうか拙者の話を聞いてくだされ!』
『うわあああああ‼ 入って来るな妖怪‼』
妖怪なんだよな!? 柿の妖怪って何⁉ 蛇とか鳥とか魚とかの動物系の妖怪はよく視るけど、フルーツ系の妖怪は初めて視るんだけど!?
とにかく玄関に居続けるのは目立ってしまうと思った俺は、妖怪を自分の部屋に上げてしまった。
妖怪は人間に招かれない限り、家に入ることは出来ない。だから放っておけばよかったのに、冷静じゃない俺は自分で何とかしなくちゃと考えた。
が、そこで現れたのがサチだ。
コンコン、コンコン。
四回ノックの音が聴こえて、俺は自分の部屋のドアを開けた。
『どしたのタケル。誰か来たわけ?』
眉間にしわを寄せるサチ。
ヤバい。あの柿の妖怪の声はサチには聞こえていない。俺が乱暴に引き戸を開けて、一人で声を荒げているようにしか聴こえていないだろう。
俺は内心ドキドキしながら答える。
『いや……誰も来てないよ?』
ほら、とあえて部屋の様子を見せる。
こういう時は、隠す方がダメだ。不幸中の幸いというか、サチの目には誰も映らない。だから渋い顔をした柿の妖怪なんか視えるはずがない。
そのはずだった。
『何? その、渋い顔をした柿のおっさん』
サチの目には、しっかりと柿の妖怪が映っていた。
『……え、視えるの⁉』
『は? 視えるって?』
ますます眉間にしわを寄せるサチに、柿の妖怪は正座をしたまま礼をする。
『拙者、天満公園から参った、たんたんころりんと申す。此度はタケルどのにお願いがあって参った。挨拶もなく屋敷に上がった無礼をお許しいただきたい』
サチの大きな目が、パチパチと瞬かせる。
そして、『あーね。理解した』と呟いた。
『タケル、お前妖怪が視えるってことね』
『う、うんそうだけど……え、サチは違うの?』
『うん。あたしこれが初妖怪』
まさかの初めて視る妖怪が、柿の妖怪。
『たんたんころりんって言うと、仙台に伝わる妖怪よな。柿の実を採らずに放置すると出てくるって言う』
『然り』
俺は初めて聞いたんだけど、たんたんころりん。え、有名な妖怪なの?
『本棚見てないの? 妖怪の本あるじゃん』
『いや……勝手に読んじゃいけないと思って……』
実は俺の部屋は、元々書斎部屋だったところだ。元々と言いつつも、今も書斎として使われていて、壁一面にはたくさんの本がある。
というかこの家、リビングにも階段の壁にも本棚があるぐらい、あちこちに本がたくさんある。
『で? そのたんたんこ……長いからタンちゃんって呼ぶわ』
友だちかな? ってぐらい、急に距離を縮めるサチ。
サチは初めて妖怪を視るはずなのに、怖くないんだろうか。いや、渋い顔をした武士口調の柿に、怖がるポイントがあるのかビミョウだけど。
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