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4 どこのどなたへ想いを向けていらっしゃいますか?
先ほどまで茶会で使っていた長方形のテーブルに隣り合う形でついたシャーロットとセオドアは、経緯の説明前に必要だからと、『想いをぶちまける魔法薬』が消え去っているかの確認をされた。
確認作業は、王城の侍医たちがいつも使う『医療系の魔道具』で、アメリアが行っている。
ソフィアが作った魔法薬をソフィアが作った『魔道具』で確認するより、結果を信じられるだろう、と、ソフィアから言付けられたのだとか。
いつもなら毎回近衛代わりも務めているジュリアンは、その『いつもなら』を実行するためなのか、近衛代わりとしてテーブルのすぐそばに立っている。
「効果が完全に消えていると確認が取れましたので」
シャーロットとセオドア、どちらも最初の魔法薬の効果が無くなっていることを確認したアメリアが、淡々と。
「経緯の説明前の確認として、お尋ねします」
セオドアへと顔を向け、どこまでも淡々と、問いかける。
「セオドア様は、どこのどなたへ想いを向けていらっしゃいますか?」
アメリアの問いかけを聞いて、瞬間的にシャーロットが身を固くしたのと、
「シャルだ」
セオドアが堂々と言ったのは同時だった。
「グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット殿下だ」
混乱と動揺を必死に抑えようとしているシャーロットに、気づいているのかいないのか。
「僕の婚約者のシャルだ。僕が愛しているのはシャルだけだ」
セオドアは重ねて、強い口調で言ったあと、
「シャルを愛しているかどうかの問答なら永遠に続けても構わない、と平時なら言うところだが」
低く涼やかな声に少しの棘を含ませ、翡翠の目を眇める。
「この問答が何を意味するのか掴めない。ソフィア殿下が関わっているのだろう? ただのイタズラだとは思わないが、だとしたら何をどうしたくてこんなことをしたんだ?」
「それをご説明するための確認です。──我らがシャーロット様」
アメリアに呼ばれたシャーロットは、怯えるように肩を揺らし、自分の侍女へ、縋るような眼差しを向ける。
深い紅紫色が、心細く揺れていた。
自分へ縋るように目を向ける主人へ、無表情のアメリアは、微笑んだ。
付き合いが長く、いつもそばにいるシャーロットにしか分からないだろう、微笑みを。
無表情の中に埋もれている微笑みを、アメリアは自分の主人へ向けた。
「思うままを仰ってください。我らがシャーロット様」
淡々とした口調にも、シャーロットにしか分からないだろう、柔らかさを滲ませて、問いかける。
「どこのどなたへ想いを向けていらっしゃいますか?」
「っ……あたし、は、」
震えそうになる自分の声で、余計に心細くなる。
けど。
アメリアが、頑張ってくれている。
こんなに頑張ってくれてる。
なら、主人の自分は、もっと頑張らないと。
名ばかりでも、王女なんだから。
不安そうに自分を見ているセオドアに気づかぬまま、シャーロットは自分を奮い立たせる。軍で文言を口にする時のように、声を張り上げた。
「グレイフォアガウス王国第二王女シャーロット! お慕いしているのはセオ様です! フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア様です!」
頬を淡い朱に染めてしまって、不安を拭いきれずに。
それでも胸を張って、力強く。
凛々しく、気高く、勇ましく、美しい。
そんな自分に、シャーロットは気づいていない。
そしてセオドアが目を見開き、息を呑み、泣きそうな顔になって、焦がれるようにシャーロットを見つめていることにも、気が回っていない。
それほどに、シャーロットにとってこの言葉を口にすることは、死地へ赴くに等しい覚悟を必要とした。
「……シャル……」
左隣に座っていたセオドアの、消え入りそうな声が耳に届き、シャーロットは我に返る。
「えっ、あっ」
我に返ったシャーロットは狼狽え、慌てながらセオドアへ顔を向けた。
あたしの気持ちを押し付けるつもりはありません。
本当に好きな人と添い遂げてください。
言おうとして。
「シャルは……こんな僕を……好いてくれているのか……?」
「──はぁ?」
