5 / 33
あかり、完璧番長の秘密を知る
第4話 番長は弟くんを溺愛している①
しおりを挟む
「ナツ!」
ワントーン高く、大きな声で、冬夜くんが呼んだ。
ナツ、と呼ばれた男の子は、こちらを見て、ぱっと顔をかがやかせる。
「にいちゃーん!」
走ってくる男の子に対して、冬夜くんが腕を広げる。
「ナツー‼」
公園のど真ん中で、あはは、うふふ、と抱き合ってグルグル回る小学生男子と中学生男子。
クールなイメージから、デレデレ……というには語弊があるけど、他に形容詞が見つからない。あまりの変わり具合に、私はあっけにとられた。
「今、誰かと話していたか?」
「うん。コッペパンから」
「ははは、お腹がすきそうな名前だな。もらったもの食べてないよな?」
ひたすらぐるぐる回って、冬夜くんはナツ、と呼んだ男の子を地面におろす。
「ナツ、この人は兄ちゃんのクラスメイトだ。小野、俺の弟の夏樹だ」
「ども!」
「あ、初めまして。小野あかりです」
情報量が多すぎて、どこから聞けばいいのかわからない。
とりあえず、昨日と今日の共通点を探して、私は夏樹くんに尋ねた。
「……ねえ、夏樹くん。君、視えるの?」
そう尋ねると、夏樹くんはきょとんした後、鼻息を荒くしながら目を輝かせた。
「え⁉ もしかしてあんたも視えるの⁉ じゃあコッペパン見える!?」
「う、うん。肉のかたまりが着物着てる」
そう答えると、さらに夏樹くんは目を輝かせ、跳び付いてきた。
体重がそのまま衝撃になって、みぞおちを襲う。
「すげー‼ 俺と同じ!? 初めて見た!」
「う、うん。……初めて?」
私は思わず、冬夜くんを見る。
冬夜くんは、右目を覆うように頬に触れた。
「ああ。――俺は、視えないんだ」
「……え」
意外な事実に、私は目を丸くした。
「そのことについては、後で説明させてくれ。ナツ、肉のかたまりの妖怪、もしかして『ぬっぺふほふ』と名乗ったんじゃないか?」
「あ、そんな名前だった」
「『ぬっぺふほふ』って……あ、『ぬっぺっぽう』!? 冬夜くん、そんなマイナーな妖怪のこと、よく知っているね!?」
そして『コッペパン』とは『ッペ』しか合ってないよ、夏樹くん‼ よく推測できたね冬夜くん!
「コッペパン、なんか困ってるみたいなんだ」
「困ってる?」
「うん。なんか話が長くて、俺にはわかんねーんだけど」
そのとたん、頭の中で何かが流れ込んでくる。
念話のたぐいだろうか。頭に直接話しかけてくるというより、膨大なデータが入り込んでくる感じ。
話を要約すると、この『ぬっぺふほふ』は、お腹がすいている――らしい。
「いや八文字で済むじゃん!」
思わず叫ぶと、ビクッと冬夜くんが驚いていた。
自分語りとか自分の好みとか最近の趣味とか、無駄な情報が流れて来て、頭パンクしちゃったよ。そりゃ夏樹くんもこの妖怪の名前を『コッペパン』だと勘違いするぐらいたくさんあったよ。
私は、鞄の中から名刺を取り出して、『ぬっぺふほふ』に渡す。『妖怪食堂』の名刺だ。
「このお店、最近できたから知らないと思うけど、妖怪や霊能力者を顧客にしたお店なの。よかったらどうぞ」
私がそう言うと、『ぬっぺふほふ』は指の無い両手でそれを受け取った。
そして、手の先から、ぬぷっと身体を溶かして、饅頭のようなものを渡す。
私がそれを受け取ると、そのまま『ぬっぺふほふ』はすばやく去っていった。
「……それは?」
冬夜くんが尋ねてきた。これは見えるんだ。
「『ぬっぺふほふ』の肉塊。お礼代わりにくれたみたい」
