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材料を取り出し、調理台に置いていく。
あー、この広めのキッチン、一人暮らしで持て余し気味だったけど、こんなふうになる日が来るとはね。
そんなこんなで動き回り、ふと、リビングを見ると。
『ニィ……』
セイへの警戒心を解き始めたらしいシロが、カーテンから徐々に顔を出してきたところだった。
シロさん、アンタもかい。
どうしたんだろうね、今日の君ら三匹は。いつもは、私以外には姿を見せるどころか物音さえ立てないで隠れているっていうのに。
「おはようございます、シロさん」
シロに挨拶しているセイは、椅子からソファに移っていて、スマホを操作しているらしかった。
「ねーセイ、飲み物牛乳でいいー?」
「はい」
セイがこっちに振り返って、はにかむ。
だから、その顔はヤバいって。眩しいって。
「……セイさんよ」
「はい」
「キミは、自分がイケメンであると、自覚しているかね?」
「えっ」
虚を突かれたような顔をして、セイが動きを止めた。
「? セイ?」
「……あ、……いえ、なんでも」
セイはそそくさと前に向き直り、手元のスマホの操作に戻った。
けど。
「……」
後ろから見える耳が、真っ赤ですよ? セイくんよ。
五百年生きている割に、ピュアなんだなぁ。
と思っている間に、手は動き、朝ごはんが出来上がる。
「セイー、できたよー」
「は、はい」
私のイケメン発言からまだ回復していないのか、セイは頬を軽く染め、私から目を逸らしたまま、テーブルに戻ってきた。
「はい、今日のメニューは……あ」
テーブルを見ると、まだミケがへそ天で爆睡している。
「セイ、ごめん。ちょっとミケをソファとかに移動させてくれない?」
「……あ、ええ、分かりました」
セイはスマホをテーブルに置くと、ミケを両手でそっと持ち上げ、揺らさないように歩いて、ソファに寝かせる。そして、戻ってきた。
私は改めて、キッチンから目の前のテーブルへ、皿や器を置いていく。
「今日のメニューはホットサンドとサラダ、牛乳。デザートはヨーグルトになります」
「デザートまであるんですか」
私がテーブルに置いていくそれらを、何を言わずとも綺麗に二人分に並べ直してくれるセイ。いいヤツだ。
「あるよー。いつもはあったりなかったりだけど、今日はお客様がいるからね。あ、ヨーグルトは無糖だから、はちみつか苺ジャムかブルーベリージャムかマーマレード入れてね。後で出すから。無くてもいいならそれでもいいけども」
「それでは、お言葉に甘えて、マーマレードを」
「オッケー。あ、セイはサラダ、フォーク派? それとも箸?」
「お箸でお願いします」
「了解」
引き出しから客用の箸を一膳取り出し、自分のも合わせて持つ。そしてまたぐるりと回って、テーブルへ。
「はい、お待たせしました」
「いえ、ありがとうございます」
セイに箸を渡し、さっきの椅子に座る。セイも椅子に座ったのを見てから、
「では、いただきます」
「いただきます」
私はまず牛乳を飲むが、セイはホットサンドを手に取った。
そして、一かじり。
「!」
セイが驚いた顔をする。
みょーんと伸びるのは、中に入っているチーズだ。セイはそれをあむあむと口に入れ、なんとか噛み切って、もぐもぐと咀嚼する。
「……これ、チーズが凄いですね。凄く、伸びました」
口元を手で隠しながら、セイが言う。
「とろけるやつとピザ用のを入れてるからね。あと、ハムじゃなくってスモークポークが入ってて、パンに塗られてるのはマヨ粒マスタード」
「マヨ粒マスタード? ……あ、マヨネーズと粒マスタードですか」
「そうそう」
私もサラダのトマトを食べてから、ホットサンドに齧りつく。
うん、美味い。
と。
ヴヴッ!
