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2 なんかお互いに訳分かんないこと言ってる。
「それで」
セオドアは紅茶のカップをソーサーへ戻し、ここからが本題だという雰囲気で言おうとした。
『今日は茶会という名目の打ち合わせだ。婚姻式が来年に迫っているのは承知しているだろうが、君側で進めるべき事柄はきちんと把握しているか?』
いつも通り、冷たい翡翠の眼差しを婚約者へ向け、眼差しと同じ冷たい表情をしているセオドアの口から出たのは。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
言い終えたセオドアは、驚いたように、そして困惑気味に目を見開く。
対面にいるシャーロットは、白銀色の眉をひそめ、
『式のことを言うかと思ったら、急に何意味分かんないこと言ってるんですか?』
と聞こうとして。
「あたしのほうこそ、セオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
自分の口から出てきた言葉にだろう、有り得ない、という表情をする。
恥じらうように、白磁の肌、その頬を、赤く染め上げながら。
「僕は今、幸せな夢を見ているらしい。僕のシャルが僕を愛称を呼んでくれただけでなく、大好きな、と言ってくれた。今この瞬間の可愛らしく頬を染めているシャルを、記録に残すべきじゃないか? 今すぐ画家か誰かを呼ぶか?」
『君こそ急にどうしたんだ? 熱でもあるんじゃないだろうな?』
怪訝そうな顔で言おうとしたセオドアの口から出た言葉は、そんな変化を遂げる。
それを聞いたシャーロットは顔をさらに赤くして、
「僕のシャルって! さらっと言わないでください! 嬉しすぎて心臓が破裂します! あたしだってずっと愛称で呼んでほしかったんですからね?! それと、ちゃんと絵に残すならセオ様と一緒が良いです!」
怒気交じりの声で叫ぶように言い放つ。
言おうとしていたのは、
『茶会前とかに頭でも打ったんですか?! 砂粒ほども思っていない、歯が浮くどころか根こそぎ抜歯するような台詞を言い放つなんて、いい度胸してますね?!』
なのだが。
「なんていじらしいことを言ってくれるんだ、シャル。今の君は可愛くて愛らしくて誰の目にも見せたくないくらいだが、そんな君と僕を同じ額の中に存在させてくれるなんて、至上の喜びだ。絵が完成したらどこに飾ろうか。ああ、シャル、婚約期間も一年と少しになってしまった今が、貴重な時間に思えてならない」
『どういう状況なんだ、これは。訳が分からない。君がいつも僕に向かって言う言葉とかけ離れすぎている。かといって嘘を言っている雰囲気でもない。僕のほうも訳が分からない』
言おうとした言葉がまた見事に変換されて、わずかに顔をしかめたセオドアは、頭痛でもしているようにこめかみへ指を押し当てた。
恥ずかしくてならないと示すように頬がうす赤くなっていることを、セオドア本人が気づいているのかどうか。
少なくとも、シャーロットは頬を染めるセオドアに気づいたらしかった。
さっきの言葉も合わさって、シャーロットは深い紅紫色の瞳を瞬かせ、さらに頬を赤くし、口をはくはくと動かす。
「そ、そんなの! あたしだって同じ思いですからね?! セオ様はお姿を残したくないって言ってたの、ちゃんと覚えてますけど! でも大好きなセオ様と一緒の、こ、婚約者らしい絵をっ、残せるならって! ずっと思ってたんですよ?!」
『さっきから本当に何を言ってるんですか?! からかうのも大概にしてください! 軽めにぶん殴りますよ?! いつの間にか即興劇とかいう、なんかそれでも始まってたんですか?! それならお芝居が下手すぎです!』
言おうとした言葉が当然のように変わり、シャーロットは眉と眼尻を吊り上げ、右手の人差し指をセオドアへビシリと向けた。
つぶらな瞳が吊り上がり、鮮やかで深い紅紫色の瞳が潤んでいく。
隠そうとしても隠しきれない恥じらいが表に出てくるように。
嘘を聞かされているならば、これほど悲しいことはないというように。
シャーロットに指を突きつけられたことをあまり気にするふうでもなく、それより気になる──気にすべき、シャーロットの顔に浮かんだ悲しみの表情を見たセオドアは動きを止め。
「……」
何かに気づいたらしく、周囲を探るように、視線と魔力を一瞬で辺り一帯へと巡らせた。
「シャル」
セオドアの表情も声も真剣なものに変わって、彼はシャーロットを呼びながら立ち上がる。
「シャル。僕の、可愛くて愛しくて何よりも大切なシャーロット」
テーブルを回ってシャーロットのそばまで来たセオドアは、
「僕が昔に言ったことを、忘れないでいてくれたのか」
自分の言葉でシャーロットが驚きの表情を見せたのもそのままに、その場に跪いてシャーロットの左手を硝子細工を扱うように両手で包む。
セオドアの一連の行動に、またシャーロットは驚愕の表情を浮かべ、口をぱかりと開けてしまった。
包んだ彼女の手のひらを上に向け、
「ありがとう、シャル」
シャーロットへ愛おしさを感じさせる翡翠色の眼差しと微笑みを向けながら、セオドアは彼女の手のひらに指で文字を書いた。
