昔々の幼なじみの

山法師

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28 道

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「…………この角、ひんやりして気持ちいいね」

 腕の力が緩んで、すすり泣く声が小さくなったあたりでふと、そんな事を言ってみる。

「……あっそ……」

 黒く大きく少し歪だった角は、いつの間にか滑らかな形になっていた。

「……喋りが完全に崩れてますよ、王様」
「良いだろ、今くらい」

 完全に吹っ切れたな。

「じゃ、ちょっと座って良い? なんか、気が抜けて」

 特に、足の力が。

「ぇ」

 ヨウシアの答えを待たず、そのままストンと腰を下ろす。

「ぁ、あぁ……」

 なんだか心配そうな顔になったヨウシアは、中腰になって。
 覗き込んでくる赤と青の瞳に、私が映る。

「……ヨウシアって、あんま成長しなかったんだね」

 言えた事じゃないけど。
 私と同じくらいの身長だし、顔も可愛い系のまんまだし。
 言ったら、目を見開かれた。

「は、……違うこれは!」

 そして勢いつけてしゃがみ込んで、より近くで顔を覗き込まれる。

「なるべく力を抑えようとしたら、その、身体の成長も副次的に抑えられちゃったんだよ!」
「ふくじ?」
「あー、あー……つられてって感じ」

 そんな言葉初めて聞いた。勉強になる。

「だからこれからは、もう少しすれば……本来の歳に近い姿になる……はず……」

 さっきまでそんなの、考えてなかったけど。

 そう言ってヨウシアは、扉の方へ目を向ける。

「皆がアルマを呼んだんだろう? どうやって辿ったんだか、僕なんかよりよほど智恵がある」

 あ、それは。

「村のさ、北の側に崩れた岩山があるじゃない? そこ通ってきた、みたい」
「はあ?!」

 また目を見開いて大口開けて、数秒してからヨウシアは深く溜息を吐いた。

「まだ僕が把握しきれていない古い道か……そんな危険な所を使ったのか……」
「危険なの?」

 あの道、とかいうもの。

「道というものはね、繋がりが弱いと、どこにどう絡むか分からないんだ」

 ヨウシアは神妙な顔つきで話す。

「古くて手を入れてないものは余計そう。出るべき場所と違う場へ出るならまだしも……最悪、狭間へ落ちてそのままなんて事になったりする」
「ひぇ」

 私はそうとう危ない事をしていたらしい。往復したと思われるサナさん達も。
 ヨウシアは、また軽く溜息を落として立ち上がった。

「さあ、出よう。ここは『王の間』だ。長くいるような場所じゃない」
「あ、うん……うん?」

 立ち上がろうとして、

「アルマ?」
「……えー、今更ながら、腰が抜けたようです……立てない……」

 足も腰も、というか全身の力が抜けてしまった。らしい。
 ヨウシアと繋いで持ち上がってる手も、どっちかというと引っかかってると言った方が正しい感じ。

「立てない?」
「うん。どうしよう……」

 少ししたら戻るかな?

「……」
「あっ?」

 そんな事を思ってたら、ヨウシアがまたしゃがみ込んで。
 素早く私の膝裏と腰に手を回し、掛け声もかけず抱き上げた。

「これで良い?」
「逆に聞きたい」

 この体勢は大丈夫ですか?
 いや、なんか、あの。なんかこう、気恥ずかしいんだけど。

「僕は全く問題ないけれど」

 あ?! その目!
 なぁんか可笑しそうに細めて!

「かっ、からかってんのか」

 なんか噛んだじゃん!

「いや? 色々吹っ切れたみたいだ」
「そりゃ良かったけど……あ」

 喋っていたら、いつの間にか扉の外にいた。

「……この仕組みってどうなってんの?」
「概念的なものだから、説明は難しいな」
「へぇ……」


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