焦がれるような眼差し、泣きそうな表情、消え入りそうな声。
セオドアのそれらより、セオドアの言葉に気がいったシャーロットは、盛大に顔をしかめてしまった。
顔をしかめたシャーロットを見て、セオドアはまた、息を呑む。
先ほどとは違った意味で、息を呑んだセオドアだが。
セオドアが息を呑んだことすら気づかないほど、シャーロットは頭にきていた。
「こんな僕ってなんです?」
可憐な声が、低く、地を這う。
「セオ様は素晴らしいんですよ?」
顔をしかめたまま、座った状態でセオドアへ詰め寄り、
「格好良くて優しくて素晴らしい人なんですよ? それを? なに? こんな僕? どの口が言ってんだ?」
セオドアの上着、その襟首を掴んで、詰問するかのように言葉を投げていく。
「え? あ、え? しゃ、シャル?」
今度はセオドアが混乱することになり、混乱しているセオドアへ、シャーロットは勢いのまま、全てをぶつけようと息を吸い込み──
「お互いに想い合っている、つまりは両想いだと確認が取れましたので、経緯の説明を始めてもよろしいでしょうか?」
アメリアの淡々とした喋りでまた我に返ったシャーロットは、吸い込んだ息を無理やり飲み込んで、伝えたかったことを押し留めた。
「……失礼、しました。少し、その、取り乱し、ました」
怯えたように、けれども怒りではなさそうな赤い顔で言うシャーロットに、セオドアの中で混乱が蓄積されていく。
混乱で何も言えないセオドアの上着から素早く手を離し、シャーロットは逃げるようにしてイスへ座り直した。
そんな彼女の行動もまた、セオドアに混乱と不安を与える。
「ま、経緯の説明を聞いたら、大体分かると思うんで」
近衛代わりにしては自然体すぎる、頭の後ろで手を組むという姿勢のジュリアンが軽く言う。
そのおかげで、セオドアもまた、ここは一度落ち着くべきなのだと気づいた。
「……分かった。分からないことだらけなのが」
セオドアもアメリアへ向き直り、
「経緯の説明を、これでやっと聞ける訳だな」
念を押すように尋ねる。
「はい」
アメリアは表情を変えずに、淡々と肯定した。
「今回の件ですが、大枠を言いますと」
淡々とした口調でアメリアは話していく。
「我らがシャーロット様とセオドア様、両想いのお二方がすれ違ったままでいたら」
この国は滅びる。
「ソフィア殿下からのお言葉を受け、ソフィア殿下にご協力願い、この場を設けました」
確認作業は、王城の侍医たちがいつも使う『医療系の魔道具』で、アメリアが行っている。
ソフィアが作った魔法薬をソフィアが作った『魔道具』で確認するより、結果を信じられるだろう、と、ソフィアから言付けられたのだとか。
いつもなら毎回近衛代わりも務めているジュリアンは、その『いつもなら』を実行するためなのか、近衛代わりとしてテーブルのすぐそばに立っている。
「効果が完全に消えていると確認が取れましたので」
シャーロットとセオドア、どちらも最初の魔法薬の効果が無くなっていることを確認したアメリアが、淡々と。
「経緯の説明前の確認として、お尋ねします」
セオドアへと顔を向け、どこまでも淡々と、問いかける。
「セオドア様は、どこのどなたへ想いを向けていらっしゃいますか?」
アメリアの問いかけを聞いて、瞬間的にシャーロットが身を固くしたのと、
「シャルだ」
セオドアが堂々と言ったのは同時だった。
「グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット殿下だ」
混乱と動揺を必死に抑えようとしているシャーロットに、気づいているのかいないのか。
「僕の婚約者のシャルだ。僕が愛しているのはシャルだけだ」
セオドアは重ねて、強い口調で言ったあと、
「シャルを愛しているかどうかの問答なら永遠に続けても構わない、と平時なら言うところだが」
低く涼やかな声に少しの棘を含ませ、翡翠の目を眇める。
「この問答が何を意味するのか掴めない。ソフィア殿下が関わっているのだろう? ただのイタズラだとは思わないが、だとしたら何をどうしたくてこんなことをしたんだ?」
「それをご説明するための確認です。──我らがシャーロット様」
アメリアに呼ばれたシャーロットは、怯えるように肩を揺らし、自分の侍女へ、縋るような眼差しを向ける。
深い紅紫色が、心細く揺れていた。
自分へ縋るように目を向ける主人へ、無表情のアメリアは、微笑んだ。
