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思郷
しおりを挟む「サエおばさんに電話掛けて来るよ。」
そう言い残して
携帯を出しながら席を外した。
二人になったところでりえが質問して来た。
「ねぇ、いまさらですけど、
何故お見合いの席に耕太さんは居たの?」
『そうか、そうだよな。兄の大事な席に
弟が覗き見してるのはおかしいよな。』
オレは本心を知られないように、
兄弟の仲の良さをかいつまんで話した。
「そうか、心配で付いて来たってわけね。
お兄さん、素敵な人だと思うわ。
話し方も落ち着いていて、笑顔が可愛い。
あなた事は好きみたいね。
うちのアニキも妹想いでね。っていうか心配性で、
普段から口うるさいわ。」
そう言って笑った。
戻って来た修ちゃんは
「せっかく東京まで行ったんだから
ゆっくりして来なさい。って了解を得たよ。
悪いけど今夜は耕太のトコに厄介になるよ。」
そう言って、残れる事を報告した。
「わぁ嬉しい。
私もスタジオを休んだ甲斐があったわ。」
りえは素直に喜んでいるようだった。
オレも修ちゃんと過ごせる時間が長くなったのを
嬉しく思った。
「耕太さんってどの辺にお住まいですか。」
「オレ、笹塚駅の近く。」
「あ、京王線ですね。」
「ん、えぇ。」
「私は小田急線の東北沢の近くです。」
「え?そうなんだ、実はオレんとこも
東北沢に近いですよ。
小田急線と京王線の中間辺りだから。」
「ホント?!なんだ、それじゃ駅から近くの
『×××』って居酒屋はどうです?」
「あ、そこ知ってるよ。」
「じゃあ決まり!」
りえの行動は早かった。
店に予約を入れて、さっさとここを後にするべく
ホテルを離れた。
修ちゃんもこの展開に驚きを隠せなかったのか、
「面白い子だな」
そう耳打ちした。
新宿からなら小田急線でも直ぐだったが
タクシーを拾って乗り込んだ。
提案したのも料金を払ったのも
「当然だろ。」
と言った修ちゃんだった。
りえは車内から携帯を使って
誰かと連絡をしてたようだったが、
「アニキが捕まらなくて・・」
少し焦った表情を見せた。
「ま、まずは店に入りましょう。」
帰るのを諦めた修ちゃんは
もう飲む気満々のようである。
乾杯をしてすこし落ち着いて
「今時の女性がお見合いって
珍しくありませんか?」
修ちゃんは話を持たせようとした。
りえは決心したように、
「この際だから本当の事言いますね。
実は、お見合いは仕方なくだったんです。
ごめんなさい。」
やれやれ、修ちゃんもそうだったように、
彼女も本気ではなかったのか。
「兄がこちらに転勤が決まった際に
それを兄の先輩、松本さん、
ほら古川さんのお知り合いの。
彼が、ぜひ紹介したい男がいるからって、
半ば強引に。」
「なるほど、そうでしたか。」
「松本さん、もともとウチのジムの会員さんで
気さくに声を掛けてくださったりしてるんです。
オーナーとも仲が良いもんだから。
オーナーからお願いされたら、ねぇ・・
で、アニキにも『俺の顔を立ててくれ』
なんて言い方されたので、
セッティングされた以上は行くけど、
丁寧にお断り出来ればと思って。
失礼しました。申し訳ありません。」
「そう言う事でしたか、
いや、謝らないでください。
松本は以前こちらで働いていた時の同僚でして、
父の葬儀にわざわざ駆け付けてくれましてね。
その時、まだ独りの私を見兼ねて
段取りしてくれたのでしょう。」
「一昨年お父様を亡くされて、大変でしたね。
今は一人暮らしだとか。」
「恐縮です。ひとりは慣れておりますので
周りが思ってるように寂しくはないんですよ。
それに、遠く離れていても
弟が居てくれてますから、心強いです。」
「えぇ、見ててお二人仲が良いのが分かります。」
オレは一回忌の夜、布団の中で修ちゃんの腕に
子供の頃のように抱きしめられたのを
思い出していた。
「あーどうしよう。言っちゃおうかなぁ。」
りえは躊躇してたが、思い切ったように
「実はここだけの話、
私、お付き合いしてる人いるんです。
兄には秘密にしてますけどね。
だって、そんな事知ったら根掘り葉掘り。
面倒くさい事になりそうですもの。
「あはは。なるほど。
まぁ、こんな素敵な方なんですから
お付き合いされて居る方が居ても当然でしょう。」
『修ちゃんもたまには上手い事言うんだなぁ。』
咄嗟の返しに感心してたら
「そっか、だったら残念だなぁ。」
そう言って、オレの顔を意味ありげに見た。
『オイオイ、オレだって付き合うのも結婚も
全然興味ないんだからね。』
オレは修ちゃんを睨み返した。
「古川さん、その気になれば
お嫁さんはすぐ見つかると思うわ。
何か、まだお若いのに妙に懐かしい。
気持ちが休まりますわ。
父が居なかったせいか、古川さんにそこを感じる・・
やだっ!ごめんなさい。失礼な言い方でしたわね。」
「いやいや、ありがとうございます。
父と二人暮らしだったから
オヤジ臭くなってるかな。」
りえの困り顔を遮るように大きく笑った。
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