異世界で演技スキルを駆使して運命を切り開く

井上いるは

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第四章

マルコ奪還作戦

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リックさんの帰還を待ちながら、1ヶ月が経とうとしていた。

その間、私の努力が認められ、主要な会議にも書記などの手伝いとして参加できるようになっていた。

今日の会議室には張り詰めた空気が漂っていた。
窓からの薄明かりが、メンバーたちの緊張した表情を際立たせていた。
アレクシスが話すたびに、全員の目が彼に集中した。
彼の言葉にうなずくメンバーの視線は鋭く、その目には決意が宿っていた。
誰もがこの作戦の重要性を理解していた。

メンバーたちは静かに資料をめくり、メモを書く音だけが響いていた。
誰かが深呼吸をして緊張をほぐしているのが見えた。
アレクシスは険しい表情で地図を指し示し、他のメンバーは真剣な眼差しで耳を傾けていた。

「現在、マルコを含む数名の捕虜が帝国に囚われている。我々は、帝国の捕虜と彼らを交換するための交渉を進めている。」

マルコは、帝国の宮廷劇団で劇作家をしていた。
彼の才能は広く認められ、重要なイベントや祝祭の舞台を手掛けていた。
彼は単なる劇作家としてだけでなく、ヴェリタス軍にとっても重要な情報源だった。
彼の奪還は、戦略的に大きな意味を持つ。

アレクシスの声には揺らぎがなく、強い決意が込められていた。
メンバーの一人がペンを握りしめ、資料に目を通しながら頷いた。

「我々には帝国の捕虜が数名いる。その中には重要な情報を持っている者もいるため、交渉材料として有効だ。」

別のメンバーが付け加え、緊張の中に一瞬の共感の表情が交わされた。
具体的な交渉内容や交換条件についての議論が続く中、私は心の中でマルコの無事を祈った。
交渉が上手くいけば、マルコは帰ってこられる。


数日が経ち、マルコ奪還作戦の準備が着々と進んだ。
兵士たちは交渉のために捕虜の状況を確認し、可能な限りの情報を集め、決行の日を待っていた。
拠点内の緊張した空気が、作戦の重要性を物語っていた。

そんな中、私はいてもたってもいられず、アレクシスのもとに向かった。
アレクシスはマルコの親友であり、彼の救出に強い意欲を持っていた。
彼に相談すれば、きっと何か助言を得られるだろうと思った。

「アレクシス、少し時間をいただけますか?」

私は緊張で少し震える声で尋ねた。
心臓は速く打ち、焦りと期待が入り混じる感情が胸を締め付けていた。
アレクシスは真剣な表情で頷いた。

「もちろんだ、サラ。何があったんだ?」

アレクシスの真剣な表情を見て、一瞬ためらったが、深呼吸をしてから話し始めた。

「私も何か役に立てることがありますか?」

 私の声には決意が込められていたが、自分の力がどれだけ役立つのかという不安も混じっていた。

「君がサポートに回ってくれて、私もエルウィンも助かっている。決行の時には、念のためエルウィンと一緒に診療所で待機していてほしい。」

アレクシスの言葉を聞いて、私は少し肩の力が抜けた。
役割が明確になったことで、心の中に一筋の希望が差し込んだ。

「わかりました。」

私は力強く頷き、彼の言葉に感謝の気持ちを込めた。

「これからも仲間たちを助けるために、協力してくれ。」

彼の真剣な眼差しに、私の心は揺さぶられた。
もっと力があれば、役に立てたかもしれない。

「はい。あの、アレクシス、私が治癒魔法を学ぶことは可能ですか?」

「難しいな。魔法は魔術師の管轄になる。王国にはほとんどいないし、帝国の魔術師たちは、その行動の全てを管理されている。彼らの多くは囚われの身だ。直接教えてもらうのは困難だろうな。あとは魔術書で学ぶ方法があるが、王国図書館の奥の書庫に厳重に保管されていて、一般人には公開されていない。」

アレクシスの説明を聞きながら、自分の力の限界を痛感し、胸に重くのしかかる不安を感じた。

「私には治療の時に早くよくなるようにと願うことしかできません。それがもどかしいのです。」

アレクシスは私の肩に手を置き、励ますように言った。

「まずは自分の力を信じることだ。君にはきっと特別な力がある。それを信じて今できることを地道に頑張ればいい。焦ることはない。今のままでも、君の存在は十分に役立っているよ。」

アレクシスの言葉に心が少しずつ軽くなっていくのを感じた。
彼の信頼と励ましが、新たな勇気を与えてくれた。

現状では、この力が何なのかわからないけれど、私を理解しようとしてくれる人たちがいることが唯一の救いだ。




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