「ん?」
私のスマホが何かを受け取ったらしい。私はティッシュで手を拭いて、テーブルの上のスマホを手に取り、操作する。
「……」
そして、画面に現れたアイコンと文字列に、溜め息を吐きそうになって、なんとか押し留めた。
「? どうか、しましたか?」
「うんや、なんでも」
首を横に振って、スマホを置き、食事を再開する。
……伯母さんめ、また話を持ってくるとは。……あーこれで、また今度の日曜が潰れた。
「……本当に、大丈夫ですか?」
「え?」
「その、眉間に、シワが……」
セイが言いづらそうに指摘したそれに、言われてから気付く。
「ああ、ごめん。ホント、なんでもないの。ちょっとした親族との面倒事なだけだから」
眉間をほぐし、軽く笑いながら手を振る。
「それ、何でもないようには聞こえませんが……」
セイは、言い募ろうとしたんだろう、口を開き、けれど一旦閉じた。そして、壁にかけてある時計を見てから、また改めて口を開いた。
「話は変わりますが、ナツキさんは今日のお仕事は大丈夫なんですか?」
「ん? あー、うん。大丈夫。今日は在宅の日でね。就業は九時からだけど、それまでは自由時間だから」
「なるほど。在宅ワークですか」
セイが納得した、という顔で頷く。
今の時刻は午前七時半。まだまだ仕事の始まりまで余裕がある。
「僕は営業周りだったりスタジオでの撮影だったりですから、在宅ワークという概念にどうも疎くて」
「ああ、職業手品師だもんね。……手品師ってか、マジシャン?」
「そうですね。今時の言い方になると、マジシャンです」
……今時か? この言い方。
……五百歳だからかな、この物言い。五百年も生きてると、時間の感覚も違うんだろか。
「それにしても、美味しいです。ナツキさんってお料理が上手なんですね」
「あんたね、この程度で上手なんて言ってちゃ、世の中の料理上手さんが泣くよ? ホットサンドは材料を挟んで焼くだけだし、サラダは切ってドレッシングをかけただけ。他のものはすべて市販品」
そう言うと、セイは少しだけ目を眇めて。
「……ナツキさんって、やっぱり少し、ご自身を卑下するところがありますよね」
「そうかなぁ」
私としては、事実を言ってるだけなんだけどなぁ。
「そうです。僕はこのホットサンドを美味しいと思いました。そして、それを伝えました。けど、返ってきた言葉がそれなんて、悲しいです」
本当に悲しそうな顔をするセイに、ちくりと胸が痛んだ。
「……」
まあ、それはそうか。
「……ごめん。褒めてくれてありがとう。嬉しかったよ」
「はい」
だから、その笑顔は眩しいんだって。
あー、この広めのキッチン、一人暮らしで持て余し気味だったけど、こんなふうになる日が来るとはね。
そんなこんなで動き回り、ふと、リビングを見ると。
『ニィ……』
セイへの警戒心を解き始めたらしいシロが、カーテンから徐々に顔を出してきたところだった。
シロさん、アンタもかい。
どうしたんだろうね、今日の君ら三匹は。いつもは、私以外には姿を見せるどころか物音さえ立てないで隠れているっていうのに。
「おはようございます、シロさん」
シロに挨拶しているセイは、椅子からソファに移っていて、スマホを操作しているらしかった。
「ねーセイ、飲み物牛乳でいいー?」
「はい」
セイがこっちに振り返って、はにかむ。
だから、その顔はヤバいって。眩しいって。
「……セイさんよ」
「はい」
「キミは、自分がイケメンであると、自覚しているかね?」
「えっ」
虚を突かれたような顔をして、セイが動きを止めた。
「? セイ?」
「……あ、……いえ、なんでも」
セイはそそくさと前に向き直り、手元のスマホの操作に戻った。
けど。
「……」
後ろから見える耳が、真っ赤ですよ? セイくんよ。
五百年生きている割に、ピュアなんだなぁ。
と思っている間に、手は動き、朝ごはんが出来上がる。
「セイー、できたよー」
「は、はい」
私のイケメン発言からまだ回復していないのか、セイは頬を軽く染め、私から目を逸らしたまま、テーブルに戻ってきた。
「はい、今日のメニューは……あ」
テーブルを見ると、まだミケがへそ天で爆睡している。
「セイ、ごめん。ちょっとミケをソファとかに移動させてくれない?」
「……あ、ええ、分かりました」
セイはスマホをテーブルに置くと、ミケを両手でそっと持ち上げ、揺らさないように歩いて、ソファに寝かせる。そして、戻ってきた。
私は改めて、キッチンから目の前のテーブルへ、皿や器を置いていく。
