女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師

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11 アラーム (※)

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 涙はもう引っ込んでいたけれど、やっぱりどうにも、気恥ずかしい。
 幸せな気持ちに浸っていると、自分を抱きしめてくれている圭介の腕に、少し力が込められたのが伝わってきた。

「…………そーちゃん、あのさ」

 そして圭介の、どこか遠慮がちな声が耳に届く。

「幸せなのは本当なんだけど。なんだけどさ。も、ちょい、幸せになりたいなーって……思ったり、しちゃってて」
「……? どういうこと?」

 意味が掴めなくて、肩に当てていた顔を上げた。

「怒らないでくれるとありがたいんだけど……」
「なんだ、それ」

 よくわからないことを言う圭介の顔を見ようと、もぞもぞ動く。
 少し抵抗されたような気もしたけど、無事に見えた圭介は、餌をお預けされている動物のようにそわそわしていた。そして、微妙に目が合わない。

「なんだってば。圭介」
「……キスが、したいです」

 渋い声と観念したような顔で言われ、きょとんとしてしまったあと、言われたことの意味を理解する。

「~~~っ!」

 顔が一気に赤くなったのが、自分でもわかった。
 そんな奏夜を見て、圭介は苦しそうに呻く。

「今はめっちゃ可愛い顔やめてくれ……キス以上をしたくなるから……」
「かっ……」

 可愛い顔ってなんだよ。キス以上ってどんなことだよ。
 聞こうとして、思い留まる。可愛い顔うんぬんはともかく、キス以上のあれそれについて聞いてしまうと、あとに引けなくなる気がした。

「そーちゃん」

 顔も視線も完全に奏夜へ向き直った圭介に真剣な声で呼ばれ、思わず背筋が伸びる。

「キス、していい?」

 背中に回されていた腕の片方、右手が奏夜の頬に当てられ、囁くように尋ねられる。

「……う、ん……」

 赤い顔のまま、小さく顎を引く形でなんとか頷いた。
 それを見た圭介はふわりと笑い、顔を寄せてくる。

「ありがと、そーちゃん。大好き」

 俺も、と言う前に、唇を優しく塞がれる。
 啄まれるような軽いキスを、繰り返し受ける。
 戯れのようなものだと思うのに、昨日にも増して恥ずかしくて、奏夜は固く目をつぶった。
 キスをされ、軽く舐められ、歯を立てられる。
 昨日のキスとは、訳が違う。訳というか、奏夜の心持ちというか。
 そのせいでか、ド緊張している奏夜の体はガチガチに固まってしまっていて、受け身でいることしかできない。せめともと、圭介の背中に回したままの腕に力を込め、縋るように抱きついた。

「そーちゃん」

 唇の間、蕩けるような声で名前を呼ばれる。

「口、開けられる? 少しでいいから」

 耳朶に響く声で言われると、従う以外の選択肢がなくなってしまう。は、と詰めていた息を吐くのに合わせて口を開いたら、ぬる、と熱く柔らかなものが口の中に入ってきた。

(圭介の)

 舌。
 開けられる? と聞かれた時に、来るだろうと思っていたけれど、実際にその感触を味わうことになると、やっぱり脳みそが沸騰しそうで、心臓が破裂しそうな気になってしまう。
 頬に当てられていた右手が後頭部へ移動し、唇同士を更に深く合わせられ、喘ぐように息をする。
 その間にも、圭介の舌は口の中でゆったりと動き、奏夜の口内を侵食していく。
 昨日よりも慎重な動きで、けれど確実に深められていく。

(……なんか、体が)

 熱い。
 体の奥で燻り始めた熱は、圭介のキスによってその温度を上げていく。
 これ、なに? よくわかんない。なんか、体がざわざわする。

「ん……っ……ぁ、ぅ……」

 角度を変えて唇が合わさる度に、自分のとは思えない声を上げてしまう。
 上顎を舐められて、ピクリと肩が跳ねた。そこからはもう、些細な動きに大仰に反応し始める。
 苦しい。気持ちいい。恥ずかしい。幸せ。熱い。
 体の奥にある熱は、更に大きくなっていく。ここまでくるともう、下腹部に集まり始めた熱の意味をわかってしまう。わからされる。

(俺の……)

