昔々の幼なじみの

山法師

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19 木に登ろう

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 あれから何日も経って、村の人達が私に完全に飽きた頃。

「なんか、ずっと頭がすっきりしない」

 私はそんな悩みを抱えていた。
 痛むワケじゃない。ふらついたりもしない。
 ただ、薄くもやがかかったように感じる。
 どうしたもんか。気つけもあんまり効かないし。

「…………よし。登るか」

 木に。



 森と村の境目の、森側に少し入った所にある、村で一番高い木。
 そのてっぺん、まではいかないけど、人が乗ってもぎりぎり折れない所まで。

「よっ」

 枝と幹の間に腰を落ち着かせて、深く呼吸をする。

「気持ちいいなー」

 だいぶすっきりする。
 周りは柔らかい風と、木の葉の擦れる音だけ。人の声も遠いくて、なんとなく気が楽になる。

「……」

 けど、靄は晴れない。

「……なんなんだろ」

 覚えてない三日と、何か関係してるんだろうか。
 考えても分からない。

「んー……」

 家の事もやったし、今日はずっとここにいようかな。もやもやとの付き合い方を考えよう。

「──ルマ、アルマ!」

 ……そうもいかないらしい。この声は村長の奥さんだ。

「全く……」

 何軒か向こうにいる奥さんの姿は、こっちからよく見える。
 けど私は下からじゃ見えないんだろうな。枝とかで。

「こういう時にかぎって!」

 えー、なんだろう……怒ってるんじゃなくて焦ってるみたいだけど……。頼まれ事もなかったはずだし。

「アルマ! どこにいるんだい!」

 するすると木を降りて、小走りに道を抜ける。

「こんにちはヘイディさん。何かありました?」
「ああいた! ちょっと来ておくれ!」

 それだけ言うと、奥さん──ヘイディさんはくるりと背を向けてすたすたと歩いていく。
 行き先言ってくれなかったけど、まあ、ご自宅だろうな。

「分かりました」

 ついて行きながら考える。
 私をわざわざ探してまで言いつける用事って、なんだろう?



 …………。

「な? いい話だろう?」

 村長、そんな笑顔で凄まなくても。

「とても良くして下さるそうですよ。こんな事、もう滅多にないんだから」

 ヘイディさんも目が怖い。いや、何も言わずに決められるより、温情があったとは思う。
 何事かと思えば。
 二つ隣の村へ嫁にいけ、とそんな話だった。

「ご商売も上手いぞ。いっちゃあなんだが、今までとは比べものにならない暮らしが出来るだろう」

 しかもその嫁入り先は、そこの村長の息子さんだという。

「はぁ」

 そしてその息子さん、ある事で有名だ。
 とんでもない遊び好き、そして飽き性。加えて、結構過激な嗜好をお持ちらしい。
 しかしどうしてかそんな噂を知ってても、皆ころりとやられてしまうという。

「とっても格好良くってお優しい人だそうよ」

 情報源は井戸端会議。なのでヘイディさんも知ってるっていうのに。

「お前にはもったいないくらい」

 その笑顔と台詞が逆に怖いです。
 そんなこんなで有名なその人は、今年で二十八になる。と、これは今聞いた。
 ご本人はまだまだ遊びたい盛りだそうだが、親御さんに「もう身を固めろ」と言われ、重い腰を上げた。独り身じゃ長を継げないという理由もあるらしい。
 で、そのご趣味から『ただの娘じゃつまらない』と、

「お前の話を聞いて、わざわざお声がけ下さったんだ」

 いう事らしいけど、まあなんとも柔らかい表現にして下さる。

「このご厚意に報いなさい」

 逃げられないなぁ。逃がしてくれる気もなさそうだしなぁ。


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