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第三章 生誕祭

八話

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 ファスティが、黒髪の女性と、水色の髪の男性──と、思われる人、いや竜を伴い、庭に戻ってきた。
 黒髪の女性はブランゼンより少し背が低く、その波打つ黒髪は豊かで、腰を超えるほど長かった。その髪は上半分を複雑に編み込んであり、キラキラと輝く輝石が散りばめられている。着ている物は、デイドレスと普段着のワンピースを合わせたようなものだった。黒を基調にしたそれには、細かな模様のレース、金の刺繍、宝石などの装飾が沢山──けれど毳毳けばけばしくならないように、計算して付けられている。加えて彼女の顔の造作は、それは見事なもので、中でも一際目を引いたのが、大きく愛らしく、形の整った金の瞳だった。
 そして、その後ろから、控えるようについて来る、水色の髪の──

(体格からして、男性……よね……? それとも、男装の、麗人?)

 アイリスは心の中で首を傾げる。
 艷やかな水色の髪は、左耳の上の一房を、煌めきを放つ金のモールのようなものと一緒に編み込み、後ろで高く一つに纏めて垂らしている。その毛先は、肩にかかっていた。そして、しなやかさを感じさせるスラリとした体躯。黒髪の女性と同じく黒を基調にして、控えめに装飾が施されたスーツを身に纏う、その身長はシャオンとそう変わらないように見えた。が、細身で均整の取れたそれは、中性的な雰囲気を醸し出し、一流の彫刻家が作ったかのように思えるのだ。
 しかし何よりその顔に、自然と目がいってしまう。
 現実離れしていると言いたくなるほどの、整った容貌。新緑を思わせる明るい緑の双眸は、鋭利で、しかし艶めきがあり。流麗な眉も長いまつ毛も、薄い唇も細い顎も、そして抜けるような白い肌も、何もかもが、美しい、の一言で終わらせるには勿体ないと、こちらに訴えてくるような気さえしてくるほどだった。

(なんて美人……いえ、美竜? さん……)

 ファスティの言葉からすると、どちらかがプツェンで、どちらかがルウォーネと言うらしい。しかも、プツェンという竜は、お嬢様と呼ばれていた。

(と、言う事は)

 少なくともどちらかは、身分が高い竜なのだろう。もしくは、両方が。

「誰?」
「なに?」
「なにごと?」
「プツェンって……」

 ゾンプ達はひそひそと、ファスティの後ろの二竜ふたりを見ながら声を交わす。

「はぁい、ヘイル。来ちゃった」

 黒髪の女性が、軽く右手を上げながら、にっこりと微笑んだ。

「来ちゃった、じゃないだろうプツェン。なんの連絡もなしに突然来ていい立場じゃないだろう、お前は」

 ヘイルは呆れた声でそう言って、その顔も呆れ顔だった。

「良いじゃない、固い事言わないでよ。それに、一応お忍びだもの」
「だからと言ってな……」
(あちらの方が、プツェンさん、なのね)

 と、ヘイルと彼女が言葉を交わす様子をアイリスが見ていると、そのプツェンと目が合った。

(あっ)
「──あら。……あなたが噂のアイリスさん?」
「え、は、はい」

 プツェンは楽しそうにステップを踏みながら、なんで名前と顔を知っているのかと不思議に思うアイリスのもとまでやって来る。そして、アイリスに目線を合わせるためか、少し腰をかがめ、

「こんにちは、はじめまして。私、ヘイルの二番目の姉で、綿雲のみやこを治めてる、プツェン・ノベリウス・ルーンツェナルグっていうの。よろしくね?」

 と言って、とても可愛らしく、ウインクした。


   ◆


 勉強会は急遽、お開きとなった。というか、プツェンが来たために、勉強会どころではなくなってしまった。
 プツェンの名乗りに、アイリスもゾンプ達も一瞬固まり、一拍の後に驚きの声をそれぞれ上げる。

「ブランゼンもシャオンも久しぶり。はじめましての皆さんこんにちは。それで、ここでみんな何してるの?」

 と、騒ぎの中軽く聞いてくるプツェン。ヘイルは頭に手をやり、頭痛でもしているかのようにその頭を軽く振って、溜め息を、一つ。

「……プツェン、場所を変えよう」


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