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「なっ、何するんですか?!」
「ごめん。なんか一番掴みやすそうなとこがそこだった」
「湊、なに失礼なことしてんの」
「いや、お前さ」
湊は呆れた顔を結華へ向け、
「見た目はたぬきだよ? 中身もたぬきだよ? でもさ、想像してみ? モフモフしてる時の自分と明を、人間の明とに変換してみ?」
「……湊だって人のこと言えないでしょ」
「…………あれは……」
「あれは救命措置。これはお礼。何が駄目なの」
「だからお前……」
「……あの、なんのお話ですか?」
結華と湊を交互に見て、明だぬきが首を傾げる。
「あ、いえ「おれは結華がいないと死ぬって話」言い方」
それを聞いた明は、ピタッと動きを止め、
「……えっ……と、……お二人はお付き合い「してませんので」え、あ、はい……」
結華は明へずい、と近寄り、未だに明の尻尾を掴んでいる湊のその腕をペシペシ叩いて、
「ほら、離して」
「……」
湊がそっと手を離すと、
「失礼しますね」
「えっ、わっ」
明を持ち上げ、膝の上に抱き上げ、ぎゅ、と抱きしめた。
「ふわふわ……」
明はピキン、と固まってしまい、全く動かない。というより動けないのだろう。結華はその明の頭を撫でたり、背中の毛に手を埋めたり。
「……結華」
「ん?」
「おれさ、今結構消耗してんのね」
不満げに言う湊のそれに、
「え、……あ、そっか。さっきのディアラのことがあったもんね。どうぞ」
「『どうぞ』?」
「背中」
「ふぅん? じゃ、お言葉に甘えて」
湊は立ち上がると、結華の後ろへ周り、
「よいしょ」
「へ」
「わっ?」
結華を抱き上げると、その状態で結華が座っていた丸いクッションを下に敷いて座り、結華を後ろから抱きしめる形を取った。
「……背中じゃなくない?」
「結華の背中ではある」
「あ、あの……やっぱりお二人は、お付き合い……」
「そうでなくてですね。とても誤解を招きやすいんですけど……。……湊、説明頼んだ」
「丸投げ」
湊は一度、ため息のような息を吐くと、明に説明をし始めた。その間、結華はふわふわな毛並みを堪能する。
「なるほど……だから佐々木さんは、独特な気配をしていたんですね」
「ま、その気配に気づくのも、明みたいなヤツだけだろうけどな。そもそも大体の人間は、そういうものに鈍い」
「鈍いんだ?」
結華の言葉に、「鈍いぞ」「鈍いですね」と二人ともが答える。
「神とか何かしらを信仰してんだから、昔はそうでもなかったんだろうけど。今、そういうものと直に接触したり、そうでなくとも意思疎通が図れたり、気配を感じたり出来るのは、そういう血筋を守ってきた人間か、先祖返りとかだろうな」
湊の説明に、「へえー」と結華は気のない返事をした。
「……佐々木さん。先程はすみませんでした」
「え?」
「ディアラさんがあそこに居たのは、ディアラさんか佐々木さんが、人間ではないボクが結華さんに近づいたから警戒して、ですよね。ボクも周りを警戒してましたから、そしてディアラさんの気配に馴染みがなかったから、ああしてしまった。申し訳なく思います」
明がしょげた声で言う。
「んー……あの行動はディアラの判断だな。そんで俺の油断だ。──ディアラ」
湊の声で、
「クルルゥ」
ディアラが天井から波紋を広げて出現する。
「! グルゥ……」
そして、サッと湊の背中にくっつくと、小さく唸り声を上げた。
「あー……まだ警戒してるなぁ」
「あ、あの、結華さん。ディアラさんに謝りたいので、離していただけますか?」
「あ、はい」
結華が腕の力を抜くと、明はそこからするりと抜け、結華達──その後ろのディアラへ向き、たぬきのまま、ペタッと体を床につけ、
「ディアラさん。先程はすみませんでした。大いに反省いたします。以後、このようなことは致しません」