 反応、してる。
 体が昂っているのだとわかると、恥ずかしくて恥ずかしくて。圭介に、より縋りついた。抱きしめ返してくれることが嬉しくて、恥ずかしくて。
 キスだけなのに。キスだけで、こんなになるものなのか? これが普通なのか?
 目元がじんわりと熱くなる。泣きそうになっているのは、気持ちいいからか、恥ずかしいからか。……たぶん、気持ちいいほうが強い。
 自分の舌と、圭介の舌とが絡み合って、お互いの熱が混ざり合う。
 ゆっくり、勿体ぶるような動きで、圭介の口の中に、舌を引き込まれて。

(……あ、ヤバい)

 かぷり、と軽く噛まれた時に、思った。

(ヤバい。気持ちいい。ヤバい、ヤバい、ヤバい)

 噛まれて、吸われて、舐められて。圭介の口内で、舌を優しく弄ばれる。

(ヤバい、ヤバい、ヤバい)
「んぅ……! っ……あっ……!」

 何がヤバいかわからないけれど、これ以上はなんかヤバい。
 ヤバいから。もうダメだから。
 それを訴えようとした、その時。

 ──リリリリリッ!

 部屋に響き渡った高い音に、パチっと目を開けた。
 圭介も音に驚いたのか目を見開いていて、動きを止めている。

「っ……! あ、アラーム! 止める!」

 この音は、自分のスマートフォンに設定されているアラームの音。それに気づくのと同時に、今を逃せばあとがない、という思いで圭介の口から舌を抜き、腕の中から少し強引に抜け出す。

「……あー……アラーム……」

 圭介の、なんだか恨めしそうな声を聞きながらベッドの枕元へ寄ってスマートフォンを手に取り、アラームを解除した。

(アラーム……! ありがとうアラーム……!)

 心の中で、アラームに感謝する。ギリギリのタイミングだったような気もするが、そもそもアラームの時刻設定を七時にしたのは自分なので、アラームに感謝こそすれ責めることはできない。
 そんな、少し変な思考回路のまま、はふぅ、と息を吐き出す。
 アラームの音に気がいったのか、『ヤバい』という感覚は遠くへ行った。けれどまだ少し、体に熱が残っている。
 圭介に悟られないように、と、ベッドに突っ伏しながら熱を冷ましていると。

「ごめん、そーちゃん。ちょっとやり過ぎたよな」

 申し訳なさそうな声とともに、ぽん、と頭に手を置かれた感触があった。

「嫌がること、したくないって思ってるのに。なんか、コントロール利かなくてさ。……言い訳だなーこれ」

 突っ伏したままの姿勢で声のほうへ顔を向けると、聞こえていたものの通りに、申し訳なさそうな、少し崩れた笑みを浮かべている圭介が、すぐそばに座り込んでいた。

「……けーすけ……」
「ごめんな。次から気をつける。嫌われたくないし」

 ゆっくり、何度も頭を撫でてくれる手の動きに、慈しみのようなものを感じた。

(嫌う、とか)

 そんなこと、しない。

「……嫌だったんじゃ、なくて」

 圭介へ手を伸ばしながら、言う。

「気持ち、良すぎて。なんかヤバい気がして」

 少し驚いているような圭介の顔を見ながら、その首に腕を回して抱きついた。

「こんなの、初めてだから。訳わかんなくなりそうで。ちょっと、逃げちゃって。……けど」

 腕に力を込め、ぎゅ、と抱きしめる。

「嫌だったんじゃ、ないから。嬉しくて、幸せだった。だから心配すんな、圭介」
「──ん、ぐぅっ……!」

 圭介から変な呻き声が聞こえた、と思ったら、思い切ったように強く抱きしめられた。

「そーちゃんが天使すぎる今すぐ堕天させたい落ち着け俺落ち着け俺落ち着けぇ……!」

 なんだか、よくわからないことをぶつぶつ言っている。

「け、圭介?」
「あーごめんなんでもない。なんでもなくないけど今はスルーして。落ち着かせるから。朝だし。そーちゃんこれから予定あるし。うん、落ち着け、俺」

 よくわからないなりに、「スルーして」と言われたから呼びかけるのはやめにした。代わりのように、落ち着けていないらしい圭介の頭を撫でてみる。

「そーちゃんが頭撫でてくれるとか朝から幸せが限界突破して死ぬ……」

 物騒なことを言われてしまって、撫でる手が止まる。

「あ、うそうそ死なないから撫でて」

 慌てたように言われて、軽く笑いながら撫でるのを再開した。



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