付き合いが長く、いつもそばにいるシャーロットにしか分からないだろう、微笑みを。
無表情の中に埋もれている微笑みを、アメリアは自分の主人へ向けた。
「思うままを仰ってください。我らがシャーロット様」
淡々とした口調にも、シャーロットにしか分からないだろう、柔らかさを滲ませて、問いかける。
「どこのどなたへ想いを向けていらっしゃいますか?」
「っ……あたし、は、」
震えそうになる自分の声で、余計に心細くなる。
けど。
アメリアが、頑張ってくれている。
こんなに頑張ってくれてる。
なら、主人の自分は、もっと頑張らないと。
名ばかりでも、王女なんだから。
不安そうに自分を見ているセオドアに気づかぬまま、シャーロットは自分を奮い立たせる。軍で文言を口にする時のように、声を張り上げた。
「グレイフォアガウス王国第二王女シャーロット! お慕いしているのはセオ様です! フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア様です!」
頬を淡い朱に染めてしまって、不安を拭いきれずに。
それでも胸を張って、力強く。
凛々しく、気高く、勇ましく、美しい。
そんな自分に、シャーロットは気づいていない。
そしてセオドアが目を見開き、息を呑み、泣きそうな顔になって、焦がれるようにシャーロットを見つめていることにも、気が回っていない。
それほどに、シャーロットにとってこの言葉を口にすることは、死地へ赴くに等しい覚悟を必要とした。
「……シャル……」
左隣に座っていたセオドアの、消え入りそうな声が耳に届き、シャーロットは我に返る。
「えっ、あっ」
我に返ったシャーロットは狼狽え、慌てながらセオドアへ顔を向けた。
あたしの気持ちを押し付けるつもりはありません。
本当に好きな人と添い遂げてください。
言おうとして。
「シャルは……こんな僕を……好いてくれているのか……?」
「──はぁ?」
焦がれるような眼差し、泣きそうな表情、消え入りそうな声。
セオドアのそれらより、セオドアの言葉に気がいったシャーロットは、盛大に顔をしかめてしまった。
顔をしかめたシャーロットを見て、セオドアはまた、息を呑む。
先ほどとは違った意味で、息を呑んだセオドアだが。
セオドアが息を呑んだことすら気づかないほど、シャーロットは頭にきていた。
「こんな僕ってなんです?」
可憐な声が、低く、地を這う。
「セオ様は素晴らしいんですよ?」
顔をしかめたまま、座った状態でセオドアへ詰め寄り、
「格好良くて優しくて素晴らしい人なんですよ? それを? なに? こんな僕? どの口が言ってんだ?」
セオドアの上着、その襟首を掴んで、詰問するかのように言葉を投げていく。
「え? あ、え? しゃ、シャル?」
今度はセオドアが混乱することになり、混乱しているセオドアへ、シャーロットは勢いのまま、全てをぶつけようと息を吸い込み──
「お互いに想い合っている、つまりは両想いだと確認が取れましたので、経緯の説明を始めてもよろしいでしょうか?」
アメリアの淡々とした喋りでまた我に返ったシャーロットは、吸い込んだ息を無理やり飲み込んで、伝えたかったことを押し留めた。
「……失礼、しました。少し、その、取り乱し、ました」
怯えたように、けれども怒りではなさそうな赤い顔で言うシャーロットに、セオドアの中で混乱が蓄積されていく。
混乱で何も言えないセオドアの上着から素早く手を離し、シャーロットは逃げるようにしてイスへ座り直した。
そんな彼女の行動もまた、セオドアに混乱と不安を与える。
「ま、経緯の説明を聞いたら、大体分かると思うんで」
近衛代わりにしては自然体すぎる、頭の後ろで手を組むという姿勢のジュリアンが軽く言う。
そのおかげで、セオドアもまた、ここは一度落ち着くべきなのだと気づいた。
「……分かった。分からないことだらけなのが」
セオドアもアメリアへ向き直り、
「経緯の説明を、これでやっと聞ける訳だな」
念を押すように尋ねる。
「はい」
アメリアは表情を変えずに、淡々と肯定した。
「今回の件ですが、大枠を言いますと」
淡々とした口調でアメリアは話していく。
「我らがシャーロット様とセオドア様、両想いのお二方がすれ違ったままでいたら」
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