昔々の幼なじみの

山法師

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29 色々あって、抜けていた

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 広い回廊を進むヨウシア。
 足音が、振動として身体に響く。
 ほんの少し揺れるけど、落っこちたりはしない。しっかり抱えてくれている。

「いやぁ、ごめんね? 運んでもらって」

 ちょっとしまして、またこの体勢が気になってきた……。

「別に、良いって言ってるだろ」
「……私、重くな「重くない」」

 食い気味。
 そしたら、ヨウシアは溜め息混じりに。

「あれだけ長く『あの場』に居たんだ。消耗するのは当然として、それだけで済んでるのが奇跡みたいなもんで……」
「え? なに?」

 消耗の何がなんだって?

「……いや、君が無事ならそれで良い」
「……」

 だから、急にそういうの止めろ。

「それにほら、もう夜なんだ」
「え? あ」

 窓から射し込むのは月明かり。
 これまた気が抜けて、そんな事にも気付かなかった。

「……って、へぇ?! そんなに長くなんだかんだしてたっけ?!」

 館に入ったの真っ昼間なんだけど?!

「体感時間と実際の時間がずれたんだろう。だから余計、君の肉体と精神は疲弊してる」

 はぁ、いつの間にか半日近く経ってたって事ですか。

「……ぇ、じゃあ、街のひと達は」

 私が館に入って半日、何もないって心配をかけてしまっていたり……?

「今頃、スタィヤが説明してるだろう。君が気を揉む事はない」
「ああ……スタィヤさんが……あの、スタィヤさんって」
「『王』の側仕えだよ」

 そばづかえ。って、召使いみたいなもんだっけ?

「……はぁん……」

 そこから無言になって、月光に浮かぶその影を、斜め下から眺めた。
 コツコツと、靴音が規則正しく反響する。

「……ヨウシア」

 金に縁取られた碧が、こっちを向いた。

「何?」
「色々あって頭から抜けてたんだけど」

 無言で続きを促される。けどね。
 えーと、なんて言えばいいのかな。

「……あのですね、」

 でも言った方が言いよね。でもどう言えばいいか分かんないんだよね。
 そのまま言うのが一番良い、の、かな……?

「嫁に行け「はぁ?!」って……村長さん……にぃ……」

 ぐいっと、すっごい驚いた顔が近付いた。踏み鳴らすようにして、その足も止まる……。

「アルマに?」
「うん」
「村長が?」
「……うん」
「どっかに嫁げって? 言ったって?」

 もんのすごい険しい顔。
 いや、その。

「二つ隣の村です……えっと、その話をね? 持ってこられたばっかの時にサナさん達がね? 来て……」

 そのまま、流れが……

「……っ…………、………………ハァ…………」

 何か、凄い、すごい何か言いたそうなのに!
 溜め息だけ! 吐かれた!

「受ける気はないんだよ? 最初っからこれっぽっちも!」
「そぅ……」
「だけどさ、いや、どう断ればいいのか分かんなくてね?!」
「ぅん……」
「そもそも断れんのかってね?! いやその、嫁ぐ気はないんだよ?!」
「……」

 それは頷いたのか横に振ったのがどっち?!

「だからもう逃げ出すか、流浪の民にでもなるかって……」
「極端」

 再びの溜め息。そして今度こそ、呆れたように首を振られた。

「ぅぐぅ……だってさ……」
「……村人あいつらはまだ、アルマをそんな風に扱うの?」
「…………まぁ」

 昔と、そんなに変わりはしない。

「あっでも家を……、貰った、けど…………ヨウシアの……うち、だった家なんだけど……」

 声が萎む。萎んでどうする。

「……そう」

 ああそうだ、言わなきゃ。
 ヨウシアのお母さんの事。お母さんが亡くなった事。

「そ、の……」
「まあ今は、休んで。ここでする話でもないだろ」
「いや、でも」
「それの日取りは? まだ時間ある?」
「え? 嫁、の? ……明日……て、もう、日が昇ればすぐだよ! 準備が始まっちゃう?!」

 うわあどうしよ?! 戻らなきゃ?!
 でもヨウシアとの話がまだだし! そもそも嫁には行きたくないし! ああでもっ、もう、話があっちこっち飛ぶ!

「えっと?! ぁっとぉ?! ──うわっ!」

 思わずバランスを崩しかけて、けどすぐヨウシアが抱え直してくれる。

「落ち着いて」
「ど、どうも……」
「アルマ。それなら三日くらいには伸ばせるから、一旦は大丈夫」
「……へ」

 へぇい? 伸ばす?

「……村に戻った時、こっちにいた期間より短い間、森を彷徨った事になってなかった?」

 もう一度、位置を直すように私を抱え直し、ヨウシアが言う。
 そういえば、そうだった。

「……それは、ヨウシアの、力?」
「今は、そうとも言えるかな。今度はその逆……みたいな事をする。だから時間はある」
「なる、ほど?」
「それに、そもそも。嫁になんて行かせないから」

 ……真剣に言われたけど。

「安心して?」

 それは、安心していい言葉なんだろか。


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