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第二章 竜の文化、人の文化
四十四話
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『彼女は、私達と似た何かを持っていた。だからこそ、精霊達を感じる事も出来たのだろう。それが、……どうしてか、何故かは、分からないが……彼女と私達には、確実に共通する部分があったのだよ』
ヘイルの祖父、タークレーガンは、昔話でもするように、ヘイル達にそう語った。
『共通するものって?』
尋ねるヘイルに、タークレーガンはしばし黙し、緩く首を横に振る。
『……正確には、分からない。……けれど、お前達もいつか、それを知る……それが分かる時が、来るかもしれない』
『? どういうことですか?』
ブランゼンが首を傾げる。それに、タークレーガンは柔らかく笑みを向けて。
『……すまない。私からは、これ以上は言えないんだ。……いや、これすらも、お前達は忘れた方が良いかもしれない……』
『えー! せっかく面白そうなことを聞いたのに、忘れろなんて、お爺様はヒドいです!』
一緒にいたヘイルの、二番目の姉が、頬を膨らませる。
『でも、教えてくれたってことは、忘れるかどうかはぼく達しだいって、ことですよね!』
ヘイルの言葉に、タークレーガンはその金の瞳を僅かに見開き、それから、息を吐くように、ゆったりと笑った。
◆
テーブルの側まで歩いてきたヘイルは、そんな昔話を要約して話しながら、腕を組んだ。
「祖父の話では、その〈彼女〉は、人間でありながら魔法が使え、俺達が感じられる精霊達の存在も、同じ様に感知していたらしい。だから、アイリスにも、精霊を感じられる可能性はあると考えられる」
「よく覚えてたわね、そんな話」
ブランゼンが感心するように言うと、
「逆になんで覚えてないんだ。あれはとても貴重な話だったんだぞ」
と、ヘイルは不満げに応えた。
「それは、まあ……でも、そんな、五十前後の事。きちんと覚えてるあなたの方が珍しいわよ」
少し申し訳なさそうにしながらも言い返すブランゼンに、ヘイルは呆れたように溜め息を吐いて。
「ちょっと、何今の」
「とにかく。そういう訳で、アイリスも精霊を感知出来るかもしれない、という事だ」
言って、アイリスに顔を向けたヘイルは、そのヘーゼルに疑問の色がある事に気付く。
「何か、質問でもあるか?」
「えっ、は。……その、精霊のお話については、分かりました。どうしてかは分からないけど、精霊を感じられる人が居たという事は。……で、その、そこ、なんですが……」
アイリスは少し言い辛そうに、目を彷徨わせながら、続きを口にする。
「その……魔法を使えて、精霊を感じられた人は、どのような人物だったのでしょうか……?」
「おれもそれ気になる」
「わたしも」
「僕も」
「わ、私も……」
ゾンプ達も揃って、アイリスと同じ様にヘイルの顔を見上げる。
「……それは」
すると、ヘイルは難しい顔になった。
「詳しくは、分からない。祖父も彼女について、多くは語って下さらなかったもんでな」
アイリス達はブランゼンを見る。
「あー、そうね。人間について教えてはくれたけど、その、彼女の事になると、なんでか口数が減っちゃってたわね。だから、私も詳しくは知らないわ」
今度は、ファスティへと、子供達の目が向けられた。
「……そうですねぇ。私も、その彼女と呼ばれていた人間のお話は、お傍で拝聴しておりましたが……。タークレーガン様がそれらについて、詳しく語られた記憶はございませんねぇ」
おっとりと言われたファスティの言葉に、アイリス達はがっくりと肩を落とす。
「そう、ですか……」
「すまん、アイリス」
ヘイルは何かを考えるように、自身の髪をくしゃりと混ぜた。
「その彼女について、名前なども調べれば出てくるだろうが……それをするには正当な理由が必要になる。今すぐにどうこう、というのは、難しいだろうな……」
「え? 調べられるの?」
ゾンプがそれに食いついた。
「だから、調べるにしても正当な理由が必要だ。これは個々の私的な情報にあたる。しかも、祖父の語り口からして、彼女の記録は古いものだろう。そう簡単には手に入らない」
「それ、長の権限でなんとか出来ないの?」
