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最終章 現世の魔法があるところ
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「いいえ。そうは思いません。人も魔女も精霊だって変わっていく。変化を無理に押さえつけなくても怖くなんてないの。お互いにお互いの心へ触れ合うことでこんなにも仲よくなれる。お互いがお互いを好きになって力をわかち合うことで、こんなに小さな女の子だって強大な竜にも立ち向かうことができる。世界も変えていける¥
ミーナさんは私を見て片目を閉じた。大丈夫だよという音が流れてくる。
「もともと私がカフェ・ノードを作ったのもそう。互いに互いが信頼し合って生きていける場所を作りたかったから。でも私ひとりでは何も変えられないと諦めそうになった時もあったけど、琴音が違うと証明してくれた。世界も慣習も辛い過去やこれから起こる辛いことだって変えていけるの。あなたはまだ自分の世界しか見えていないだけだわ。アマーリア」
詭弁だ。とアマーリアが顔をそむける。ただ耳はこちらを向いている。ミーナさんの言葉は容赦無くアマーリアをとらえていた。
「周りを見渡してごらんなさい。こんなにも世界は広くてたくさんの生き方が存在している。知らない世界を知ることで、その声を聞くことで、世界が広がりそんな下らない考え方に支配されないで済むはずよ。何よりもそれが魔法を使う第一歩でしょう?この世を構成する元素の存在を知り、それを使役するのではなく友達になって世界の存在へと近づく。そして自分の世界を創り変えていく。それがね・・・私たちの魔法なの」
アマーリアの顔はどんどん赤くなっていく。口は固く結ばれて瞳は怒りに燃えていた。
周りを取り囲む人々もまた同じような表情を浮かべているのに私も気がつく。
私がいじめを初めて止めた時のように、私へのいじめが始まってしまった時と同じだ。
人や、人だった魔女や魔法使いだとしても、みんなが強いわけではない。誰もが弱さを隠して生きている。
弱い、自分の心が奏でる音から目を背けているのだ。だからこそミーナさんのような強い異端者を排除するしかない。自分の身を守るために、世界から目を背けるしかないのだ。
だけど私はもう怖くはない。
私の世界はこんなにも変わってしまったのだから。
アマーリアは怒りに震える体のままに杖を振り上げる。
「ならばいっそのこと何もかも忘れてられてしまえばいい。忘却の魔法はお前の下らない考えもまた消し去ってしまうだろう。お前には忘却の魔法はかけない。孤独に打ち震えながら己の行いを後悔できるように、この世界で生きるすべての存在からお前の記憶を奪い去ってやる」
「たとえまた私はひとりっきりになってしまっても、怖くないわ。琴音ちゃんにだって忘れられても、この街で出会ったすべての存在に忘れられても、私はカフェ・ノードにいる。そこでまたみんなと出会うの。そしてまた琴音ちゃんとまた友達になる。それにたくさんの存在と友達になるわ。何度でも言うけれど、私はもうひとりじゃないんだから。あなたと違ってね?アマーリア」
諭すようなミーナさんの言葉に、いよいよアマーリアは激昂し声を張り上げる。なんとかしなきゃと私が胸元から杖を取り出そうとするとミーナさんはいつものような、カフェで見るようなやわらかい笑顔で制する。
ミーナさんはもしかしたらわかっていたのではないだろうか。人も魔女もすぐには変われない。そんな簡単な話ではないことを。
だから何度でもやり直すことにした。どんなに止められても周りの存在が自分の記憶を失っても、再び出会うことを信じて。いつかこの世界が変わることを信じてそうすることを選んだのではないのだろうか。
「嫌だ!私はミーナさんのことを忘れたくない!」
叫ぶ私の声にミーナさんは目を閉じて応える。ミーナさん!と袖を引っ張る私に大丈夫。とミーナさんは頭をなでる。アマーリアの持つ杖の先端から、陽炎のように歪められた空間が肥大していく。その先に見えるはずの景色は何も見えない。
そして杖をアマーリアは私へと向けて放った。
しかし確かに杖先から放たれた空間の歪みは私の目の前で霧となって消えた。白い霧は辺りを包んで、やがて透明な空気の中へと消えていった。
「きさま!何かやったな!?」
