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81、王女様達の考えることは可愛らしい

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「とりあえず、縛って転がしたはいいのですけれど…、この後どうしましょう?」

 シルフィの口から出た言葉に思わず肩の力が抜けてしまう。…最初から抜けていた気もするけど。
 逆恨みではあるものの私に罰を与えるつもりでいたはずなのに、まさかのノープランだとは。

「そうねぇ、顔に落書きでもしてしまおうかしら?」

 頬に手を添えて、可愛らしい顔に少し悪い笑みを浮かべてサーシャが言うが、やる事がやる事だけに更に肩の力が抜ける。むしろ全身の力が抜けたかもしれない。

(落書きか…、保育所に通っていた頃に正月の遊びで羽付きをした時の罰ゲームいらいかな?)

 ついそんな的外れなことを考えてしまう。
 完全に緊張感がなくなった。まぁ、最初からありもしないが。

「それはいいですわね!恥ずかしくて他人には見せられない顔にしてしまいましょう」

 手を叩きパッと花が綻ぶような笑顔を浮かべるのは、年相応でとても可愛らしい。

「むぐむむむ~」
(平和だねぇ~)

 狭い世界で甘やかされて育ったからか、まだ子どもだからかは分からないがやる事がイタズラの域だ。おそらく、あと五年くらい歳をとってたらもっとえげつない事を考えることが出来たかもしれないが今の王女達の考えていることは可愛い。
 微笑ましく感じる。
 少し頬が緩んでしまったが、彼女達が気づくことはない。

「さてさて、殿下方こちらへ来て頂いてもよろしいでしょうか?」

 私に対する罰を考えるのに盛り上がっていた王女達を呼んだのは恰幅の良い中年の男性。ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべているが、目が笑っていないように思う。絶対に良くないことが起こりそうな予感がした。

「むぐぐむぐぐぐー」
(やめたほうがいいよー)

 止めようと思ったが、如何せん口を覆う布が邪魔でうまく言葉を発せられない。「むぐむぐ」と聞いていて気が抜けてしまうような言葉にしか聞こえない。
 それでも一度考え直して欲しいと祈ったが、最早誰にも私の声は届いていないのかもしれない。…だって、反応が返ってこないし。
 縛られて転がされているものの、少し寂しい気持ちになった。

「全く、わたくし達が楽しく思っていたところに水を差すなんて…」
「普通でしたらバツを与えるところでしたが、貴方の働きも理解していますので今回は目をつむりますわ」

  少し不機嫌そうにブツブツと文句を言いながらも、渋々中年男性の近くへと行くサーシャとシルフィ。
 次の瞬間彼女達の身に起こったことに対して案の定と言うべきか、驚くことにと言うべきか悩んだが…ただ一言だけにまとめると。

「むぐぐぐー」
(ですよねー)

 だった。
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