【完結】現世の魔法があるところ 〜京都市北区のカフェと魔女。私の世界が解ける音〜

tanakan

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最終章 現世の魔法があるところ

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「それじゃぁママ。今度は堂々と会いに来られるようにするからね」

 期待せずに待っておくよ。白竜は優しく風に乗せて言葉を伝える。
 行こうかと。ミーナさんは私の手を取り、竜の背中から飛び降りた。竜の背で一緒に運んでいたお互いの杖と一緒に。自由落下をしばらく楽しんだ後に私たちはそれにまたがりいつものカフェへと向かう。私たちを見ていたかのようにコルからもらったシルフのティースプーンが熱を帯びる。

「結構上手に乗れてるじゃない。私が教えることはなにもなさそうで残念だわ」

「いいえ。まだまだ教えてもらいたいことはたくさんあります。まだまだおっかなびっくりです」

「そっか。私だって琴音から人の世界のことをいろいろ教えてもらわなきゃ。学校って所でも遊びたいしね」

「そうですね。それに私のお母さんもミーナさんに会いたがっていました。カフェで私と料理を食べるって張り切っています」

夢語ゆめかたりの魔女かぁ・・・最初、私の夢を覗いている時には驚いたけれど、結果としてよかったと思う。私は自分の過去を伝えることが苦手だからね」

「それも知っています」

 そっか。とほうきに乗って風に頬をなでられながらミーナさんの黒髪が風になびいている。竜の背に乗っていた時には暖かかった風も、京都北区へと近づくにつれて冷たさを増す。
 そして私の視界にはちょうどカフェ・ノードの真上で停滞する雷雲にも似た黒いローブの集団が目に入った。

「もうちょっとゆっくりしたらいいのにね。せっかちだなぁ」

「どうします?どこかに隠れましょうか?」

 いいえ。とミーナさんは魔法保安局まほうほあんきょくの集団をまっすぐと見つめて、そのまま行きましょうと言った。

「もう大丈夫。言いなりになんてならないから。琴音に格好いい所を見せらればかりで、お姉さんとしても強い所を見せなきゃね」

 もう十分格好いいですよと私がミーナさんの隣へとぴったり体を寄せながらそういうと、ありがとうとミーナさんは視線をまっすぐと置いたままそういった。

 魔法保安局の集団が作る空に浮かんだ黒い影はだんだんその姿を大きくしている。それはミーナさんを連れ去った時よりもはるかに多い。

 中央からひとりの魔女が箒に乗って毅然きつぜんと進んでくる。私は眉をひそめてその姿をまっすぐと見る。アマーリアは顎先をあげて私たちを見下すような視線で進んできた。その背後の仲間たちもまたゆっくりと私たちを取り囲む。

 お互いの姿がはっきりと見える距離で私たちは空の上で対峙する。

 アマーリアは目を伏せるとわざとらしくため息を吐いた。

「こうなるとは思っていたよ。竜と私たちをあざむくための画策かくさくをして、自分の罪をごまかすだろうとね。隣の小さな魔女は我々に登録もされないままに魔法を行使している。師弟そろって罪深い存在だ。いむむべき驚異的な存在と手を組み、また使役するべき存在と足並みをそろえてプライドもない。魔女や魔法使いが作り上げた歴史を否定する。大罪人だ。心から軽蔑けいべつするよ」

 私は箒を握る手にぎゅっと力が入るのを感じる。この人は何も知らない。何も知ろうとしない。話さえ聞こうとしないのだ。魔女であるはずなのに、きっと本当に大切な部分を忘れてしまっている。

「あらあら。難しい言葉を使うじゃないアマーリア。私が魔法保安局にいた時には可愛らしい後輩だったのにどうしちゃったのかしら?それにこうなるようにけしかけたのは、あなたたち魔法保安局でしょう?琴音の過去を聞きもしないのに勝手に調べて、琴音をいじめていた人間を利用して、私に竜を倒させるのが目的だったのでしょう?もしくは白竜に私が倒されるのが目的だったのは知らないけれど」

 ハッと私はミーナさんを見上げた。思えばそうだ。あんな所に偶然とはいえ都合よく、私のクラスメートが現れるとも考えにくい、それに知っていたかのように彼らは首飾りを取り上げて砕いた。そして砕かれたことをアマーリアも当然のように口走っていた。少し考えるとわかることだ。

 なぜこうも私は利用されなければならない。心の中が熱く熱を帯びる。火の魔法を用いた時みたいに怒りを持って。

 アマーリアは表情も変えずにふん。と鼻を鳴らす。

「どちらにしても結果はどうでもよかったんだよ。お前がこの世界から消えてお前にかかわった精霊や人の記憶から消える。当然隣の女も同じだ。力を持った異端者いたんしゃは世界を変えてしまう。今まで構築された規律を破り、新しい定義を生んでしまう。それは許されない。そんな身勝手は許されてはいけないんだ。虐げられる者がいて何が悪い?それもまた規律だ。上下や境を無くしてしまっては、いずれ争いを生む。耐えられないんだよ。ミーナほどみんなが強いわけではないんだ」

 なぜわからない?とアマーリアは口を固く結ぶ。

 なんだか私にはこの魔女と人はたいして変わらないのだなと思った。結局の所、誰かが変化を求めることで、自分たちの小さな社会が、自分の存在が変えられてしまうことを恐れているだけなのだ。

 だからこそ徒党を組んで変化をもたらす存在は数で押さえつけるしかない。ただそれだけのことなのだ。ミーナさんは胸を張り、わずかに笑みを浮かべたまま口を開いた。
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