困惑して何度も杖を振るうアマーリアは瞳を激しく泳がせている。私もまた目を丸めてミーナさんを見ると、ミーナさんすら何が起こったかわからないと言った表情で唖然と固まっていた。
霧が晴れるのに合わせて、アマーリアの後方で待機していた魔女や魔法使いの列は割れて、いつしか中央には三人の魔女が立っていた。
中央の魔女は背が高くほっそりとしていて大きな三角帽子から表情は見えない。右隣には恰幅の良いふくよかな魔女が、左には小柄な魔女がそれぞれ両手をそろえて私たちを眺めている。足元には草木や花々が咲き乱れていた。そこだ空だとは忘れてしまうほどにそれはまっすぐと私たちの方向へと伸びていき、静かに三人の魔女は足並みをそろえて歩きだした。まるでお散歩をするかのような優雅さで。
「まぁそんな魔法を使われたら大変だわ。最近は物忘れがひどくなってきたというのに。ねぇ?」
中央の魔女が広い空にもよく通る声で言うと、ふくよかな魔女はうんうん。と腕を組んでうなずいてみせる。
「そうそう。お客さんの電話番号まで忘れたら一大事だわ。私の会社にはもう高齢者しかいないんだから」
「あらあら。そうじゃなくてもアンタはいっつも忘れるじゃない。朝ごはんに何を食べたか覚えている?」
小柄がくすくす笑いと共にパシリ!とふくよかな魔女を叩くと、失礼ね!とふくよかな魔女は盛大な笑い声をあげた。まさか・・・とミーナさんは目を丸めて私を見る。私も表情を固めたままそれに応える。このやり取りには見覚えがあった。それもミーナさんのお店のランチタイムで。何度も見かけた光景だった。
「花咲く三人の魔女!?隠居されたはずでは!?」
アマーリアは仰け反り杖から降りると、足元に広がった草花の絨毯へと膝を下ろす。その隣を言葉もなく通りすぎると三人の魔女は私たちの前に立ち、それぞれ帽子を脱いだ。
西賀茂倶楽部の面々がいつもと同じ表情で立っている。違うのは黒いローブを着込んでいて、魔女である証拠の杖を持ち、箒が後ろにふわふわと意志を持つかのように浮いているだけだ。
杖にはそれぞれに猫が、我が物顔で座ってる。
タールーの猫絨毯に乗った時、呼び出された三匹の猫でもあった。おこげとごはん、そしてしゃもじと呼ばれていたのを私は思い出す。
「お帰りなさい。ミーナ・フォーゲル。しばらくお店を閉めるなら教えておいてくれたらいいのにね。三人のおばあちゃんはお店の前で右往左往としてしまったわ。ねぇ。塚田さん?」
ミーナさんは私を見て片目を閉じた。大丈夫だよという音が流れてくる。
「もともと私がカフェ・ノードを作ったのもそう。互いに互いが信頼し合って生きていける場所を作りたかったから。でも私ひとりでは何も変えられないと諦めそうになった時もあったけど、琴音が違うと証明してくれた。世界も慣習も辛い過去やこれから起こる辛いことだって変えていけるの。あなたはまだ自分の世界しか見えていないだけだわ。アマーリア」
詭弁だ。とアマーリアが顔をそむける。ただ耳はこちらを向いている。ミーナさんの言葉は容赦無くアマーリアをとらえていた。
「周りを見渡してごらんなさい。こんなにも世界は広くてたくさんの生き方が存在している。知らない世界を知ることで、その声を聞くことで、世界が広がりそんな下らない考え方に支配されないで済むはずよ。何よりもそれが魔法を使う第一歩でしょう?この世を構成する元素の存在を知り、それを使役するのではなく友達になって世界の存在へと近づく。そして自分の世界を創り変えていく。それがね・・・私たちの魔法なの」
アマーリアの顔はどんどん赤くなっていく。口は固く結ばれて瞳は怒りに燃えていた。
周りを取り囲む人々もまた同じような表情を浮かべているのに私も気がつく。
私がいじめを初めて止めた時のように、私へのいじめが始まってしまった時と同じだ。
人や、人だった魔女や魔法使いだとしても、みんなが強いわけではない。誰もが弱さを隠して生きている。
弱い、自分の心が奏でる音から目を背けているのだ。だからこそミーナさんのような強い異端者を排除するしかない。自分の身を守るために、世界から目を背けるしかないのだ。
だけど私はもう怖くはない。
私の世界はこんなにも変わってしまったのだから。
アマーリアは怒りに震える体のままに杖を振り上げる。
