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思郷
しおりを挟む店から出たかおりは、
平静を装っていた顔が崩れ
こぼれた涙を拭った。
『やだなぁ。』
こうなると予想はしていたが、
それを超える感情に身を震わせた。
『私らしくない!』
自分を戒めて、急いでタクシーを拾い
ホテルへと向かった。
「修ちゃんから昨夜電話があったよ。」
耕太は圭太とりえに
待ち合わせの東京駅でそう告げた。
「『りえさんのお母さんが来られて
明日会う事になった』って。」
「やっぱりな。
取りあえず相手の出方を見て
話の内容を整理するんだよ。」
「どんな?」
「そこはほら、行ってみないと。」
修一からは会う場所も時間も聞き出した。
しかし、我等が向かうのは秘密にした。
りえの母の登場に戸惑ってる修ちゃんに
一層の混乱はさせたくはなかった。
郡山駅に着いた三人はタクシーを飛ばした。
修一は清々しく晴れた秋の空を仰ぎ見た。
店が忙しいのを口実に、
最近は墓参りもご無沙汰だった。
『この機会は良かったかもしれない。』
りえの母の誘いに応じた自分に
そう言い聞かせた。
しかし、その女性「かおり」は
何故ここを会う場所に指定したのだろう。
彼女がここを知っているのは何故だろう。
かおりの存在は、まだ謎に包まれたままだった。
修一が予定時間より早く墓に来たのは
雑草の処分をしたかったからだった。
しかし、墓もその周りも
すでにキレイに整えられてあった。
そして、花が豪華に供えられていた。
『誰が・・』
その行為に感謝しつつ、
持参した花を加えて線香に火を点けた。
「あら、お待たせしちゃったかしら」
少し遅れてやって来たかおりは
修一を見つけるとすまなそうに言葉を掛けた。
「いえ、わたしも今来たところです。
あ、昨日はありがとうございました。」
ありきたりの返事で礼を述べた。
「ところで、このお花・・・」
『恐らくかおりが供えたのであろう』
そう推測していた修一に
「昨日お店に伺う前に寄らせていただいたの。」
視線を墓石に向け、そこに歩み寄ったかおりは
自ら用意した線香に火を点けて、手を合わせた。
その姿が済むのを待って
「ありがとうございます」
心から感謝した。
昨日もこうして墓参りしてくれたこの人は、
我が家と繋がりがあるという事だろうか。
それは父の修(おさむ)なのか。
その疑問を解きたかった。
「ここをご存知なのですね。」
しかし、修一のその問いかけには答えず、
立ち上がって景色を楽しみ
「郡山まで来るともうすっかり秋の趣きですわね。
こんなにたくさんのコスモスが見られるなんて。
ススキまで、ほら。
静岡の方はまだまだ夏の名残でいるのに・・」
そう独り言のように話した。
『またはぐらかされた』
昨日もそうだったのを思い出す。
しばらくそうしていたかおりは
意を決したように深呼吸をし、
大きくため息をついた。
そして、墓石に向き合ったままで
「修一さん、お父さんとわたし、
恋人同士だったんですよ。」
静かな口調でハッキリと言い放った。
『父の恋人・・・?』
「ここには敷居が高くてねぇ。
なかなか訪れる事が無かった・・・
修(おさむ)さんの葬儀に
参列できなかったのが悲しかった。
残念で残念で心病んでたけど、
こういう機会があって良かった。」
線香の煙が上る墓石を見つめるかおりは
そこに向かって言葉を続けた。
「修さん、長い間ごめんなさい。
でも、こうして来られて良かったわ。
真実を話さなくなっちゃったけど、
修さん、あなたが呼んだのよね。
みんなもう立派な大人になったわ。
だからいいわよね。
私を見守っててくださいね。」
父にそう話しかけたかおりは、
修一に向き直って、顔を真っ直ぐ見た。
「修一さん、私の話聞いてくださいね。」
それはもう何もかも覚悟を決めた目をしていた。
「あなたをお腹に宿した時、
私はまだほんの高校生。
世間知らずの子供だったの。」
『えっ?・・』
修一は、かおりのその言葉に耳を疑った。
耕太と圭太の話に兄として臨もうと
腹を括って来たつもりだったのに、
矢の方向は俺に向けられていた。
何か大事な言葉を発した声に
一瞬時が止まった。
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