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第五話 魔族と呼ばれた者たちの居場所
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雨がすっかりと上がり、雲が流れて晴れ間が見える。
リリィの黒い三角帽子の先端が、へたりと曲がってしまうほどに濡れていた。ローブからは水が滴り濡れた地面の上に立つ。
僕だって身体は泥だらけで冷え切っていたが、胸の奥には燃えたぎるような鼓動が高まる。やっとここからなのだと思った。
「それにしてもどうしたものかね。人虎の村へ戻ろうか」
僕が声をかけると、リリィはそうねぇ。と口元へ手を当てる。
「それもいいけど。まだ足りない。タカハシはまだ人虎としか会ってないでしょう? それだけじゃ狩猟祭をなんとかできるとは思えない。世界を変えるには、まず目の前の狩猟祭を乗り越えないとね」
「だな。僕たちが白騎士の代わりに頂点へ立ったとして、役者が入れ替わるだけだ」
考えるまでもなく途方がない。世界を満たしている秩序を破綻させる。
騎士長が作り上げた狩猟祭と制度を破壊し、転生者が頂点である世界を壊さなければならない。
その先はまだ思い付かないけれど、それでも今はやるしかない。僕たちがまた一から始めるように、
フィドヘルもまた一から始める必要がある。だからこそ世界を壊すのだ。
うーん。とリリィは両手を上げて大きく伸びをする。
「やることはたくさんだなぁ。見当もつかないほど。でもさ・・・今までよりはずっといい。自由だ」
リリィは言って僕を振り向き見上げる。僕もだよ。と答えるとリリィはへへ。と子供みたいに笑った。しかし・・・姿形は少女であるのに、話をまとめると彼女の年齢や見かけはあてにならない。
「リリィは、今回の狩猟祭で何度目なんだ?」
今まで何度殺されてきたかを問う残酷な質問である。しかしリリィの殺された記憶こそが現状を打開するために必要な方法なのだ。
「そうねぇ。もう片手じゃ足りない。狩猟祭が始まったのは転生してしばらく経った頃だから・・・六、七回目じゃないかしら? 十年に一度と決められているから・・・って、変なこと考えているでしょう?」
「いいえ。そういう訳ではありません。ただご高齢の方に失礼だったかと・・・」
むぅ。とリリィは眉を吊り上げ薄い皮膜に包まれるのが今度ははっきりと見えた。足を踏み込み僕へと身を投げる。
弾き飛ばされ地面に背中を沈ませた僕は、鈍い痛みと共にゆっくりと起き上がった。
彼女の使う日常生活を楽にする程度の魔法。そして僕へ対して使った事象の改変、彼女から言わせれば、敵から素早く逃げるだけの魔法。このふたつも十分に強力な力である。
他の転生者の使うギフトよりも僕にとってはずっと強力だ。黒の女神の力はさすがに強い。女神の器を超えない力ならば、多く分け与えられた白の女神による祝福よりも、黒の女神による呪いが強いのは道理だ。
それでもふたりだけでは足りない。
「高齢とかいうな! タカハシは私が生きている世界より、ずっと未来から来たんでしょう? でもここでは歳を取ることはない。不思議なことだけど・・・転生したらいつまで経っても人は歳を取らないの。呪いのせいかな?」
「そんな都合のいいことがあるんだな。しかし・・・もっと年相応らしく振舞ったら・・・」
言い終わる前に、杖の先端が僕に向けられ両手を上げて首を振る。リリィは笑い、僕もまた合わせて笑う。騎士長が狩猟祭を作ったのならばきっと彼らもリリィと同様、多くのノウハウを積んでいる。ならば生半可な方法では通じない。
それにしても・・・僕は背後にそり立つ岩壁を眺める。ギフトの力ばかりに怯えて、今まで考えることはできなかったけど、戦いようは盤上に並べられた世界だからこそある。
鳥が空で鳴き、甲高い声が響く。ロゼと歩いていた闇夜の森でも同じ声を聞いた。今まで聞いた鳥の声とはどれとも違う悲鳴のような声。
