第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師

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11 賑やかを超えて騒がしい、それがどれほど眩しいか。

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 問答無用の勢いでアメリアが現場検証を行い、平身低頭の姿勢でセオドアが詳細な状況説明をする。

 セオドアから懇願されて魅了魔法がかかっていないことをアメリアに確認されたシャーロットは、そこでやっと、自分たちがどういう状況に居たかを理解した。

 したが。

「セオ様悪くない! セオ様は悪くないんだよアメリア! あたし変なこと何もされてないから!」

「いや、あの、シャル」

「百歩千歩万歩譲って、我らがシャーロット様のお言葉、受け取りました。なので、万死を9999回で手を打ちます」
「一個しか減ってないよアメリア?! 万死はゼロだし万死もダメ!」

「シャル、その、僕が言うのもなんだが」

「シャーロット様。こういった場合は最初が肝心なのです。初犯だからと甘やかせば、相手はつけあがるだけなのです、我らがシャーロット様」
「今さらっと初犯って言ったでしょ?! セオ様何もしてないってあたし言った! 無実! 無罪!」

「シャル。シャーロット。聞いてくれ」

「なんですかさっきから! セオ様もちゃんとアメリアに言って! あたしに変なことなんてしてないって!」

「あの、それは、そう、いや、その前に、だな」

 この状態でその話をするのは、どうかと思うんだ。

 セオドアが、おずおずと伝えてくる。

「この状態ってなんですか?! イスの拘束なら自分で外せるでしょ今すぐ外せ!」
「いや、それはしないほうが……そうではなく、君の防御壁を、その」
「あたしの防御壁がなんだ何か文句あるってのか間違えたあるんですか?!」

 自分の後ろに居るセオドアへ、シャーロットは噛みつく勢いで反論した。

「文句、いや、君の気持ちは有り難い──えぇと、その、とにかく一旦、僕の周りにあるこれらを、解いて貰えると……君のためにも……」

 シャーロットが構築した無色透明で半球状に変形している防御壁は、五重に。
 同じくシャーロットが構築した弱性能反撃機能付きで無色透明、半球状に変形している防御壁は、三重。

 秘密箱の時に構築したものと同系統の防御壁、防御壁それが無色透明なのは、敵を魔力感知だけでなく目視でも確認するため、自分に攻撃が利いていないことを敵に見せつけるため、などの理由がある。

 その中に居るセオドアが、狼狽えながら言ってきたので。

「ならセオ様もイスの拘束外せ! セオ様悪いことしてないのに! なんで自分から拘束されちゃってんだセオ様のバカ!」

 これもまたどこに持っていたのか、囚人に使う魔法封じ身体機能弱体化の拘束具を素早く取り出したアメリアが、また素早く茶会用の瀟洒なイスに拘束具を取り付けて。
 そのアメリアから何かしらの促しを受ける前に自ら簡易拘束イスへ座ったセオドアを背に、シャーロットは怒鳴る。

「いや、その、僕がしでかしたのは事実だから……」
「セオドア様の自白『僕がしでかした』を確認しました。我らがシャーロット様。ほんの少し、横へ移動してくださいますか」

 淡々と言ったアメリアが、セオドアへ向けている大型口径の魔核銃を構え直し、すでに構築していた攻撃系魔法陣へも魔力を込め直す。

「移動しないからね?! セオ様にそれ全部ぶっ放すつもりでしょ?! セオ様悪くないって言ってるのに!」

 セオドアを背に、庇う形で立つシャーロットが叫んだ時。

「セオドアまだ生きてるか生きてるなおっしゃギリ間に合った間一髪! あやっべ、今の聞き流してください。ソフィア殿下お連れしました」

 転移の魔道具で戻ってきたジュリアンへ一瞬だけ目を向けたアメリアは、無表情ながらしぶしぶといった様子で魔核銃を下ろし、魔法陣も全て解体していく。

「呼ばれるとは思ってたが」

 ジュリアンの後ろに居る二人のうち、背が高い人物。

 高くとも落ち着いた雰囲気の声で言い、前へと進み出てきた、その姿。

「予想してた形とだいぶ違った要件で呼ばれて驚いたよ」

 髪挿しで纏めてある濃淡入り混じった灰色の髪、左眼には鏡面を思わせる眼帯、肌は白と茶褐色が混在している。

「混乱しての秘密箱ミスティコート、それについても言わなきゃならないだろうが」

 様々な魔法陣や魔法紋様が織り出されている黒いドレスには深いスリットが入っていて、黒いトラウザーズを履いていると分かる。
 足元も黒い、厚底の革短靴ショートブーツらしき靴。

「けどまぁ、その前に」

 薄い紅紫色をしている右の瞳、その目を細めて苦笑した美しい妙齢の女性──ソフィアは。

「無断で魔法薬を投与した、これは言い逃れようのない罪です。申し訳ございません。相応の処罰を」

 シャーロットとセオドアへ、跪いて頭を下げた。

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