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思郷 最終話
しおりを挟む「さて、もうおいとましましょ。
長居しちゃってごめんなさいね。」
買い出し商品の数々を囲んで
しばらく談笑した新しい家族に、
かおりがお開きの合図を告げた。
まだ時間は早かったが、それぞれが
名残惜しい気持ちに弾みをつけた。
「耕太さん・・ もう耕太でいいか。
今度修一と静岡にいらっしゃい。
美味しいうなぎの店があるのよ。
ぜひごちそうしたいわ。」
「ありがとうございます。
オレうなぎ大好きです。
修ちゃんにも話しておきますね。」
「あ、じゃあ俺も。」
「わたしも。」
「あなた達ねぇ。ま、全員集合出来るか。
連絡まってるわ。楽しみにしてる。
さ、帰ろ。圭太はどうするの。
今夜もりえのトコに世話になっちゃおう。」
「朝食ぐらいは作ってよね。」
そんな事を言いあって母娘は帰って行った。
残った圭太はここに泊まることにした。
アルコールに切り替えた二人は、
もう既にお互いを気遣う事なく居た。
「何か不思議な気持ちだよ。」
「だな。」
「オレに双子の兄弟が居たって事もだけど、
身内がいっぺんに出来たのもな。」
「生きていれば、こんな凄い事も起こるんだな。」
「しかし、かおりさんも思い切ったな。
長い間自分の胸の中だけにしまっていた秘密を
打ち明けなきゃならなくなったんだもんな。
オレのオヤジは何も言わなかったけど、
オヤジはどこまで知ってたんだろ?」
「かおりさんの行動で何か勘付いてはいたと思うぜ。」
「じゃあ何とか出来ただろうに。」
「んー、でも、結婚して幸せにしてあげられなかった。
それがトラウマになってて、その時の自分に
自信が持てなかったのかもしれないなぁ。
でも独身を貫き通したんだ。それも愛なのかもな。」
「かおりさんも、結局オヤジの女で居たかった。
飛び込めばそうなれたんだろうけど、
災害で亡くした夫に妻としての立場を崩せなかった。」
「あは、ちゃっかりりえを授かったりしたけどな。」
二人は笑った。
「ホントの両親の事・・」
耕太は自分達を産んだ親を思った。
「俺は考えないよ。親はかおりさんだけ。
あの人が居なかったら俺は生きていなかった。
ちゃんと育ててもらったもの。
ま、ホントの親には申し訳ないけど。」
「オレも結局かおりさんに助けられて、
オヤジに育てられて、バチが当たるかな。」
「いや。俺達が知らないとこで起きた事。
仕方なかったんだよ。
俺達は生きるチャンスを与えられたんだ。
健康で生き延びよう。
でも、ま、機会を作っていわきに行って
海に花でも供えようぜ。」
震災が生んだ悲劇であった。
「耕太は自分の気持ちが叶って良かったな。
血の繋がり、それがネックだったんだろ?」
「うん。異母兄弟だとずっと思ってたから、
修ちゃんを好きになる気持ちに嫌悪してた。
それにオレを嫌いにならないで欲しいのに、
逆にちっちゃい事で傷付けたりしてた。」
「今後は素直になれる、か。」
「そういう生き方をするよ。
こうも皆が理解してくれて、
修ちゃんとの事も認めてくれた。
オレはもう堂々と修ちゃんに飛び込む。
で、修ちゃんの力になるんだ。」
「ハイハイ、幸せにどうぞ。
だけど、オレも兄弟だからな。
遊びに行くからな。」
「もちろんだよ。待ってる。
オレも修ちゃんと喧嘩したり、
東京が恋しくなったら
圭太のトコに世話になるから、
そん時はよろしく。」
「おお、いつでも来いや。
ん?おい、喧嘩なんかするのか?
ベタベタし過ぎるなよ。
それに、俺にも相方ってヤツの存在、
それが出来るって可能性あるからな。
耕太なんか構ってられないかもな。」
「そん時はそん時だな。」
「だな。」
二人は同じ声で笑った。
グラスを重ねる二人に世は更けて行った。
静岡に戻ったかおりはサエに電話を掛けた。
「ありがとう。お世話様でした。
お陰様で胸のつかえが降りたわ。」
ー『良かったわね。
誰ひとりとして揉める事もなく
理解してくれたみたいね。
さすが皆大人だわ。大人になったのね。』
「そうね。いい大人になってて良かったわ。
あ。耕太がそちらに戻るのを決めたらしいから
修一と共に今後ともよろしくお願いします。」
ー『はいはい。あ、それはそうと
修二さんの話はしたの?』
「あぁ、修二ね。
今回はややこしくなりそうだったから
話題にしなかったわ。
でも、こんな事が起きたんだもの、
どんな形でかは分からないけど、
いずれ向き合う機会があるだろうな・・
またその時にでも相談に乗ってね。」
ー『そっか。修一さんも自分も双子だった
なんて思ってないでしょうからね。
また力になれそうだったら連絡してね』
耕太が戻って、修一の片腕にまで成長し、
以前より店が集客数を伸ばし始めた頃。
その店の暖簾の前に修二は足を止めた。
完
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