リリィは見上げて手を振っている。それに呼応し鳥は頭上を回転しながら高度を落とす。小さな鳥に見えていた姿は、旋回するたびに大きさを増した。
人ほどの大きさになった時、僕とリリィの前に舞い降りる。背中からは巨大な翼が生えている。鷲にも似た両翼は固く大きく広がっていた。
両手は筋肉質で指先からは太く鋭い爪が伸びている。人虎と比べると華奢にも見える上体は人だった。麻の服は雨に濡れたのかしっとりと濡れており、ブラウンの下衣の先からは羽根と同じ色をした羽毛が足先を包む。
顔立ちは厳しく細い顎先にブルーの瞳。僕を威嚇するように眉間へシワを寄せ、羽根を広げてリリィを隠した。翼を持った男はリリィに視線を落とす。
「あまりお近付きになってはなりません。黒魔女さま。この男は白騎士と通じております」
歌声のように響くよく通る低い声。丁寧な言葉遣いと言葉のトゲが僕に向けられている。大丈夫だって。とリリィは目の前の翼をくぐりながら、僕と男の間に立つ。
「心配しないでリューゲル。驚いた? まだタカハシは妖には会っていなかったもんね。翼を持つ妖のリューゲル。翼をもつ妖たちの長なの」
「有翼の妖・・・妖というより精霊に見えるよ。ハーピィと行った半人半鳥の、神話の中に生きる精霊だ。妖には・・・見えない」
てっきりリリィが獣と妖と表現するものだから、河童や天狗といった、日本に古来より存在する妖怪の類だと思っていた。思えば白の都市ですれ違った小柄な男も、土の精霊、ドワーフにも見える。
「精霊だと。ふん。わけのわからないことを言う」
リューゲルは口を歪めて、両足で地面を掴む。両手を組んで顎先を上げ、得意満面といった笑みでリリィは僕を見た。生まれ育った時代が違えば、表現もまた違う。僕は素直に従うことにした。表現の違いよりも先に誤解を解かなければならない。
「なんと言ったらよいか・・・森の中で僕と白騎士が話しているのを見ていたのだろう? 君の鳴き声が雨の中でもよく聞こえていたから。でも違うんだ。彼女は白騎士でありながら、疑問を抱いている。僕たちの味方だ。狩猟祭にも参加しないと言っている」
「内容は聞こえていた。我々の耳と目は人なんかよりもずっとよい。降りしきる雨でも言葉は届く。金髪碧眼の白騎士。争いを好まぬ少女の言葉は確かに聞いた。しかし信用するには証拠が足りない」
「ならこれからの僕の行動で見せる。リューゲルが信用できるまで、行動で証明する」
期待はしていないとリューゲルは目を背ける。両翼は畳まれ、足に込められていた力が抜けていた。代わりにリリィは胸を膨らまし眉間にシワを寄せている。
「ちょっと。誰それ? その金髪碧眼って! 日本人ではないでしょう? どこの国!?」
「彼女の出身はドイツと言っていたよ。それに僕の髪だって青い。本当の姿がどうかはわからないだろう」
「まあ・・・ドイツならいいか」
彼女が知る現世の歴史はずっと前で止まっている。今の世界の歴史を聞いてリリィはどう思うだろうか。少なくとも日本はまだなくなってはいない。世界は歪み続けていても、日本はまだ安全だ。いずれ話さなければならない。
「でも白の都市に近いところまでリューゲルが来るのは珍しいね。肌を刺すほどの冷たい山間で、自由に飛び回るのが好きなんじゃなかったっけ?」
「はい。そうでございます。しかし狩猟祭もまた近い。ですので獣妖会議の時期が来ました。今年も・・・悲嘆にくれた会議にはなるでしょうが、しきたりは守らなければなりません。お迎えにあがりましたが、黒魔女さまの小屋がこの有様でしたので・・・付近を見回っておりました。そうしたら人虎の村に向かう人、白騎士の姿がありましたので、危険をお知らせしておりました」
「そう。でももう大丈夫。タカハシは面倒くさくてこじらせているけれど、少なくとも私たちの味方なの。それに・・・私はもう決めたから」
リューゲルは羽根で体を包みながら、首をかしげる。リリィはトコトコと歩き出して僕の隣に並ぶ。
「あんたもしかしてさ。私が孤独にうずくまっているだけと思ってたんじゃない?」