「ほら、ディアラ」
「…………クルゥ……」
ディアラは翼を広げて飛び立つと、
「……ん?」
「え?」「ディアラ?」
結華の頭の上に留まった。
「え、なに? なんで? う、動かないほうがいい?」
「何してんだディアラ。降りなさい」
「クルゥ、クルルゥ」
「え」「はっ? ちが、ディアラ全然違う何言ってんだお前」
「クルルゥ、クル、クルルル」
「わ、分かりました……」
「分からなくていい明。ディアラ、お前発想が飛躍しすぎだ」
ディアラの言葉が分からない結華には、三人──二匹と一人? の会話の内容が掴めない。
「ねえ、なんの話?」
「あ、それは「なんでもない。結華にはなんでもない。ディアラ」
湊は明の言葉を遮り、ディアラを掴んで結華の頭の上から下ろすと、
「あとで『話し合い』だからな。ディアラ」
「……クルゥ」
「違う。もう戻れディアラ」
「……クル」
後ろから抱きかかえられていたために状況がよく分からなかった結華が、辛うじて理解できたのは、湊がとても困ったような声を出していたことと、ディアラの声が不服そうだったこと。
そして、ディアラの声がしなくなる。
「……もしかして、ディアラ、戻った?」
「戻った」
「あ、あの、結華さん」
そこに、明がたぬき姿のままで声をかける。
「ご恩をお返しするのに、今のだけで良いのでしょうか? 先祖から伝わる秘薬とか、妙薬とか、そういうものもあるのですが」
「いやいや、いいですよ」
結華は苦笑して、
「それ、絶対に宝の持ち腐れになりますもん。今ので充分です」
「そうですか……?」
「あ!」
今度は湊が声を上げる。
「お前、おれからの礼の内容も保留にしっぱなしだろ。なんか言え」
「え? ああ……忘れてた……」
「忘れるなよ……」
湊は呆れるが、
「でもさ、お礼って言ったって……もうちょい、保留で」
「お前なぁ……」
そんな二人を見ていた明は、
「あの……では、ボクは、失礼しますね……?」
控えめにそう言って、人間の姿になる。
「あ、はい。わざわざご足労を……あ」
「?」
「二ッ岩さんも、良かったらグループライン入りません?」
「え?」
結華のそれに、話が見えない、という顔をする明に、
「ああ。明も住んでるもんな」
と、湊が納得した声で言う。
「えっと、なんのお話でしょうか……?」
居住まいを正す明に、結華がスマホの、その画面を見せる。
「ご近所付き合いってことで、柏木荘のグループラインを作ったんですよ。今、全体の半数が入ってます」
「……お邪魔しても良いんですか……?」
たぬきが……と言う明。
「学校でもあまり顔を合わせないほうが良いんですよね? グループに入ってご迷惑にならないでしょうか……」
「学校でも? て?」
湊の言葉に、
「ああ、ボク、今は紅蘭の用務員として働いてるんです。新年度になってからの配置換えで、紅蘭に来てからはまだ日が浅いですが……」
「え、そうだったんだ? 明、ウチに勤めてんの?」
「はい」
「なら結華の言う通り入ろうぜ。グループ、紅蘭のやつしかいないし、なんか丁度いいだろ」
「え、ええ……?」
戸惑う明に、結華は苦笑する。
「あの時はすみません。私、大家の娘ではありますが、大家ではないので、親からも最低限の情報しか渡されてないんです。だから、二ッ岩さんがあそこにいた時、少し驚いてしまって……咄嗟にああ言ってしまって、すみませんでした」
「あ、いえ、それは……いや、そういうことだったんですね。学校では線引きしているのかと……あ、では、それなら、グループ、入らせていただいても良いですか?」
「はい。どうぞ」
結華が差し出したスマホに、明はジーンズのポケットからスマホを取り出し、ラインの交換をする。そして、結華が明を招待する。
それを見ていた湊が、
「なあ、たぬきなのは言わないほうが良いの?」
「……それは、なるべくなら……」
「そっか。了解」