「それは職権乱用だ、ケルウァズ」
「ちぇっ」
「ちぇっ、じゃないの。真面目な話よ?」
ブランゼンにも言われ、ケルウァズは「はぁい」と気の抜けた返事をした。
ヘイルの祖父、タークレーガンは、昔話でもするように、ヘイル達にそう語った。
『共通するものって?』
尋ねるヘイルに、タークレーガンはしばし黙し、緩く首を横に振る。
『……正確には、分からない。……けれど、お前達もいつか、それを知る……それが分かる時が、来るかもしれない』
『? どういうことですか?』
ブランゼンが首を傾げる。それに、タークレーガンは柔らかく笑みを向けて。
『……すまない。私からは、これ以上は言えないんだ。……いや、これすらも、お前達は忘れた方が良いかもしれない……』
『えー! せっかく面白そうなことを聞いたのに、忘れろなんて、お爺様はヒドいです!』
一緒にいたヘイルの、二番目の姉が、頬を膨らませる。
『でも、教えてくれたってことは、忘れるかどうかはぼく達しだいって、ことですよね!』
ヘイルの言葉に、タークレーガンはその金の瞳を僅かに見開き、それから、息を吐くように、ゆったりと笑った。
◆
テーブルの側まで歩いてきたヘイルは、そんな昔話を要約して話しながら、腕を組んだ。
「祖父の話では、その〈彼女〉は、人間でありながら魔法が使え、俺達が感じられる精霊達の存在も、同じ様に感知していたらしい。だから、アイリスにも、精霊を感じられる可能性はあると考えられる」
「よく覚えてたわね、そんな話」
ブランゼンが感心するように言うと、
「逆になんで覚えてないんだ。あれはとても貴重な話だったんだぞ」
と、ヘイルは不満げに応えた。
「それは、まあ……でも、そんな、五十前後の事。きちんと覚えてるあなたの方が珍しいわよ」
少し申し訳なさそうにしながらも言い返すブランゼンに、ヘイルは呆れたように溜め息を吐いて。
「ちょっと、何今の」
「とにかく。そういう訳で、アイリスも精霊を感知出来るかもしれない、という事だ」
言って、アイリスに顔を向けたヘイルは、そのヘーゼルに疑問の色がある事に気付く。
「何か、質問でもあるか?」
「えっ、は。……その、精霊のお話については、分かりました。どうしてかは分からないけど、精霊を感じられる人が居たという事は。……で、その、そこ、なんですが……」
アイリスは少し言い辛そうに、目を彷徨わせながら、続きを口にする。
「その……魔法を使えて、精霊を感じられた人は、どのような人物だったのでしょうか……?」
「おれもそれ気になる」
「わたしも」
「僕も」
「わ、私も……」
ゾンプ達も揃って、アイリスと同じ様にヘイルの顔を見上げる。
「……それは」
すると、ヘイルは難しい顔になった。
「詳しくは、分からない。祖父も彼女について、多くは語って下さらなかったもんでな」
アイリス達はブランゼンを見る。
「あー、そうね。人間について教えてはくれたけど、その、彼女の事になると、なんでか口数が減っちゃってたわね。だから、私も詳しくは知らないわ」
今度は、ファスティへと、子供達の目が向けられた。
「……そうですねぇ。私も、その彼女と呼ばれていた人間のお話は、お傍で拝聴しておりましたが……。タークレーガン様がそれらについて、詳しく語られた記憶はございませんねぇ」
おっとりと言われたファスティの言葉に、アイリス達はがっくりと肩を落とす。
「そう、ですか……」
「すまん、アイリス」
ヘイルは何かを考えるように、自身の髪をくしゃりと混ぜた。
「その彼女について、名前なども調べれば出てくるだろうが……それをするには正当な理由が必要になる。今すぐにどうこう、というのは、難しいだろうな……」
「え? 調べられるの?」
ゾンプがそれに食いついた。
「だから、調べるにしても正当な理由が必要だ。これは個々の私的な情報にあたる。しかも、祖父の語り口からして、彼女の記録は古いものだろう。そう簡単には手に入らない」
「それ、長の権限でなんとか出来ないの?」
「それは職権乱用だ、ケルウァズ」
「ちぇっ」
「ちぇっ、じゃないの。真面目な話よ?」
ブランゼンにも言われ、ケルウァズは「はぁい」と気の抜けた返事をした。
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