黒魔女リリィは世界を壊したい!!〜転生者たちの治める国で呪われた魔女と騎士〜

tanakan

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第四話 黒魔女リリィと世界を壊したい

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               -◇- 
「私は鈴木すずき 響子きょうここの世界に転生した時は十六歳で日本の産まれ。今はもう自分の歳を忘れちゃった」

「ありふれた苗字みょうじだね。名前は少し変わっているが」

「そうなの? 私が生きていた時代ではありふれていた名前だけど? ・・・ともかく私は父と母、幼い妹と一緒に暮らしていました。父は・・・戦争に行っちゃったから、母と妹でつつましく暮らしていたの」

 タカハシが口を閉じる。きっと今は私の暮らしていた時代より、ずっと時間が経っている。

 彼が当然のように生きているのだから、まだ日本はあるのだろう。もしかしたら学校もまだあって、歴史として学んでいるのかもしれない。構わず私は続ける。この話をするのは初めてで、うまく口が動かない。

「あなたは知っているのかもね。私は東京に住んでいた。赤黒い空を埋め尽くす飛行機と落とされる爆弾。燃えさかる家々。私たちは逃げ惑った。逃げる場所なんてないのに」

 できるだけ他人事たにんごとのように話そうとした。痛みを思い出してしまっては耐えられないから。でも言葉を続けるに合わせて、胸の奥からしびれが広がる。

「それで・・・どうなったんだ?」

「これもよくある話。家を焼かれて逃げ惑い、橋の下へと家族と一緒に逃げ込んだ。幼い妹を胸に抱いて。最後に見たのは燃え上がる橋が崩れる場面、母が両手を頭上に上げて、抑えられるはずもないのに、落ちる燃えた木々を受け止めようとしていた。妹が泣き声を上げて、私は諦めて目を閉じる。次に目を開いた時には星屑が浮かぶ黒い広間に立っていた。目の前に女神と名乗るふたりの女がいて、私はこの世界に転生した。私だけが転生したの」

 黒の女神は言っていた。お主なら苦労しそうだと。だから選んだと。これ以上の苦しみはないというのに。白の女神は続けて話した。祝福を与えましょうか? と新しい人生を望む力で、黒を白で染めるために戦いましょう。なんて他人行儀に。

 ふざけるなと叫ぶと、微笑む白の女神が顔を歪めて滑稽こっけいだった。代わりに黒の女神が微笑んでいて、なおさらに腹が立った。

「神なんていまさら信じられるか。争うなんてよく私に言えたね!? 女神なら救ってみなさいよ。私を生かして、私だけではなく人を、現世を救うために戦争を無くしなさい。馬鹿馬鹿しい。仰々ぎょうぎょうしく挨拶なんかしちゃって、恥ずかしいったらありゃしない」

 力なんているか! 叫ぶ私に白の女神は背中を向けた。代わりに黒の女神が涙を隠すまばたきの合間に正面へ立ち、私のひたいへ自らの額を当てていた。

「あぁ。お嬢ちゃんも自分を呪っているんだね。世界を呪った。自分を愛し、目に見える世界を幸せにしようなんて考えない。自分と世界を呪い続けている。だから妾が呪ってあげる。呪われる資格がある。そして一度だけの魔法もさずけてあげよう。本来なら女神にしか許されない力を、妾の代わりにもうひとりだけ選ぶ権利をどうぞ」

「あんたは死神? ならさっさとあの世に送りなさいよ。魔法なんて知らない。もう私はひとりなんだから・・・」

「そうさ。ひとりだ。きずなを紡ぐことを恐れている。失いたくないから。だから与える。お主の嫌う女神の秘法を。孤独でなくなる手段を持って、より世界や自分を呪い、いつか妾と一緒になるために。でもなぁ・・・選ぶことで現世で人がひとり死ぬ。お嬢ちゃんが人を殺す。妾の代わりに転生という甘言で命を奪い、与える。女神の力は皮肉に満ちる。ゆえにお嬢ちゃんに与えよう。命を奪い与える側となり、お主が呪った世界の理を知り、苦しんでもらおう。そして呪われたからには、お嬢ちゃんは死ねない。苦しみながら生きる。いつか妾を受肉するほどに、自分を呪えたら・・・嬉しいな」

 意味がわからずに首をかしげると次の瞬間には、フィドヘルにいた。自分を呪うという意味がわからないまま、白の女神に祝福を受けた原初の九人と出会ったのだ。呪う間もなく生きた。

 生きろ。という母の願いと、幼い妹を守れなかった自分を、変えるために戦った。

 でも無理だ。疲れてしまった。タカハシも自分を呪っているのだろうな。と考えていると自然に涙がこぼれりる。

 できるだけ記された歴史を語るように、伝えたつもりだった。でも口先はどうにかなっても心は同じにはいかない。思い出が体を支配していく。しびれた口元、震える瞳からは涙すら流れない。雨は体から温度を奪い続けている。