湊は素直に頷いた。
「ごめん。なんか一番掴みやすそうなとこがそこだった」
「湊、なに失礼なことしてんの」
「いや、お前さ」
湊は呆れた顔を結華へ向け、
「見た目はたぬきだよ? 中身もたぬきだよ? でもさ、想像してみ? モフモフしてる時の自分と明を、人間の明とに変換してみ?」
「……湊だって人のこと言えないでしょ」
「…………あれは……」
「あれは救命措置。これはお礼。何が駄目なの」
「だからお前……」
「……あの、なんのお話ですか?」
結華と湊を交互に見て、明だぬきが首を傾げる。
「あ、いえ「おれは結華がいないと死ぬって話」言い方」
それを聞いた明は、ピタッと動きを止め、
「……えっ……と、……お二人はお付き合い「してませんので」え、あ、はい……」
結華は明へずい、と近寄り、未だに明の尻尾を掴んでいる湊のその腕をペシペシ叩いて、
「ほら、離して」
「……」
湊がそっと手を離すと、
「失礼しますね」
「えっ、わっ」
明を持ち上げ、膝の上に抱き上げ、ぎゅ、と抱きしめた。
「ふわふわ……」
明はピキン、と固まってしまい、全く動かない。というより動けないのだろう。結華はその明の頭を撫でたり、背中の毛に手を埋めたり。
「……結華」
「ん?」
「おれさ、今結構消耗してんのね」
不満げに言う湊のそれに、
「え、……あ、そっか。さっきのディアラのことがあったもんね。どうぞ」
「『どうぞ』?」
「背中」
「ふぅん? じゃ、お言葉に甘えて」
湊は立ち上がると、結華の後ろへ周り、
「よいしょ」
「へ」
「わっ?」
結華を抱き上げると、その状態で結華が座っていた丸いクッションを下に敷いて座り、結華を後ろから抱きしめる形を取った。
「……背中じゃなくない?」
「結華の背中ではある」
「あ、あの……やっぱりお二人は、お付き合い……」
「そうでなくてですね。とても誤解を招きやすいんですけど……。……湊、説明頼んだ」
「丸投げ」
湊は一度、ため息のような息を吐くと、明に説明をし始めた。その間、結華はふわふわな毛並みを堪能する。
「なるほど……だから佐々木さんは、独特な気配をしていたんですね」
「ま、その気配に気づくのも、明みたいなヤツだけだろうけどな。そもそも大体の人間は、そういうものに鈍い」
「鈍いんだ?」
結華の言葉に、「鈍いぞ」「鈍いですね」と二人ともが答える。
「神とか何かしらを信仰してんだから、昔はそうでもなかったんだろうけど。今、そういうものと直に接触したり、そうでなくとも意思疎通が図れたり、気配を感じたり出来るのは、そういう血筋を守ってきた人間か、先祖返りとかだろうな」
湊の説明に、「へえー」と結華は気のない返事をした。
「……佐々木さん。先程はすみませんでした」
「え?」
「ディアラさんがあそこに居たのは、ディアラさんか佐々木さんが、人間ではないボクが結華さんに近づいたから警戒して、ですよね。ボクも周りを警戒してましたから、そしてディアラさんの気配に馴染みがなかったから、ああしてしまった。申し訳なく思います」
明がしょげた声で言う。
「んー……あの行動はディアラの判断だな。そんで俺の油断だ。──ディアラ」
湊の声で、
「クルルゥ」
ディアラが天井から波紋を広げて出現する。
「! グルゥ……」
そして、サッと湊の背中にくっつくと、小さく唸り声を上げた。
「あー……まだ警戒してるなぁ」
「あ、あの、結華さん。ディアラさんに謝りたいので、離していただけますか?」
「あ、はい」
結華が腕の力を抜くと、明はそこからするりと抜け、結華達──その後ろのディアラへ向き、たぬきのまま、ペタッと体を床につけ、
「ディアラさん。先程はすみませんでした。大いに反省いたします。以後、このようなことは致しません」
「ほら、ディアラ」
「…………クルゥ……」
ディアラは翼を広げて飛び立つと、
「……ん?」
「え?」「ディアラ?」
