悲偽

弾風京作

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思郷

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救急車騒動。
思い掛けない秘密の暴露。
そしてカミングアウト。
上京での多くの人間との再会と出逢い。
彼等との不思議な結びつき。
修一は大きく深呼吸した。
耕太をシャワーに追いやったのは
自分の時間が欲しかったからだ。
一人きりになりたかった。
『ちょっと外の空気を吸って来よう。』

「耕太、ちょっと出て来る。」
浴室のドア越しに声掛けた。
裸のまま姿を見せた耕太は
心配げに顔を曇らす。
「え。どうしたの?」
「うん、今日、何かと多くの事があっただろ。
ちょっと頭の中を整理したくて、
少し外の空気を吸いたくなったんだ。
ぶらっと歩いて来るよ。」
安堵の顔になった耕太は
「そうか。そうだよね。うん、わかった。
ちゃんと戻って来てよ。準備しておくから。」
「あぁ、30分以内には帰るよ。」

さっき、あんな騒動があったきっかけで
思いがけず耕太と互いの気持ちを打ち明け合った。
しかし、しかしである。
母が違うからと言っても
二人は間違いなく兄弟である。
恋愛の対象・・・
そこには大きな壁があった。
『好きだとは言ってくれたけど・・
バカだな俺。耕太が俺をそういう対象になんか
するわけないか・・』
タクミの存在も気になっていた。
俺は今までがそうであったように、
遠くでアイツを見守って生きて行けばいいさ。
自分に言い聞かせた。

「修一さん」
突然背中からの女の声に驚いた。
振り返り、それがりえだと知って安心した。
「ちょっとつけて来ちゃった。」
『つけて来た?』
「さっき兄から電話があって、寄るから何か食わせろって。
コンビニで食材の調達なんです。
さっきも耕太さんと会ったんだけど、
ほら、お話しした彼氏が来ていて、今度は兄。
わたし、男どもの料理人じゃないっていうの。」
ふくれっ面でそう言った顔は、化粧も落とし、
年齢より幼く見えた。
昼間の格好とは違いラフな装いをしていた。
「お兄さん、友達と飲んでたんじゃないのかい。」
「ショットバーで、ツマミぐらいだったんですって。」
「お兄さんには料理を作ってくれる彼女は居ないのかな。」
耕太と似ているという兄の状況を知りたかった。
「妹を頼りにするくらいだから居ないです。」
ハッキリと答えた。
「それより、修一さんの深刻そうな顔。
ちょっと心配で声を掛けずにいたんだけど、
大丈夫?」
「あぁ、心配ありがとう。でも大丈夫だよ。
ただ、なんだか今日はいろんな出来事があって、
もちろんりえさんとの出会いもそのひとつで・・」
「救急車の出動もありましたものね。」
「そうそう。それで、耕太がシャワーを浴びてる間に
ちょっとひとりになって気分転換ですよ。」
「耕太さんは大丈夫そうですか」
腕の打撲を心配してくれているのだろう。
「うん、心配かけてすまないね。
でも、大丈夫みたいだよ。」
「そう・・」
『ホントは何か真相がありそう』
と言いたげな顔に
「本当に大丈夫。」
女の勘は鋭いが、説明する事ではなかった。
「それより、女性がこんな時間に
ひとり出歩いて、危ないなぁ。」
「あら嬉しいわ。気遣っていただいて
でも、ご存知のようにもう若くもありませんし
この辺はそう物騒でもないから安心です。」
「いや、まだまだお若いですよ。」

そんな会話の中
「りえ」
正面から男性の影が近づいて来た。
闇夜に薄く明かりが差したその男の顔を見て
修一は驚きを通り越して愕然とした。
そこには耕太と見間違うほど
瓜二つの存在が佇んでいた。

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