第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師

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 シャーロットはまた驚いて、セオドアの胸の中で目を見開いた。

 はあ?!

 と叫びそうになった声は、どうにか飲み込めたが。

「……侯爵あの方は」

 本当に国王の従弟、シャーロットの大叔父で間違いない。

 けれど、侯爵の妹で国王の従妹とされている彼女は、妹ではあるけれど従妹ではない。

 彼女は、前侯爵とその愛人との間に生まれた娘。
 書類も何もかも、全てが改竄されたもの。

 国王の叔母──前侯爵夫人の息子である侯爵と、彼女は異母兄妹の関係で、彼女に王家の血は流れていない。
 息子である彼も当然、王族の血を引いていない。

「だから、彼女ミラたちの子どもに継承権が与えられても」

 シャーロットとセオドアの子どもより、下位になる。

 姉は姉ではなかった。
 自分にも優しくしてくれる、自分なんかより優れた王女で淑女で妖精姫の姉は、姉ではなかった。

 嘘とか、冗談だったりしますか?

 現実逃避のように浮かびかけた言葉を、シャーロットは瞬時に頭の中で粉々に砕く。

 セオドアが嘘を言っているとは、思えなかった。

 また縋るように自分を抱きしめ、「すまない」と震える声で小さく呟いたセオドアが、嘘を言っているなんて、それこそ『嘘』だ。

 思っていたら、セオドアが、珍しく卑屈そうな声で。

「ミラ、殿下の話は……僕の、……父母の話ほど、知られている訳では、ないんだ」

 ミラが国王の実子でない事実は、秘された。書類や公的な情報全てが『正式に』改竄された。

 だから、フォーサイス公爵家の『公然の秘密』ほどではない。
 それでも、知っている者は知っている。

「君を自由にしたかった。君の隣にいたかった。視野が狭くなっていたんだな、僕は」

 だから、つけ入る隙を与えてしまった。

 とか言われても、シャーロットはちゃんと意味を理解できない。
 だって今、自分の父母の話ほど公然の秘密ではないとか、またよく分からないことを彼は言った。

「えーっと、あの、セオ様」

 話も、分からないなりに一区切りついたようだしと、シャーロットは口を開く。

「フォーサイス公爵家の『公然の秘密』って、その、なんですか?」

 顔を上げて尋ねると、セオドアの表情に驚きと困惑が広がったのが見て取れた。

「…………知ら、ない、の、か?」
「公然の秘密とか初耳です。何かあったんですか?」

 話がそれると思うので、今言えとは言いませんが。

 本当に知らないように思えるシャーロットの言動で、迷いと不安が胸中に渦巻いたセオドアへ、

「セオドア様のお考えに従いますよ。俺の主、セオドア様なんで」

 ジュリアンは軽い口調で、

「私はシャーロット様が第一です。我らがシャーロット様のお考えを第一に動きます」

 アメリアは淡々と伝えてきた。

 正反対に聞こえる、同一の意味を持つ言葉を。

 その通りだ。

 セオドアは、悲痛な覚悟を決める。

 この話を知っていても、知らなくても。
 シャルと共に居たいのならば、……たとえそれで、共に居られなくなるとしても。

 いつかは話さなければならない事柄だ。

「……分かった。話す。……少し、時間をくれ」

 重くなってしまう声で言ったセオドアは斜め横を向き、細く息を吐く。
 自分の中にある迷いや不安を──あるいは未練を、捨て去るつもりで。

 すまない、とシャーロットへ向き直ったセオドアは。

「……シャ、…………シャーロット。また、君には酷な話だ。酷い話だ。僕を、……き、らい、に、なっ「嫌いになんてならない。なってやらない」

 泣きそうになっていくセオドアを抱きしめ、シャーロットは可憐な声で、力強く。

「セオ様を嫌ったりしません。嫌いになれって言われても嫌いになりませんからね。なってやりませんからね。何があっても、絶対に」
「──っ、……ありがとう……」

 心細く震える声で、セオドアから。

 今だけでも、そう言ってくれて、ありがとう。

 そんな意味を込めて言われた、気がしたのでムカついて、

「嫌わない。絶対。何があっても嫌いにならない。あなたにずっと片思いしてた根性、舐めんじゃねぇです」

 シャーロットはさっきよりも強く、言ってやった。

 セオドアの、不安になるほどか細い声での「ありがとう」が耳に届く。

 息を詰め、短く吐いたセオドアが、

「……母、は」

 神の前で罪を告白するように、

「無理やり、嫁がされたんだ。……父の、魔法で」

 亡き母と公爵の話を、始めた。

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