僕は目を背けて首筋を描く。否定はできない。まったく。とリリィは一度目を伏せ、リューゲルを腰に手を当て見上げる。
「もう今回の狩猟祭を最後にする。もちろん私たちの勝利で。そして転生者に虐げられる現状を変える。壊してあげるの。タカハシやみんなと一緒に」
それは物騒な。とリューゲルは口を羽根で覆う。目尻が下がり楽しそうである。
「黒魔女さまがおっしゃるのなら、みんなも納得するでしょう。我々は黒魔女さまのために生きている。自分たちとは違う姿形でありながら、父母の代より何度も死んでも・・・我々と共にあってくれた。タカハシとやらよ。肉の壁程度にはなってくれるのだろうな」
渡りに船だ。世界は前に進み続けている。逃れようとしても、逃れられないほどの速度で、転がり続けている。人虎と、いや人ならざる存在と人との確執を、人虎の村で嫌というほど知った。戦いは避けられない。だとしても戦い方にもよる。
「もちろんだ。僕にとってはなぜ獣や精霊、いや妖が負け続けて来たのかがわからない。人よりもずっと賢く、力強い体。翼を持ち単独で空を飛ぶだけでも、世界を変えてしまうほどの力なのに。人なんかにはもう負けないよ」
「ふふん。妖の気分を乗せるのだけは上手いらしい」
目を丸めて頬を染めるリューゲルは身を震わせている。妖というよりも、リューゲルが褒められるに弱いだけではないのだろうか。リューゲルは咳払いをすると僕とリリィを交互に見る。
「それでは我々の城にお招きしましょう。リリィさまは我の背にお乗りください。そこのタカハシは無様に我の足にしがみついておればよい」
リューゲルは片方の翼を差し出し、小柄なリリィはリューゲルの首に手を回す。僕はリューゲルが目を細めて伸ばした左足へと屈んで掴む。
「それでは参ります。黒魔女さまは振り落とされないようにしっかりとつかんでくださいませ。そこのタカハシは振り落とされたら走ってこい」
リューゲルの翼へ身を置きながら、リリィが腕を組み鼻先を上げた。涙の跡は消えていて、瞳には意志が宿っている。僕の瞳もきっと同じだろう。
「これは私を差し置いて、金髪碧眼の女と会っていた罰だからね。肌身で噛み締めなさい」
雨がすっかりと上がり、雲が流れて晴れ間が見える。
リリィの黒い三角帽子の先端が、へたりと曲がってしまうほどに濡れていた。ローブからは水が滴り濡れた地面の上に立つ。
僕だって身体は泥だらけで冷え切っていたが、胸の奥には燃えたぎるような鼓動が高まる。やっとここからなのだと思った。
「それにしてもどうしたものかね。人虎の村へ戻ろうか」
僕が声をかけると、リリィはそうねぇ。と口元へ手を当てる。
「それもいいけど。まだ足りない。タカハシはまだ人虎としか会ってないでしょう? それだけじゃ狩猟祭をなんとかできるとは思えない。世界を変えるには、まず目の前の狩猟祭を乗り越えないとね」
「だな。僕たちが白騎士の代わりに頂点へ立ったとして、役者が入れ替わるだけだ」
考えるまでもなく途方がない。世界を満たしている秩序を破綻させる。
騎士長が作り上げた狩猟祭と制度を破壊し、転生者が頂点である世界を壊さなければならない。
その先はまだ思い付かないけれど、それでも今はやるしかない。僕たちがまた一から始めるように、
フィドヘルもまた一から始める必要がある。だからこそ世界を壊すのだ。
うーん。とリリィは両手を上げて大きく伸びをする。
「やることはたくさんだなぁ。見当もつかないほど。でもさ・・・今までよりはずっといい。自由だ」
リリィは言って僕を振り向き見上げる。僕もだよ。と答えるとリリィはへへ。と子供みたいに笑った。しかし・・・姿形は少女であるのに、話をまとめると彼女の年齢や見かけはあてにならない。
「リリィは、今回の狩猟祭で何度目なんだ?」
今まで何度殺されてきたかを問う残酷な質問である。しかしリリィの殺された記憶こそが現状を打開するために必要な方法なのだ。
「そうねぇ。もう片手じゃ足りない。狩猟祭が始まったのは転生してしばらく経った頃だから・・・六、七回目じゃないかしら? 十年に一度と決められているから・・・って、変なこと考えているでしょう?」
