【完結】現世の魔法があるところ 〜京都市北区のカフェと魔女。私の世界が解ける音〜

tanakan

文字の大きさ
51 / 53
最終章 現世の魔法があるところ

-3-

しおりを挟む
「いいえ。そうは思いません。人も魔女も精霊だって変わっていく。変化を無理に押さえつけなくても怖くなんてないの。お互いにお互いの心へ触れ合うことでこんなにも仲よくなれる。お互いがお互いを好きになって力をわかち合うことで、こんなに小さな女の子だって強大な竜にも立ち向かうことができる。世界も変えていける¥

 ミーナさんは私を見て片目を閉じた。大丈夫だよという音が流れてくる。

「もともと私がカフェ・ノードを作ったのもそう。互いに互いが信頼し合って生きていける場所を作りたかったから。でも私ひとりでは何も変えられないと諦めそうになった時もあったけど、琴音が違うと証明してくれた。世界も慣習も辛い過去やこれから起こる辛いことだって変えていけるの。あなたはまだ自分の世界しか見えていないだけだわ。アマーリア」

 詭弁だ。とアマーリアが顔をそむける。ただ耳はこちらを向いている。ミーナさんの言葉は容赦無くアマーリアをとらえていた。

「周りを見渡してごらんなさい。こんなにも世界は広くてたくさんの生き方が存在している。知らない世界を知ることで、その声を聞くことで、世界が広がりそんな下らない考え方に支配されないで済むはずよ。何よりもそれが魔法を使う第一歩でしょう?この世を構成する元素の存在を知り、それを使役するのではなく友達になって世界の存在へと近づく。そして自分の世界を創り変えていく。それがね・・・私たちの魔法なの」

 アマーリアの顔はどんどん赤くなっていく。口は固く結ばれて瞳は怒りに燃えていた。

 周りを取り囲む人々もまた同じような表情を浮かべているのに私も気がつく。

 私がいじめを初めて止めた時のように、私へのいじめが始まってしまった時と同じだ。

 人や、人だった魔女や魔法使いだとしても、みんなが強いわけではない。誰もが弱さを隠して生きている。

 弱い、自分の心が奏でる音から目を背けているのだ。だからこそミーナさんのような強い異端者を排除するしかない。自分の身を守るために、世界から目を背けるしかないのだ。

 だけど私はもう怖くはない。

 私の世界はこんなにも変わってしまったのだから。

 アマーリアは怒りに震える体のままに杖を振り上げる。

「ならばいっそのこと何もかも忘れてられてしまえばいい。忘却ぼうきゃくの魔法はお前の下らない考えもまた消し去ってしまうだろう。お前には忘却の魔法はかけない。孤独に打ち震えながら己の行いを後悔できるように、この世界で生きるすべての存在からお前の記憶を奪い去ってやる」

「たとえまた私はひとりっきりになってしまっても、怖くないわ。琴音ちゃんにだって忘れられても、この街で出会ったすべての存在に忘れられても、私はカフェ・ノードにいる。そこでまたみんなと出会うの。そしてまた琴音ちゃんとまた友達になる。それにたくさんの存在と友達になるわ。何度でも言うけれど、私はもうひとりじゃないんだから。あなたと違ってね?アマーリア」

 諭すようなミーナさんの言葉に、いよいよアマーリアは激昂し声を張り上げる。なんとかしなきゃと私が胸元から杖を取り出そうとするとミーナさんはいつものような、カフェで見るようなやわらかい笑顔で制する。

 ミーナさんはもしかしたらわかっていたのではないだろうか。人も魔女もすぐには変われない。そんな簡単な話ではないことを。

 だから何度でもやり直すことにした。どんなに止められても周りの存在が自分の記憶を失っても、再び出会うことを信じて。いつかこの世界が変わることを信じてそうすることを選んだのではないのだろうか。

「嫌だ!私はミーナさんのことを忘れたくない!」

 叫ぶ私の声にミーナさんは目を閉じて応える。ミーナさん!と袖を引っ張る私に大丈夫。とミーナさんは頭をなでる。アマーリアの持つ杖の先端から、陽炎かげろうのように歪められた空間が肥大していく。その先に見えるはずの景色は何も見えない。

 そして杖をアマーリアは私へと向けて放った。

 しかし確かに杖先から放たれた空間の歪みは私の目の前で霧となって消えた。白い霧は辺りを包んで、やがて透明な空気の中へと消えていった。

「きさま!何かやったな!?」

 困惑して何度も杖を振るうアマーリアは瞳を激しく泳がせている。私もまた目を丸めてミーナさんを見ると、ミーナさんすら何が起こったかわからないと言った表情で唖然あぜんと固まっていた。

 霧が晴れるのに合わせて、アマーリアの後方で待機していた魔女や魔法使いの列は割れて、いつしか中央には三人の魔女が立っていた。

 中央の魔女は背が高くほっそりとしていて大きな三角帽子から表情は見えない。右隣には恰幅の良いふくよかな魔女が、左には小柄な魔女がそれぞれ両手をそろえて私たちを眺めている。足元には草木や花々が咲き乱れていた。そこだ空だとは忘れてしまうほどにそれはまっすぐと私たちの方向へと伸びていき、静かに三人の魔女は足並みをそろえて歩きだした。まるでお散歩をするかのような優雅ゆうがさで。

「まぁそんな魔法を使われたら大変だわ。最近は物忘れがひどくなってきたというのに。ねぇ?」

 中央の魔女が広い空にもよく通る声で言うと、ふくよかな魔女はうんうん。と腕を組んでうなずいてみせる。

「そうそう。お客さんの電話番号まで忘れたら一大事だわ。私の会社にはもう高齢者しかいないんだから」

「あらあら。そうじゃなくてもアンタはいっつも忘れるじゃない。朝ごはんに何を食べたか覚えている?」

 小柄がくすくす笑いと共にパシリ!とふくよかな魔女を叩くと、失礼ね!とふくよかな魔女は盛大な笑い声をあげた。まさか・・・とミーナさんは目を丸めて私を見る。私も表情を固めたままそれに応える。このやり取りには見覚えがあった。それもミーナさんのお店のランチタイムで。何度も見かけた光景だった。

「花咲く三人の魔女!?隠居いんきょされたはずでは!?」

 アマーリアは仰け反り杖から降りると、足元に広がった草花の絨毯じゅうたんへと膝を下ろす。その隣を言葉もなく通りすぎると三人の魔女は私たちの前に立ち、それぞれ帽子を脱いだ。

 西賀茂倶楽部にしがもくらぶの面々がいつもと同じ表情で立っている。違うのは黒いローブを着込んでいて、魔女である証拠の杖を持ち、箒が後ろにふわふわと意志を持つかのように浮いているだけだ。

 杖にはそれぞれに猫が、物顔ものがおで座ってる。
 
 タールーの猫絨毯に乗った時、呼び出された三匹の猫でもあった。おこげとごはん、そしてしゃもじと呼ばれていたのを私は思い出す。

「お帰りなさい。ミーナ・フォーゲル。しばらくお店を閉めるなら教えておいてくれたらいいのにね。三人のおばあちゃんはお店の前で右往左往としてしまったわ。ねぇ。塚田つかださん?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

処理中です...