『ジュリアンとアメリアがどこにも居ない。気配も追えない』
セオドアは紅茶のカップをソーサーへ戻し、ここからが本題だという雰囲気で言おうとした。
『今日は茶会という名目の打ち合わせだ。婚姻式が来年に迫っているのは承知しているだろうが、君側で進めるべき事柄はきちんと把握しているか?』
いつも通り、冷たい翡翠の眼差しを婚約者へ向け、眼差しと同じ冷たい表情をしているセオドアの口から出たのは。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
言い終えたセオドアは、驚いたように、そして困惑気味に目を見開く。
対面にいるシャーロットは、白銀色の眉をひそめ、
『式のことを言うかと思ったら、急に何意味分かんないこと言ってるんですか?』
と聞こうとして。
「あたしのほうこそ、セオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
自分の口から出てきた言葉にだろう、有り得ない、という表情をする。
恥じらうように、白磁の肌、その頬を、赤く染め上げながら。
「僕は今、幸せな夢を見ているらしい。僕のシャルが僕を愛称を呼んでくれただけでなく、大好きな、と言ってくれた。今この瞬間の可愛らしく頬を染めているシャルを、記録に残すべきじゃないか? 今すぐ画家か誰かを呼ぶか?」
『君こそ急にどうしたんだ? 熱でもあるんじゃないだろうな?』
怪訝そうな顔で言おうとしたセオドアの口から出た言葉は、そんな変化を遂げる。
それを聞いたシャーロットは顔をさらに赤くして、
「僕のシャルって! さらっと言わないでください! 嬉しすぎて心臓が破裂します! あたしだってずっと愛称で呼んでほしかったんですからね?! それと、ちゃんと絵に残すならセオ様と一緒が良いです!」
怒気交じりの声で叫ぶように言い放つ。
言おうとしていたのは、
『茶会前とかに頭でも打ったんですか?! 砂粒ほども思っていない、歯が浮くどころか根こそぎ抜歯するような台詞を言い放つなんて、いい度胸してますね?!』
なのだが。
「なんていじらしいことを言ってくれるんだ、シャル。今の君は可愛くて愛らしくて誰の目にも見せたくないくらいだが、そんな君と僕を同じ額の中に存在させてくれるなんて、至上の喜びだ。絵が完成したらどこに飾ろうか。ああ、シャル、婚約期間も一年と少しになってしまった今が、貴重な時間に思えてならない」
『どういう状況なんだ、これは。訳が分からない。君がいつも僕に向かって言う言葉とかけ離れすぎている。かといって嘘を言っている雰囲気でもない。僕のほうも訳が分からない』
言おうとした言葉がまた見事に変換されて、わずかに顔をしかめたセオドアは、頭痛でもしているようにこめかみへ指を押し当てた。
恥ずかしくてならないと示すように頬がうす赤くなっていることを、セオドア本人が気づいているのかどうか。
少なくとも、シャーロットは頬を染めるセオドアに気づいたらしかった。
さっきの言葉も合わさって、シャーロットは深い紅紫色の瞳を瞬かせ、さらに頬を赤くし、口をはくはくと動かす。
「そ、そんなの! あたしだって同じ思いですからね?! セオ様はお姿を残したくないって言ってたの、ちゃんと覚えてますけど! でも大好きなセオ様と一緒の、こ、婚約者らしい絵をっ、残せるならって! ずっと思ってたんですよ?!」
『さっきから本当に何を言ってるんですか?! からかうのも大概にしてください! 軽めにぶん殴りますよ?! いつの間にか即興劇とかいう、なんかそれでも始まってたんですか?! それならお芝居が下手すぎです!』
言おうとした言葉が当然のように変わり、シャーロットは眉と眼尻を吊り上げ、右手の人差し指をセオドアへビシリと向けた。
つぶらな瞳が吊り上がり、鮮やかで深い紅紫色の瞳が潤んでいく。
隠そうとしても隠しきれない恥じらいが表に出てくるように。
嘘を聞かされているならば、これほど悲しいことはないというように。
シャーロットに指を突きつけられたことをあまり気にするふうでもなく、それより気になる──気にすべき、シャーロットの顔に浮かんだ悲しみの表情を見たセオドアは動きを止め。
「……」
何かに気づいたらしく、周囲を探るように、視線と魔力を一瞬で辺り一帯へと巡らせた。
「シャル」
セオドアの表情も声も真剣なものに変わって、彼はシャーロットを呼びながら立ち上がる。
「シャル。僕の、可愛くて愛しくて何よりも大切なシャーロット」
テーブルを回ってシャーロットのそばまで来たセオドアは、
「僕が昔に言ったことを、忘れないでいてくれたのか」
自分の言葉でシャーロットが驚きの表情を見せたのもそのままに、その場に跪いてシャーロットの左手を硝子細工を扱うように両手で包む。
セオドアの一連の行動に、またシャーロットは驚愕の表情を浮かべ、口をぱかりと開けてしまった。
包んだ彼女の手のひらを上に向け、
「ありがとう、シャル」
シャーロットへ愛おしさを感じさせる翡翠色の眼差しと微笑みを向けながら、セオドアは彼女の手のひらに指で文字を書いた。
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