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第六章 ディアーナの首飾りと夢の魔女
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ミーナさんがいる場所の検討はつかないけれど、夢の中で見た地平まで続く草原。そこがゴールだと思う。そしてカフェ・ノードにあるミーナさんの秘密基地、そこにきっと手がかりがあるとも思う。私は羽のように軽い足で、飛ぶように大通りを駆ける。
昔、校庭を駆け抜けたままの足取りで。
カフェが見えてくると何人かの人影が見える。目を凝らしていると色が浮かび上がる。
赤い鱗や青や緑色の髪、そして土色のスーツが見えた。見えると信じていればもうこんなにも私の世界は広がっている。そこには何も不安な気持ちはないのだ。
「琴音!琴音!よかった。大変だった。ミアスがまた見えるか?」
そういってミアスはカフェの前に到着した私を抱きしめた。
「大丈夫。またみんなのことが見えるよ。首飾りがなくてももう私にはみんなが見える」
「うん。よかった。ミアスは琴音のことを忘れていた。ミーナのことも。それがあのクソ野郎たちのせいだったんだな。琴音の一番辛い時に近くにいれなくてごめんな」
ミアスは私をぎゅっと抱き締める。近くで、はぁぁと悲鳴も似たコルの歓声とシャッターを切る音がする。彼もまたいつもと変わらない。
「ったく。なんだか俺が浮かれている間にずいぶんとんでもないことになってたんだな。そのなんだ・・・知らなかったとは言え悪かった」
アールは真っ赤なトサカを掻きながら申し訳なさそうに視線を伏せる。そこにイースも横へ並ぶ。
「この歳になってたかが魔女の魔法にかかるなんて恥ずかしい。でも我々は魔女やその上位である竜には逆らえない。夢語りの魔女からすべてを聞きました。ミーナさんを我々が止められるとは思いませんが・・・竜には決して敵わない。どうするつもりです?」
「そうだよー。でもボクたちは琴音ちゃんの味方だからね。ここで一緒に帰りを待つこともできるよ?」
コルもまた不安そうに瞳を泳がせながらそういった。確かにそうだ。ミーナさんの居場所すら私にはわからない。
でも、もう決めたことなのだ。
がちゃりと店のドアが開き、そこから黒いスーツを着たエルフがふたり並んで外に出て来た。その足元には長靴を履いた二足で歩く猫もいる。
「やっぱりミーナさんのお部屋はきれいに片付けられていて手がかりはなし!琴音ちゃんもお久しぶりー」
ソフマは手をひらひらと振り、緊張感のない表情で口角をあげる。ふむ。と隣のウアヴァルは細い顎先に手を当てて視線を細めて私を見た。
「夢で見せてもらった場所は地平まで続く草原と竜の姿。ミーナさんが歩く街は北欧だとは思うが・・・手がかりはそれだけだな。残念だ」
そっかとコルは肩を落としその場に一瞬の沈黙が流れた。タールーはトコトコと私の近くまで歩いてくると私のジーパンの裾をつかんで私を見上げる。
「それでどうするんだ?琴音は何か考えがあるのか?もしミーナを見つけても、琴音にミーナを止めることができるのか?」
よく通る声に私は一度うなずいて見せる。
「大丈夫です。勝算はありませんが勝つ必要はありません。こんなにも弱い私です。みんながいなければ立ち上がれずひとりでは前に進むこともできない弱々しい私です。だからこそどんなに情けなくてもミーナさんを必死に止めようと思います。頑張って、頑張って・・・言葉が聞き入れてもらえなくても、それでも必死に止めます。それにあんなに優しい魔女のミーナさんですから、自分より弱い立場の人や精霊を守ってしまうミーナさんです。今は私の弱さを利用します。弱い私の言葉だからこそ止められることもまたあるのだと思います。いつだって強大な強い相手と戦うことしかしなかったミーナさんには、弱く守られる立場からの言葉はきっと響くはずです」
ほぅ。とタールーは口ひげを揺らす。みんなもまた私を見ていた。私はもう一度うなずいて見せる。心から音が浮かび上がり、口元を経て言葉になる。