「ならばいっそのこと何もかも忘れてられてしまえばいい。忘却の魔法はお前の下らない考えもまた消し去ってしまうだろう。お前には忘却の魔法はかけない。孤独に打ち震えながら己の行いを後悔できるように、この世界で生きるすべての存在からお前の記憶を奪い去ってやる」
「たとえまた私はひとりっきりになってしまっても、怖くないわ。琴音ちゃんにだって忘れられても、この街で出会ったすべての存在に忘れられても、私はカフェ・ノードにいる。そこでまたみんなと出会うの。そしてまた琴音ちゃんとまた友達になる。それにたくさんの存在と友達になるわ。何度でも言うけれど、私はもうひとりじゃないんだから。あなたと違ってね?アマーリア」
諭すようなミーナさんの言葉に、いよいよアマーリアは激昂し声を張り上げる。なんとかしなきゃと私が胸元から杖を取り出そうとするとミーナさんはいつものような、カフェで見るようなやわらかい笑顔で制する。
ミーナさんはもしかしたらわかっていたのではないだろうか。人も魔女もすぐには変われない。そんな簡単な話ではないことを。
だから何度でもやり直すことにした。どんなに止められても周りの存在が自分の記憶を失っても、再び出会うことを信じて。いつかこの世界が変わることを信じてそうすることを選んだのではないのだろうか。
「嫌だ!私はミーナさんのことを忘れたくない!」
叫ぶ私の声にミーナさんは目を閉じて応える。ミーナさん!と袖を引っ張る私に大丈夫。とミーナさんは頭をなでる。アマーリアの持つ杖の先端から、陽炎のように歪められた空間が肥大していく。その先に見えるはずの景色は何も見えない。
そして杖をアマーリアは私へと向けて放った。
しかし確かに杖先から放たれた空間の歪みは私の目の前で霧となって消えた。白い霧は辺りを包んで、やがて透明な空気の中へと消えていった。
「きさま!何かやったな!?」
困惑して何度も杖を振るうアマーリアは瞳を激しく泳がせている。私もまた目を丸めてミーナさんを見ると、ミーナさんすら何が起こったかわからないと言った表情で唖然と固まっていた。
霧が晴れるのに合わせて、アマーリアの後方で待機していた魔女や魔法使いの列は割れて、いつしか中央には三人の魔女が立っていた。
中央の魔女は背が高くほっそりとしていて大きな三角帽子から表情は見えない。右隣には恰幅の良いふくよかな魔女が、左には小柄な魔女がそれぞれ両手をそろえて私たちを眺めている。足元には草木や花々が咲き乱れていた。そこだ空だとは忘れてしまうほどにそれはまっすぐと私たちの方向へと伸びていき、静かに三人の魔女は足並みをそろえて歩きだした。まるでお散歩をするかのような優雅さで。
「まぁそんな魔法を使われたら大変だわ。最近は物忘れがひどくなってきたというのに。ねぇ?」
中央の魔女が広い空にもよく通る声で言うと、ふくよかな魔女はうんうん。と腕を組んでうなずいてみせる。
「そうそう。お客さんの電話番号まで忘れたら一大事だわ。私の会社にはもう高齢者しかいないんだから」
「あらあら。そうじゃなくてもアンタはいっつも忘れるじゃない。朝ごはんに何を食べたか覚えている?」
小柄がくすくす笑いと共にパシリ!とふくよかな魔女を叩くと、失礼ね!とふくよかな魔女は盛大な笑い声をあげた。まさか・・・とミーナさんは目を丸めて私を見る。私も表情を固めたままそれに応える。このやり取りには見覚えがあった。それもミーナさんのお店のランチタイムで。何度も見かけた光景だった。
「花咲く三人の魔女!?隠居されたはずでは!?」
アマーリアは仰け反り杖から降りると、足元に広がった草花の絨毯へと膝を下ろす。その隣を言葉もなく通りすぎると三人の魔女は私たちの前に立ち、それぞれ帽子を脱いだ。
西賀茂倶楽部の面々がいつもと同じ表情で立っている。違うのは黒いローブを着込んでいて、魔女である証拠の杖を持ち、箒が後ろにふわふわと意志を持つかのように浮いているだけだ。
杖にはそれぞれに猫が、我が物顔で座ってる。
タールーの猫絨毯に乗った時、呼び出された三匹の猫でもあった。おこげとごはん、そしてしゃもじと呼ばれていたのを私は思い出す。
「お帰りなさい。ミーナ・フォーゲル。しばらくお店を閉めるなら教えておいてくれたらいいのにね。三人のおばあちゃんはお店の前で右往左往としてしまったわ。ねぇ。塚田さん?」
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