黒魔女リリィは世界を壊したい!!〜転生者たちの治める国で呪われた魔女と騎士〜

tanakan

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最終話 呪詛と祝福。破壊と創世。

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 僕が気が付くと僕は星空を見上げていた。地面が黒く底は見えない。どこまでも闇夜が続いていた。最初に現世から女神の世界に召喚された時と同じ、星屑の間に僕はいる。

 中央に置かれた円卓には広い地図が乗っている。円卓には白の女神の姿はなく、黒の女神だけが椅子に腰かけたまま地図の中央を眺めていた。

 歩み寄り隣に立つと黒の女神は薄笑いを浮かべる。

「終わってしまったなぁ。満足したか?」

「黒の女神はどうなんだ? 僕は十分に満足した。でも・・・すまん。リリィを救うという約束は守れなかったみたいだ」

 救えたさ。と黒の女神は虚脱し語る。女神の力でリリィを受肉させるわけにはいかなかった。僕が受肉し、打ち果たされる必要があった。

 黒の女神は僕の提案を意外にも受け入れた。しかし結果は共に果てた。約束が曖昧なままで、星屑の間に戻ってきてしまった。

「最後にわけを聞かせてほしい。なぜ僕に協力した? 本当に世界を黒で染めたかったのか? 疑問なんだ。僕のいうことを聞かずに、取引に応じず受肉し、僕を本当の傀儡にすることだってできただろう?」

「言っただろう? 妾は飽いておると。輝かしい勇者さまが、妾の子にも等しい異形なる者を、魔女を討ち倒す英雄譚に飽き飽きしておった。無意味な盤上での戦いなぞ、いつ終わってもよかった。でもな・・・妾の選んだ魔女が何度も死ぬ姿を見たくはなかった」

「僕が呼び出される前に受肉し、盤面を終わらせることもできたんじゃないか?」

「残念ながら力が足りなかった。それにリリィが争いを望まなかったからなぁ。逃げてばかり、自分が傷つくことばかりを選んでいた。力を貸すにも呪いが足りなかった。白の女神が選んだ原初の転生者たちに愛されておった。世界を呪っているのに、世界からは愛されておったから。受肉など・・・必要がなかった」

 黒の女神が言い黒いドレスの端から崩れていく。影ではなく星の煌めきを瞬かせ、崩れていく。僕とリリィが黒の女神をも打ち倒したのだ。女神の盤面を乗せた円卓もまた崩れていく。

 盤上の世界の終焉である。神々の作り出した世界の理が、消えていく。

「黒の女神は盤上を黒く染めるために存在したのだろう? それは君から生まれた感情か?」

「妾も世界に訪れた転生者、妾の選んだ黒魔女に価値観を変えられてしまったのだ。リリィが世界を守ろうと傷つくたびに、黒の世界で生まれた人ならざる存在が傷つき、リリィが守ろうと傷つき、守ろうとするリリィを見て誰かが傷つく。そんな自己犠牲の円環で変わってしまったのだ。白の女神のように、妾は・・・生きていて欲しかったのだ。だから力を貸したのだよ。ただまぁ・・・いくら傀儡としようとも人は強い。強い願いは神の価値観すら変えてしまう。」

「あぁ。よくわかる。僕だって同じだ。不満か?」

 いいや。と黒の女神が首を横に振る。足が崩れ落ち、椅子から落ちた黒の女神へ僕は駆け寄る。細く病的なまでに細い腕が僕に向かって伸びる。

 頬に触れるとひどく冷えていた。悪寒が僕に頬を伝って流れ込んでくる。冷たいはずなのに、どこか温かい。

 ただ浮かぶ笑みは弛緩し、目元は緩んでいる。

 安堵なのかどうかはわからない。女神もまた傀儡だったのだろう。解放だ。

 自由になって解き放たれる。

「なぁ。僕は現世でまたリリィと出会えるかな。同じ時代に生まれ変われるのか?」

「それは女神にもあずかり知らぬ。望めば出会えるさ。また出会うことを望むか? 互いに傷は残っている。深く深く・・・」

「また謝るさ。覚えていないだろうけどな。始めからまた自分の世界を作るよ。今度こそもっと、素直に、よりよく。充分に生きられたと再び思えるように。そんなに都合よくは行かないだろうけどね。女神の盤上ではないのだから」

黒の女神はわざとらしくため息を吐く。そして両手で僕の頬を包んだ。体は崩れ続け、半身が失われている。抱き抱えると羽よりもずっと軽い。

「あぁ。都合よくいかない。魔女はもう事象を改変することはできない。不死でもな
い。そしてお主も妾の力を使うことはできないし、傀儡でもない」

 目を丸めている僕に、黒の女神はクスクスと笑みをこぼす。病的に白い華奢な手足が、夜空に溶けていく。

「消えゆく妾の最後の一滴を残そう。白の女神が祝福を残したように、妾は幾許かの呪詛をお主とリリィに残してやる。」
「それは・・・のろいか?それともまじないとしてか?」

「どちらでもあるよ。存分に苦労するとよい。いつかまた出会うことを願っておる。もうこの世界は、女神の盤上から離れてしまったのだから。ただお主の小指はもらっておくぞ。二度と妾以外と約束ができぬようにな」

 薄笑いを残して黒の女神は消えていく。円卓には亀裂が入り、砂塵となって星空へと消えた。

 星空すらも崩れ落ち、僕はまぶたを閉じて闇に包まれた。

 最初に感じた死と等しい感覚。しかしどこか・・・温もりを感じた。

 気が付くと空には雲ひとつない青空が広がっていた。

 体にまとっていた黒い影は、すっかりと消えている。

 ボロボロの衣服は赤黒い血で汚れていたが、裂かれた胸は閉じられて、傷ひとつない。

 手足は動かせるが、小指だけは動きを失っていた。

 少し曲がった指先のままで、触れても感覚は失われている。

 もう二度と指切りはできないだろう。ただ約束はできる。今度こそ心で交わした約束は守らなければならない。

「ねぇ。起きた? いい青空だねぇ」

 黒い三角帽子が視界に入り、リリィの丸い瞳が僕を覗き込んでいる。背中には濡れた地面の感触が広がり、僕は身を起こす。

「生きているみたいだな。お互いに」

「そうねぇ。でも不死ではないみたい。黒の女神が言ってた」

「リリィも会ったんだな。それで、女神はリリィになんて言ったんだ?」

「今度は生きろって。不平等に選ばれた命を、謳歌しろと言っていた」

「それは苦労しそうだな」

 まぁそれが・・・世界の理だからね。とリリィが言って、僕はそれに同意する。

 立ち上がると遠くに人影が見えた。シュバルツに乗ったロゼが、手を振りながら向かってくる。

「さぁ。大変。心底怒られて謝る日々が続くねぇ。誰も死ななかったとはいえ、私を含めてたくさんの人を傷付けちゃったから」

「覚悟しているよ」

 よろしい。とリリィはロゼに手を振った。僕も立ち上がりリリィと並んで手を振る。

 その時、ボロボロと衣服が崩れた。あれほどの戦いだったのだ。よく持った方だと思う。しかしタイミングが悪かった。

 シュバルツの背中から降りて、駆け寄るロゼは両手で顔を覆い、ヒャァと悲鳴を上げた。シュバルツは呆れたように腰に手を当て、視線を地に向ける。

「あっしはまたお邪魔をしちまったみたいで・・・」

 首をかしげて、リリィを見ると、リリィの頬は真っ赤に染まっている。

「服を着ろ! そして・・・恥を知れ!」
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