「私は自分で自分の世界を変えることはしませんでした。世界は勝手に動いていて変えることができないと思っていました。多くの精霊や魔女と出会い今まで違う世界に足を踏み入れたのなら、勝手に自分も変われると勘違いしていました。でもそれは違います。私の世界は私が見える範囲でそんなに広くはなくて、変わるべきなのは世界でなくて自分自身です。私はどんなに時間がかかってもミーナさんを探そうと思います。どこにいるかわからなくても自分自身で何もできなくても、私にはこんなにお友達がいますから」
最初の一歩は逃げ出した夜の公園。
タールーとミーナさんと出会えたあの場所。
思えばあの瞬間、私の世界が広がり変わるチャンスはたくさんあった。見えない世界を知り、その声を聞くことが魔女になる第一歩。そしてそれは私が新しい生き方を知る一歩でもあったのだ。
現世における魔法は、いつだって目の前にあった。
世界を一変させる魔法は、空を覆う雷でも、すべてを凍らせる氷塊、火山のような炎でも建物を崩す地震でもない。
自分を変える心の魔法だ。ミーナさんが望み、そして教えてくれた現世における私の魔法だ。
私はこんなに弱い自分を知ることができた。その心の奥底で息をひそめていた声も聞けた。
周りからしたら単純で他愛もないことかもしれない。
それでも私は確かに自分を変ようと一歩だけ前に進むことができるのだ。
まったく・・・アールはどこか嬉しそうに口元から牙をのぞかせる。
「確かに琴音の言葉は心に響く。精霊の眷属である俺たちの心にもな。言葉でなくてもその存在はどこか放っておけない。それは琴音の弱さからかもしれない。でもな。そんな琴音が頑張ると決めたら俺らもまぁ放っておけないな」
なぁ。とアールは隣に立つイースに視線を向けて、イースもまた静かにうなずく。
「琴音はもう強い。自分が弱いのを知っているから。誰かに頼ることもできるから。ミアスたちだって琴音のお友達だ。だから一緒にミーナを探そう。どこまででもついていくから」
泣き顔を見せないように長い髪で目元を隠しながら話すミアスを、尊くて風に消えてしまう・・・とコルもまた表情を両手で隠す。
ウアヴァルとソフマも満足そうに腕を組み、何やらコソコソと言葉を交わしている。
ふむふむ。と口ひげを揺らすタールーは飛び上がり私の背中に飛び乗ると両手を肩に回してゴロゴロと喉を鳴らす。人の子供くらいに重たく、口ひげが首元にあたりくすぐったかった。
昔、校庭を駆け抜けたままの足取りで。
カフェが見えてくると何人かの人影が見える。目を凝らしていると色が浮かび上がる。
赤い鱗や青や緑色の髪、そして土色のスーツが見えた。見えると信じていればもうこんなにも私の世界は広がっている。そこには何も不安な気持ちはないのだ。
「琴音!琴音!よかった。大変だった。ミアスがまた見えるか?」
そういってミアスはカフェの前に到着した私を抱きしめた。
「大丈夫。またみんなのことが見えるよ。首飾りがなくてももう私にはみんなが見える」
「うん。よかった。ミアスは琴音のことを忘れていた。ミーナのことも。それがあのクソ野郎たちのせいだったんだな。琴音の一番辛い時に近くにいれなくてごめんな」
ミアスは私をぎゅっと抱き締める。近くで、はぁぁと悲鳴も似たコルの歓声とシャッターを切る音がする。彼もまたいつもと変わらない。
「ったく。なんだか俺が浮かれている間にずいぶんとんでもないことになってたんだな。そのなんだ・・・知らなかったとは言え悪かった」
アールは真っ赤なトサカを掻きながら申し訳なさそうに視線を伏せる。そこにイースも横へ並ぶ。
「この歳になってたかが魔女の魔法にかかるなんて恥ずかしい。でも我々は魔女やその上位である竜には逆らえない。夢語りの魔女からすべてを聞きました。ミーナさんを我々が止められるとは思いませんが・・・竜には決して敵わない。どうするつもりです?」
「そうだよー。でもボクたちは琴音ちゃんの味方だからね。ここで一緒に帰りを待つこともできるよ?」
コルもまた不安そうに瞳を泳がせながらそういった。確かにそうだ。ミーナさんの居場所すら私にはわからない。
でも、もう決めたことなのだ。
がちゃりと店のドアが開き、そこから黒いスーツを着たエルフがふたり並んで外に出て来た。その足元には長靴を履いた二足で歩く猫もいる。