「ああ、やっぱり『封』と同一視されているんだな」
冬夜くん、本当に良く知ってるなあ。
――徳川家康の頃、城に肉塊と言おうか、肉人が現れた。
警戒態勢バツグンな城に侵入してきた不気味な生き物。当然、家康は追い払えと家臣たちに命じる。
しかし後日、その妖怪は『封』と呼ばれる妖怪で、その肉を食べればむっちゃすごい感じになる仙薬になったことを薬学者に説明されたという。
この『封』と『ぬっぺふほふ』は、同じ妖怪だとみなされている。
私はハンカチに包んで、風呂敷のような形にした。
「それで、話を聞かせてくれるかな。
夏樹くんには視えるけど、冬夜くんには視えてないの?」
「うん。兄ちゃんは視えない」
冬夜くんの代わりに、夏樹くんが答えた。
「昨日、初めて見たんだ。小野が倒した巨大なヘビを」
冬夜くんが答えた。そしてどこか、さみしそうな顔をして言う。
「俺も『視える』ようになったと思ったんだが、『ぬっぺふほふ』が視えなかったってことは、たまたまみたいだ」
そっか。
確かに、普段視えない人も、相手との相性や時間帯、土地の影響、自身の体調などによって、たまたま視えることがある。
そのたまたまが、昨日だったんだ。
「あんな大きなヘビを倒せるってことは、小野は退治屋か何かなのか?」
冬夜くんの質問に、私はううん、と否定する。
「私は、『包丁師』だよ」
ワントーン高く、大きな声で、冬夜くんが呼んだ。
ナツ、と呼ばれた男の子は、こちらを見て、ぱっと顔をかがやかせる。
「にいちゃーん!」
走ってくる男の子に対して、冬夜くんが腕を広げる。
「ナツー‼」
公園のど真ん中で、あはは、うふふ、と抱き合ってグルグル回る小学生男子と中学生男子。
クールなイメージから、デレデレ……というには語弊があるけど、他に形容詞が見つからない。あまりの変わり具合に、私はあっけにとられた。
「今、誰かと話していたか?」
「うん。コッペパンから」
「ははは、お腹がすきそうな名前だな。もらったもの食べてないよな?」
ひたすらぐるぐる回って、冬夜くんはナツ、と呼んだ男の子を地面におろす。
「ナツ、この人は兄ちゃんのクラスメイトだ。小野、俺の弟の夏樹だ」
「ども!」
「あ、初めまして。小野あかりです」
情報量が多すぎて、どこから聞けばいいのかわからない。
とりあえず、昨日と今日の共通点を探して、私は夏樹くんに尋ねた。
「……ねえ、夏樹くん。君、視えるの?」
そう尋ねると、夏樹くんはきょとんした後、鼻息を荒くしながら目を輝かせた。
「え⁉ もしかしてあんたも視えるの⁉ じゃあコッペパン見える!?」
「う、うん。肉のかたまりが着物着てる」
そう答えると、さらに夏樹くんは目を輝かせ、跳び付いてきた。
体重がそのまま衝撃になって、みぞおちを襲う。
「すげー‼ 俺と同じ!? 初めて見た!」
「う、うん。……初めて?」
私は思わず、冬夜くんを見る。
冬夜くんは、右目を覆うように頬に触れた。
「ああ。――俺は、視えないんだ」
「……え」
意外な事実に、私は目を丸くした。
「そのことについては、後で説明させてくれ。ナツ、肉のかたまりの妖怪、もしかして『ぬっぺふほふ』と名乗ったんじゃないか?」
「あ、そんな名前だった」
「『ぬっぺふほふ』って……あ、『ぬっぺっぽう』!? 冬夜くん、そんなマイナーな妖怪のこと、よく知っているね!?」
そして『コッペパン』とは『ッペ』しか合ってないよ、夏樹くん‼ よく推測できたね冬夜くん!