「いいえ。そういう訳ではありません。ただご高齢の方に失礼だったかと・・・」
むぅ。とリリィは眉を吊り上げ薄い皮膜に包まれるのが今度ははっきりと見えた。足を踏み込み僕へと身を投げる。
弾き飛ばされ地面に背中を沈ませた僕は、鈍い痛みと共にゆっくりと起き上がった。
彼女の使う日常生活を楽にする程度の魔法。そして僕へ対して使った事象の改変、彼女から言わせれば、敵から素早く逃げるだけの魔法。このふたつも十分に強力な力である。
他の転生者の使うギフトよりも僕にとってはずっと強力だ。黒の女神の力はさすがに強い。女神の器を超えない力ならば、多く分け与えられた白の女神による祝福よりも、黒の女神による呪いが強いのは道理だ。
それでもふたりだけでは足りない。
「高齢とかいうな! タカハシは私が生きている世界より、ずっと未来から来たんでしょう? でもここでは歳を取ることはない。不思議なことだけど・・・転生したらいつまで経っても人は歳を取らないの。呪いのせいかな?」
「そんな都合のいいことがあるんだな。しかし・・・もっと年相応らしく振舞ったら・・・」
言い終わる前に、杖の先端が僕に向けられ両手を上げて首を振る。リリィは笑い、僕もまた合わせて笑う。騎士長が狩猟祭を作ったのならばきっと彼らもリリィと同様、多くのノウハウを積んでいる。ならば生半可な方法では通じない。
それにしても・・・僕は背後にそり立つ岩壁を眺める。ギフトの力ばかりに怯えて、今まで考えることはできなかったけど、戦いようは盤上に並べられた世界だからこそある。
鳥が空で鳴き、甲高い声が響く。ロゼと歩いていた闇夜の森でも同じ声を聞いた。今まで聞いた鳥の声とはどれとも違う悲鳴のような声。
リリィは見上げて手を振っている。それに呼応し鳥は頭上を回転しながら高度を落とす。小さな鳥に見えていた姿は、旋回するたびに大きさを増した。
人ほどの大きさになった時、僕とリリィの前に舞い降りる。背中からは巨大な翼が生えている。鷲にも似た両翼は固く大きく広がっていた。
両手は筋肉質で指先からは太く鋭い爪が伸びている。人虎と比べると華奢にも見える上体は人だった。麻の服は雨に濡れたのかしっとりと濡れており、ブラウンの下衣の先からは羽根と同じ色をした羽毛が足先を包む。
顔立ちは厳しく細い顎先にブルーの瞳。僕を威嚇するように眉間へシワを寄せ、羽根を広げてリリィを隠した。翼を持った男はリリィに視線を落とす。
「あまりお近付きになってはなりません。黒魔女さま。この男は白騎士と通じております」
歌声のように響くよく通る低い声。丁寧な言葉遣いと言葉のトゲが僕に向けられている。大丈夫だって。とリリィは目の前の翼をくぐりながら、僕と男の間に立つ。
「心配しないでリューゲル。驚いた? まだタカハシは妖には会っていなかったもんね。翼を持つ妖のリューゲル。翼をもつ妖たちの長なの」
「有翼の妖・・・妖というより精霊に見えるよ。ハーピィと行った半人半鳥の、神話の中に生きる精霊だ。妖には・・・見えない」
てっきりリリィが獣と妖と表現するものだから、河童や天狗といった、日本に古来より存在する妖怪の類だと思っていた。思えば白の都市ですれ違った小柄な男も、土の精霊、ドワーフにも見える。
「精霊だと。ふん。わけのわからないことを言う」
リューゲルは口を歪めて、両足で地面を掴む。両手を組んで顎先を上げ、得意満面といった笑みでリリィは僕を見た。生まれ育った時代が違えば、表現もまた違う。僕は素直に従うことにした。表現の違いよりも先に誤解を解かなければならない。
「なんと言ったらよいか・・・森の中で僕と白騎士が話しているのを見ていたのだろう? 君の鳴き声が雨の中でもよく聞こえていたから。でも違うんだ。彼女は白騎士でありながら、疑問を抱いている。僕たちの味方だ。狩猟祭にも参加しないと言っている」