「やっぱりミーナさんのお部屋はきれいに片付けられていて手がかりはなし!琴音ちゃんもお久しぶりー」
ソフマは手をひらひらと振り、緊張感のない表情で口角をあげる。ふむ。と隣のウアヴァルは細い顎先に手を当てて視線を細めて私を見た。
「夢で見せてもらった場所は地平まで続く草原と竜の姿。ミーナさんが歩く街は北欧だとは思うが・・・手がかりはそれだけだな。残念だ」
そっかとコルは肩を落としその場に一瞬の沈黙が流れた。タールーはトコトコと私の近くまで歩いてくると私のジーパンの裾をつかんで私を見上げる。
「それでどうするんだ?琴音は何か考えがあるのか?もしミーナを見つけても、琴音にミーナを止めることができるのか?」
よく通る声に私は一度うなずいて見せる。
「大丈夫です。勝算はありませんが勝つ必要はありません。こんなにも弱い私です。みんながいなければ立ち上がれずひとりでは前に進むこともできない弱々しい私です。だからこそどんなに情けなくてもミーナさんを必死に止めようと思います。頑張って、頑張って・・・言葉が聞き入れてもらえなくても、それでも必死に止めます。それにあんなに優しい魔女のミーナさんですから、自分より弱い立場の人や精霊を守ってしまうミーナさんです。今は私の弱さを利用します。弱い私の言葉だからこそ止められることもまたあるのだと思います。いつだって強大な強い相手と戦うことしかしなかったミーナさんには、弱く守られる立場からの言葉はきっと響くはずです」
ほぅ。とタールーは口ひげを揺らす。みんなもまた私を見ていた。私はもう一度うなずいて見せる。心から音が浮かび上がり、口元を経て言葉になる。
「私は自分で自分の世界を変えることはしませんでした。世界は勝手に動いていて変えることができないと思っていました。多くの精霊や魔女と出会い今まで違う世界に足を踏み入れたのなら、勝手に自分も変われると勘違いしていました。でもそれは違います。私の世界は私が見える範囲でそんなに広くはなくて、変わるべきなのは世界でなくて自分自身です。私はどんなに時間がかかってもミーナさんを探そうと思います。どこにいるかわからなくても自分自身で何もできなくても、私にはこんなにお友達がいますから」
最初の一歩は逃げ出した夜の公園。
タールーとミーナさんと出会えたあの場所。
思えばあの瞬間、私の世界が広がり変わるチャンスはたくさんあった。見えない世界を知り、その声を聞くことが魔女になる第一歩。そしてそれは私が新しい生き方を知る一歩でもあったのだ。
現世における魔法は、いつだって目の前にあった。
世界を一変させる魔法は、空を覆う雷でも、すべてを凍らせる氷塊、火山のような炎でも建物を崩す地震でもない。
自分を変える心の魔法だ。ミーナさんが望み、そして教えてくれた現世における私の魔法だ。
私はこんなに弱い自分を知ることができた。その心の奥底で息をひそめていた声も聞けた。
周りからしたら単純で他愛もないことかもしれない。
それでも私は確かに自分を変ようと一歩だけ前に進むことができるのだ。
まったく・・・アールはどこか嬉しそうに口元から牙をのぞかせる。
「確かに琴音の言葉は心に響く。精霊の眷属である俺たちの心にもな。言葉でなくてもその存在はどこか放っておけない。それは琴音の弱さからかもしれない。でもな。そんな琴音が頑張ると決めたら俺らもまぁ放っておけないな」
なぁ。とアールは隣に立つイースに視線を向けて、イースもまた静かにうなずく。
「琴音はもう強い。自分が弱いのを知っているから。誰かに頼ることもできるから。ミアスたちだって琴音のお友達だ。だから一緒にミーナを探そう。どこまででもついていくから」
泣き顔を見せないように長い髪で目元を隠しながら話すミアスを、尊くて風に消えてしまう・・・とコルもまた表情を両手で隠す。
ウアヴァルとソフマも満足そうに腕を組み、何やらコソコソと言葉を交わしている。
ふむふむ。と口ひげを揺らすタールーは飛び上がり私の背中に飛び乗ると両手を肩に回してゴロゴロと喉を鳴らす。人の子供くらいに重たく、口ひげが首元にあたりくすぐったかった。
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