 ふいにタカハシが私の首へと手を伸ばし、力を入れるのがわかる。そのままき寄せ硬い胸へと頭を預けた。硬く筋肉質な胸板からは土と草木の匂いがする。

「辛いことを話させてしまった。でも聞いておきたかったんだ。許してくれ」

「どうして?」

「僕は知らないから。変えようのない現実から逃げ続けていたから。自分のことしか考えられていなかったから。まずリリィに目を向けたかった。知りたかった。この世界に招いてくれて、変わるチャンスをくれたのが君だから。逃げ出した後に言うなんて身勝手だよな。ありがとう」

「殺したのに? お礼を言うの? ・・・本当に身勝手でひどい男だなぁ。誰もが経験する辛い経験で、勝手にひとりで挫折ざせつして、悲劇の英雄を気取っている。私と一緒。でも・・・過去の話を聞いてくれたのはタカハシが初めてだよ。みんな過去のことからは目を背けていたから。話す機会もなかった。辛かったよ。本当に嫌だった。ここにいるのは本当の自分じゃないんだもん。本当の私を知ってほしかった。孤独だった。なんで私だけ笑顔で生きているんだろうなぁ。みんな遠い昔に死んでしまったのに」

「リリィの方がずっと立派だ。僕よりずっと強く生きている。だから僕も変わろうと思う。今度こそ、変わりたい。努力に甘え結果が得られないことにねて、才能を恨み、うらやむ自分まで誤魔化して生きていた自分から、何も成し得ないことばかりを恐れていた。格好をつけていた自分から変わりたい。泥だらけでも、せめてリリィを守りたい。どんな結果になろうとも受け止めて傷つきながら戦い続けたい。自分の中へ逃げ出すのはもう嫌だ」

 バカだなぁ。と胸板から顔を話してタカハシを見上げると、彼は泣いていた。まるで小さな子供のようにボロボロと涙を流している。私の話をまるで自分のことみたいに感じて、泣いている。言葉はなくても気持ちは伝わった。少し背伸びをして、私はタカハシの頭に手を添える。

「私は世界が嫌いだ。逃げてばかりになった自分も嫌いだ。人の作る世界は。戦争が絶えない。作られた秩序の中でしか人は生きられない。自分さえ変えられない。私たちと同じように」

「同じだな。僕たちは世界を、そして自分を呪っている。転生者たる資格はなくて、祝福すらも拒絶した。呪われて当然だ。すでに自分で呪っていたのだから。リリィは世界を、僕は自分を呪った。今ではそれもいいと思えている。リリィと出会えたから。こんな僕たちだからならやることは決まっている」

 すべての生き物に平等であるということが、絶対的な理想郷でないことは知っている。でも・・・もう私の心は決まっている。タカハシが一度言葉を呑み込んで、深く深く息を吐く。瞳が私の瞳の奥から心を覗いていた。まっすぐに曇りがない。

「甘えていたよ。ありふれた自分の悲劇で自分が最も不幸だ考えていた。孤独で、勝手に孤立して自分を呪うくらいに傲慢ごうまんだった。恵まれていたことにも気がつかないほどに。甘えて、自分を甘やかしていたよ。今は、とても自由だ。変わりたい、そして変えたい。世界も僕も・・・リリィも」

「周りと比べないとわからないよ? そんなこと。生きていたら誰だって同じでしょう? タカハシは真面目だね。目を背けることなんていくらでもできたのに。まるで努力の方向音痴ほうこうおんちだ」

 そうだな。とタカハシは交わされ、絡み合う視線のままで応える。ずっと前に諦めて立ち止まってしまった私の心は、この瞬間から前へ動き出している。

 このタカハシとなら一緒に進める。呪い呪われたふたりだと、互いに信じられた今だから前を向ける。立ち上がれた。

「みんなから恨まれるかもね。認めてもらうことなんてできない」

「それでもいい。世界のためになんてセリフを僕には言えない。世界が嫌いだから。この世界で才能に蹂躙され虐げられるシュバルツたちを・・・リリィを僕は守りたい。なりふり構わず守りたい。僕と同じだから」

「私もそのためにやるべきことは決まったね。私もこんな世界が大嫌いだ。差別や理不尽。姿形や生まれ育った場所が違うだけで虐げられる。無力な者から生きる場所を奪われる世界が嫌いだ」

 タカハシと顔を見合わせる。今自分がどんな顔をしているのかはわからない。きっとひどい笑顔をしているのだろう。それだけはわかった。息を合わせて口を開く。

 身体を支配していたしびれが消えた。

 僕は・・・とタカハシが言い、私は・・・と私は返す。

 同時に次の言葉はわかった。笑みだけを交わして声色を合わせる。

 「「一緒に世界を壊したい!」」

 重なり合った声に、ふたりして吹き出した。地獄のようなセリフだ。閻魔えんまさまは許してくれないだろう。

 もし転生する前にタカハシと出会っていたらどうなっていただろうか。

 いや・・・違う。

 いつわりの秩序で地獄よりも暗い瞬間だから、私たちは変わることができたのだ。

 雨音はいつしか消えさえり空からは陽の光が差し込んでいる。

 すっかりと夜は終わり、魔法のような朝日があたりを照らしていた。
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