「内容は聞こえていた。我々の耳と目は人なんかよりもずっとよい。降りしきる雨でも言葉は届く。金髪碧眼の白騎士。争いを好まぬ少女の言葉は確かに聞いた。しかし信用するには証拠が足りない」
「ならこれからの僕の行動で見せる。リューゲルが信用できるまで、行動で証明する」
期待はしていないとリューゲルは目を背ける。両翼は畳まれ、足に込められていた力が抜けていた。代わりにリリィは胸を膨らまし眉間にシワを寄せている。
「ちょっと。誰それ? その金髪碧眼って! 日本人ではないでしょう? どこの国!?」
「彼女の出身はドイツと言っていたよ。それに僕の髪だって青い。本当の姿がどうかはわからないだろう」
「まあ・・・ドイツならいいか」
彼女が知る現世の歴史はずっと前で止まっている。今の世界の歴史を聞いてリリィはどう思うだろうか。少なくとも日本はまだなくなってはいない。世界は歪み続けていても、日本はまだ安全だ。いずれ話さなければならない。
「でも白の都市に近いところまでリューゲルが来るのは珍しいね。肌を刺すほどの冷たい山間で、自由に飛び回るのが好きなんじゃなかったっけ?」
「はい。そうでございます。しかし狩猟祭もまた近い。ですので獣妖会議の時期が来ました。今年も・・・悲嘆にくれた会議にはなるでしょうが、しきたりは守らなければなりません。お迎えにあがりましたが、黒魔女さまの小屋がこの有様でしたので・・・付近を見回っておりました。そうしたら人虎の村に向かう人、白騎士の姿がありましたので、危険をお知らせしておりました」
「そう。でももう大丈夫。タカハシは面倒くさくてこじらせているけれど、少なくとも私たちの味方なの。それに・・・私はもう決めたから」
リューゲルは羽根で体を包みながら、首をかしげる。リリィはトコトコと歩き出して僕の隣に並ぶ。
「あんたもしかしてさ。私が孤独にうずくまっているだけと思ってたんじゃない?」
僕は目を背けて首筋を描く。否定はできない。まったく。とリリィは一度目を伏せ、リューゲルを腰に手を当て見上げる。
「もう今回の狩猟祭を最後にする。もちろん私たちの勝利で。そして転生者に虐げられる現状を変える。壊してあげるの。タカハシやみんなと一緒に」
それは物騒な。とリューゲルは口を羽根で覆う。目尻が下がり楽しそうである。
「黒魔女さまがおっしゃるのなら、みんなも納得するでしょう。我々は黒魔女さまのために生きている。自分たちとは違う姿形でありながら、父母の代より何度も死んでも・・・我々と共にあってくれた。タカハシとやらよ。肉の壁程度にはなってくれるのだろうな」
渡りに船だ。世界は前に進み続けている。逃れようとしても、逃れられないほどの速度で、転がり続けている。人虎と、いや人ならざる存在と人との確執を、人虎の村で嫌というほど知った。戦いは避けられない。だとしても戦い方にもよる。
「もちろんだ。僕にとってはなぜ獣や精霊、いや妖が負け続けて来たのかがわからない。人よりもずっと賢く、力強い体。翼を持ち単独で空を飛ぶだけでも、世界を変えてしまうほどの力なのに。人なんかにはもう負けないよ」
「ふふん。妖の気分を乗せるのだけは上手いらしい」
目を丸めて頬を染めるリューゲルは身を震わせている。妖というよりも、リューゲルが褒められるに弱いだけではないのだろうか。リューゲルは咳払いをすると僕とリリィを交互に見る。
「それでは我々の城にお招きしましょう。リリィさまは我の背にお乗りください。そこのタカハシは無様に我の足にしがみついておればよい」
リューゲルは片方の翼を差し出し、小柄なリリィはリューゲルの首に手を回す。僕はリューゲルが目を細めて伸ばした左足へと屈んで掴む。
「それでは参ります。黒魔女さまは振り落とされないようにしっかりとつかんでくださいませ。そこのタカハシは振り落とされたら走ってこい」
リューゲルの翼へ身を置きながら、リリィが腕を組み鼻先を上げた。涙の跡は消えていて、瞳には意志が宿っている。僕の瞳もきっと同じだろう。
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