結華の頭の上に留まった。
「え、なに? なんで? う、動かないほうがいい?」
「何してんだディアラ。降りなさい」
「クルゥ、クルルゥ」
「え」「はっ? ちが、ディアラ全然違う何言ってんだお前」
「クルルゥ、クル、クルルル」
「わ、分かりました……」
「分からなくていい明。ディアラ、お前発想が飛躍しすぎだ」
ディアラの言葉が分からない結華には、三人──二匹と一人? の会話の内容が掴めない。
「ねえ、なんの話?」
「あ、それは「なんでもない。結華にはなんでもない。ディアラ」
湊は明の言葉を遮り、ディアラを掴んで結華の頭の上から下ろすと、
「あとで『話し合い』だからな。ディアラ」
「……クルゥ」
「違う。もう戻れディアラ」
「……クル」
後ろから抱きかかえられていたために状況がよく分からなかった結華が、辛うじて理解できたのは、湊がとても困ったような声を出していたことと、ディアラの声が不服そうだったこと。
そして、ディアラの声がしなくなる。
「……もしかして、ディアラ、戻った?」
「戻った」
「あ、あの、結華さん」
そこに、明がたぬき姿のままで声をかける。
「ご恩をお返しするのに、今のだけで良いのでしょうか? 先祖から伝わる秘薬とか、妙薬とか、そういうものもあるのですが」
「いやいや、いいですよ」
結華は苦笑して、
「それ、絶対に宝の持ち腐れになりますもん。今ので充分です」
「そうですか……?」
「あ!」
今度は湊が声を上げる。
「お前、おれからの礼の内容も保留にしっぱなしだろ。なんか言え」
「え? ああ……忘れてた……」
「忘れるなよ……」
湊は呆れるが、
「でもさ、お礼って言ったって……もうちょい、保留で」
「お前なぁ……」
そんな二人を見ていた明は、
「あの……では、ボクは、失礼しますね……?」
控えめにそう言って、人間の姿になる。
「あ、はい。わざわざご足労を……あ」
「?」
「二ッ岩さんも、良かったらグループライン入りません?」
「え?」
結華のそれに、話が見えない、という顔をする明に、
「ああ。明も住んでるもんな」
と、湊が納得した声で言う。
「えっと、なんのお話でしょうか……?」
居住まいを正す明に、結華がスマホの、その画面を見せる。
「ご近所付き合いってことで、柏木荘のグループラインを作ったんですよ。今、全体の半数が入ってます」
「……お邪魔しても良いんですか……?」
たぬきが……と言う明。
「学校でもあまり顔を合わせないほうが良いんですよね? グループに入ってご迷惑にならないでしょうか……」
「学校でも? て?」
湊の言葉に、
「ああ、ボク、今は紅蘭の用務員として働いてるんです。新年度になってからの配置換えで、紅蘭に来てからはまだ日が浅いですが……」
「え、そうだったんだ? 明、ウチに勤めてんの?」
「はい」
「なら結華の言う通り入ろうぜ。グループ、紅蘭のやつしかいないし、なんか丁度いいだろ」
「え、ええ……?」
戸惑う明に、結華は苦笑する。
「あの時はすみません。私、大家の娘ではありますが、大家ではないので、親からも最低限の情報しか渡されてないんです。だから、二ッ岩さんがあそこにいた時、少し驚いてしまって……咄嗟にああ言ってしまって、すみませんでした」
「あ、いえ、それは……いや、そういうことだったんですね。学校では線引きしているのかと……あ、では、それなら、グループ、入らせていただいても良いですか?」
「はい。どうぞ」
結華が差し出したスマホに、明はジーンズのポケットからスマホを取り出し、ラインの交換をする。そして、結華が明を招待する。
それを見ていた湊が、
「なあ、たぬきなのは言わないほうが良いの?」
「……それは、なるべくなら……」
「そっか。了解」
湊は素直に頷いた。
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