「今日のメニューはホットサンドとサラダ、牛乳。デザートはヨーグルトになります」
「デザートまであるんですか」
私がテーブルに置いていくそれらを、何を言わずとも綺麗に二人分に並べ直してくれるセイ。いいヤツだ。
「あるよー。いつもはあったりなかったりだけど、今日はお客様がいるからね。あ、ヨーグルトは無糖だから、はちみつか苺ジャムかブルーベリージャムかマーマレード入れてね。後で出すから。無くてもいいならそれでもいいけども」
「それでは、お言葉に甘えて、マーマレードを」
「オッケー。あ、セイはサラダ、フォーク派? それとも箸?」
「お箸でお願いします」
「了解」
引き出しから客用の箸を一膳取り出し、自分のも合わせて持つ。そしてまたぐるりと回って、テーブルへ。
「はい、お待たせしました」
「いえ、ありがとうございます」
セイに箸を渡し、さっきの椅子に座る。セイも椅子に座ったのを見てから、
「では、いただきます」
「いただきます」
私はまず牛乳を飲むが、セイはホットサンドを手に取った。
そして、一かじり。
「!」
セイが驚いた顔をする。
みょーんと伸びるのは、中に入っているチーズだ。セイはそれをあむあむと口に入れ、なんとか噛み切って、もぐもぐと咀嚼する。
「……これ、チーズが凄いですね。凄く、伸びました」
口元を手で隠しながら、セイが言う。
「とろけるやつとピザ用のを入れてるからね。あと、ハムじゃなくってスモークポークが入ってて、パンに塗られてるのはマヨ粒マスタード」
「マヨ粒マスタード? ……あ、マヨネーズと粒マスタードですか」
「そうそう」
私もサラダのトマトを食べてから、ホットサンドに齧りつく。
うん、美味い。
と。
ヴヴッ!
「ん?」
私のスマホが何かを受け取ったらしい。私はティッシュで手を拭いて、テーブルの上のスマホを手に取り、操作する。
「……」
そして、画面に現れたアイコンと文字列に、溜め息を吐きそうになって、なんとか押し留めた。
「? どうか、しましたか?」
「うんや、なんでも」
首を横に振って、スマホを置き、食事を再開する。
……伯母さんめ、また話を持ってくるとは。……あーこれで、また今度の日曜が潰れた。
「……本当に、大丈夫ですか?」
「え?」
「その、眉間に、シワが……」
セイが言いづらそうに指摘したそれに、言われてから気付く。
「ああ、ごめん。ホント、なんでもないの。ちょっとした親族との面倒事なだけだから」
眉間をほぐし、軽く笑いながら手を振る。
「それ、何でもないようには聞こえませんが……」
セイは、言い募ろうとしたんだろう、口を開き、けれど一旦閉じた。そして、壁にかけてある時計を見てから、また改めて口を開いた。
「話は変わりますが、ナツキさんは今日のお仕事は大丈夫なんですか?」
「ん? あー、うん。大丈夫。今日は在宅の日でね。就業は九時からだけど、それまでは自由時間だから」
「なるほど。在宅ワークですか」
セイが納得した、という顔で頷く。
今の時刻は午前七時半。まだまだ仕事の始まりまで余裕がある。
「僕は営業周りだったりスタジオでの撮影だったりですから、在宅ワークという概念にどうも疎くて」
「ああ、職業手品師だもんね。……手品師ってか、マジシャン?」
「そうですね。今時の言い方になると、マジシャンです」
……今時か? この言い方。
……五百歳だからかな、この物言い。五百年も生きてると、時間の感覚も違うんだろか。
「それにしても、美味しいです。ナツキさんってお料理が上手なんですね」
「あんたね、この程度で上手なんて言ってちゃ、世の中の料理上手さんが泣くよ? ホットサンドは材料を挟んで焼くだけだし、サラダは切ってドレッシングをかけただけ。他のものはすべて市販品」
そう言うと、セイは少しだけ目を眇めて。
「……ナツキさんって、やっぱり少し、ご自身を卑下するところがありますよね」
「そうかなぁ」
私としては、事実を言ってるだけなんだけどなぁ。
「そうです。僕はこのホットサンドを美味しいと思いました。そして、それを伝えました。けど、返ってきた言葉がそれなんて、悲しいです」
本当に悲しそうな顔をするセイに、ちくりと胸が痛んだ。
「……」
まあ、それはそうか。
「……ごめん。褒めてくれてありがとう。嬉しかったよ」
「はい」
だから、その笑顔は眩しいんだって。
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