「コッペパン、なんか困ってるみたいなんだ」
「困ってる?」
「うん。なんか話が長くて、俺にはわかんねーんだけど」
そのとたん、頭の中で何かが流れ込んでくる。
念話のたぐいだろうか。頭に直接話しかけてくるというより、膨大なデータが入り込んでくる感じ。
話を要約すると、この『ぬっぺふほふ』は、お腹がすいている――らしい。
「いや八文字で済むじゃん!」
思わず叫ぶと、ビクッと冬夜くんが驚いていた。
自分語りとか自分の好みとか最近の趣味とか、無駄な情報が流れて来て、頭パンクしちゃったよ。そりゃ夏樹くんもこの妖怪の名前を『コッペパン』だと勘違いするぐらいたくさんあったよ。
私は、鞄の中から名刺を取り出して、『ぬっぺふほふ』に渡す。『妖怪食堂』の名刺だ。
「このお店、最近できたから知らないと思うけど、妖怪や霊能力者を顧客にしたお店なの。よかったらどうぞ」
私がそう言うと、『ぬっぺふほふ』は指の無い両手でそれを受け取った。
そして、手の先から、ぬぷっと身体を溶かして、饅頭のようなものを渡す。
私がそれを受け取ると、そのまま『ぬっぺふほふ』はすばやく去っていった。
「……それは?」
冬夜くんが尋ねてきた。これは見えるんだ。
「『ぬっぺふほふ』の肉塊。お礼代わりにくれたみたい」
「ああ、やっぱり『封』と同一視されているんだな」
冬夜くん、本当に良く知ってるなあ。
――徳川家康の頃、城に肉塊と言おうか、肉人が現れた。
警戒態勢バツグンな城に侵入してきた不気味な生き物。当然、家康は追い払えと家臣たちに命じる。
しかし後日、その妖怪は『封』と呼ばれる妖怪で、その肉を食べればむっちゃすごい感じになる仙薬になったことを薬学者に説明されたという。
この『封』と『ぬっぺふほふ』は、同じ妖怪だとみなされている。
私はハンカチに包んで、風呂敷のような形にした。
「それで、話を聞かせてくれるかな。
夏樹くんには視えるけど、冬夜くんには視えてないの?」
「うん。兄ちゃんは視えない」
冬夜くんの代わりに、夏樹くんが答えた。
「昨日、初めて見たんだ。小野が倒した巨大なヘビを」
冬夜くんが答えた。そしてどこか、さみしそうな顔をして言う。
「俺も『視える』ようになったと思ったんだが、『ぬっぺふほふ』が視えなかったってことは、たまたまみたいだ」
そっか。
確かに、普段視えない人も、相手との相性や時間帯、土地の影響、自身の体調などによって、たまたま視えることがある。
そのたまたまが、昨日だったんだ。
「あんな大きなヘビを倒せるってことは、小野は退治屋か何かなのか?」
冬夜くんの質問に、私はううん、と否定する。
「私は、『包丁師』だよ」
2
あなたにおすすめの小説
【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで
猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。
※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。
※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。
※2026.1.5に完結しました! 修正中です。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
お月様とオオカミのぼく
いもり〜ぬ(いもいもぶーにゃん)
絵本
ある日の雲一つない澄みわたった夜空にぽっかり浮かぶ大きな満月。その下に広がる草原に一匹の…まだ子供の真っ黒なオオカミがちょこんと座っていた。
「今日は、すごい大きくて、すごい丸くて、立派なお月様…こんなお月様の夜は、人間になれるって森の図書室の本で読んだけど…ええっと…えーっと…どうするんやっけ…?」
と、うーんと考え込む子供のオオカミ。
「えーっと、まずは、立つんやったっけ?」
うーん…と言いながら、その場で立ち上がってみた。
「えーっと、次は、確か…えーっと…お月様を見上げる?…」
もしよろしければ、続きは本文へ…🌝🐺
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる