赤ずきんはオオカミを救いたいし狙ってるし結婚したい【第三章了◆第四章準備中】

山法師

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第三章 闇の組織、妖精と精霊

9 神の子

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「精霊が助けてくれたんだ! 人間の少女に頼まれたって! ニナっていう子だって、精霊が言ってた! ニナ、あの子、たぶんあの子だ! 絶対そうだ! 一緒に捕まってた聖女! こんな凄いこと出来るの、あの子しかいない!」

 故郷に戻ったメデューサの少女は、泣きながら周りにそう言った。

「ニナって子が! 一緒に捕まってた聖女なの!」
「ニナが! 聖女なのに!」
「精霊が言ってたの! ニナって名前だって! 聖女だよ! 一緒に捕まってたんだ!」
「聖女が! クエリアって呼ばれてたけど、あの子がニナだ!」

 ヴァンパイアの少女も、ハーピーの少女も、エルフの少女も、人魚の少女も。
 助かったのだと、助けられたのだと。泣きながら周りに、頭に響いた精霊の言葉を、ニナについてを。話していった。
 他の、精霊たちの言葉通りに、帰るべき場所や目的地、あの地獄から遠くへと願い、送ってもらった者たち──ヒトも、妖精も、動物も。
 精霊が頭に響かせた声を。その言葉を。人間の、ニナという少女の話を。
 彼女が精霊に頼んで救い出してくれたのだと、家族や、友人や、愛する者たちに、そしてその周りに。生きて解放された喜びと共に、涙ながらに伝えた。

 ◇

 大勢の神父たちが、連携して、まだ寝てるスキラー・クレスミーの人間を拘束していく。証拠になるらしいモノを押収していく。

「それは別に良いんだけども」
「良いんだけども? 何か気になるのか? ニナ」

 気になるのかって? 気になっとるよ? サロッピス。

「どうして残るって言ってくれたの? サロッピスは帰らなくていいの?」

 今、私は寝起きしていた部屋に、ミーティオルとサロッピスと一緒に居る。
 キリナは他の神父たちと情報共有したり、スキラー・クレスミーの処理をしたりしてる。
 精霊さんたちには「もう大丈夫だと思います。ありがとうございました」って、言って、帰ってもらった。

「また喚んでおくれ。神の子、ニナよ」

 そんなことを言ってくれたりしたけど。

「それはそうだ! 我は一度ならず二度までも! ニナと縁があった! これはもう、ニナのそばに付けと、神が言っているも同義なのだよ!」
「本人がこう言ってるんだから、良いんじゃないか?」

 私を膝の上で横向きに抱えてるミーティオルが、そう言いながら、

「ニナ。寝れるなら寝たほうが良い」

 背中をまた、トン、トン、て、してくれるぅ……。優しく叩いてくれるぅ……。久しぶりだよぉ……。

「でも……ミーティオル……」

 くそう……眠くなってく……。コレ、完全に眠気のスイッチになってる……。

「ここは本部だからな。本当にスキラー・クレスミーを壊滅させるだけのモノが出てくる可能性があるし、そもそも、建物もデカい。あの人数でも、終わるまで数日はかかるだろうし。だからニナ、寝て大丈夫だよ」

 そんな優しく言わんで……。

「……ミーティオル……ホントに……寝ちゃうよ……?」
「ああ、大丈夫だ。しっかり抱えてるから」

 そういう意味でなく……。

「もう、地面に寝かせたくないな。なんか、怖い」

 そういうこと言うの、ズルい……。

「ミーティオル……寝ちゃう……から……」
「うん。寝て大丈夫だって」
「違くて……ベルズに……気を付けて……」
「ああ、気を付けてる。ニナとサロッピスから容姿は聞いたしな。だから寝よう。ニナ。今は絶対安全だから」

 ……もう…………まじで…………寝ちゃ…………。

 ◇

「寝たようだな」

 サロッピスが、瞼を閉じて寝息を立て始めたニナの顔を覗き込みながら言う。

「みたいだな。寝れて良かった。ずいぶん怖い思いもしただろうに」

 ミーティオルは少しだけ、ホッとした声でそれに応じた。

「……ベルズが死んだことは、聞かせないほうがいいのか?」

 神妙な顔をしたサロッピスの問いかけに、

「少なくとも、今はな」

 ミーティオルは膝の上でニナを仰向けに抱え直し、答える。
 サロッピスは、ニナたちとこの部屋に向かっている時、

『ミーティオル、キリナ。ベルズっていう奴がね、ここで一番偉いっぽい奴なの。私より少し年上な子に見えるのに』

 そう言って、ニナがベルズのことを話し始めたので、ならば自分もと、話しだした。

『そして、ニナの願いに応えた精霊が、ベルズを無効化させたのだ』
『どう無効化したんです? 周りの人間と同じく、気絶させたんですか?』

 キリナの問いかけに、

『いや? ベルズを元の状態に戻したのだ。あいつは我らの力を使って体をイジっていたのだよ』
『え? そうなの?』
『気付いていなかったのか、ニナ。ベルズは──』

 サロッピスはそこで、ミーティオルに話をやめるよう言われた。

『長くなりそうだからな。明日詳しく聞こう。ニナ、ここが使ってた部屋か?』

 キリナも、肩を竦めるに留めて、それ以上は聞いてこず。
 ニナは、ベルズの現在の状態──砂のように崩れて死んでしまったことを、知らないまま、眠った。

「ニナのことだしな。この状況でその話を聞いたら、自分が殺したと思いかねない」

 ミーティオルは、ため息を吐くように言う。

「そうだな。ニナは慈悲深い。血気盛んで慈悲深い神の子だ」

 サロッピスも、頷いてそれに同意する。

「なあ、サロッピス。ベルズが死んだのは、妖精の力を失ったからって見当がつくんだが。なんでそう、ニナを神の子って言うんだ? 神の血を引いてるだけだろ? 教皇の家系だから」

 不思議そうにするミーティオルに、サロッピスは呆れた顔をして、

「なんだ。ニナの遣いの者らしいというのに、分かっていなかったのか? ニナは神の血筋を引いている子ではない。文字通りに神の子だ。神が血を分けた子なのだよ」
「……どういう意味だ? 素直に受け取ると、両親のどっちかが神だって聞こえるんだが」
「その通りだが? ニナの片親は神だ。人間の神だ」

 ふわりと浮かびながらの、当然だろう、と言いたげなサロッピスのそれに、

「……マジか」

 ミーティオルは驚きを通り越し、呆気に取られる。

「マジなのだよ。ただ、神は神だからな。この世への過干渉を好まない。だから、ニナはこのような危機にも晒されてしまう。我がニナと再会したのは、偶然とは思わないのだよ。神がなんとかしようとした結果なのではと思うのだ」
「まあ……それで、精霊を呼べたしな……」
「初心者が一発で成功させるなど、神の子でなければ無理なのだよ。ニナだから喚べたのだ。神の子であるニナだから、精霊たちも協力的だったのだ」
「なるほどな……キリナが戻ってきたら報告だな……」

 ◇

 破損している、重要らしい物的証拠を復元できないかと考えていたキリナに、一人の人物が声をかけてきた。

「キリナ、今回はお疲れ様だな」

 彼へ顔を向けたキリナは、肩を竦めると、

「ですが、ワーウルフは取り逃がしてしまいました」
「聖女のご意志だからな。しょうがない」

 彼は、軽く笑いながら言う。
 キリナは、その反応にため息を吐いて、

「兄さんみたいな考え方は、僕には難しいですね」
「お前は真面目だからな。一度設定した目的は、達成するまでやり続けようとするところがある」

 キリナに兄と呼ばれた、キリナより少し年上だろう彼は、キリナと同じ銀の髪と、キリナと同じ明るい茶色の虹彩を持っていた。

「けど、キリナ。もう俺たちが来たからな。お前だけが責任を負う必要は無くなった」

 キリナはその言葉に、僅かに目を細め、

「ニナさんの護衛任務を交代する、という話ですか?」

 静かな口調で問いかける。

「流石、分かってるな。我が弟は」

 また、朗らかに笑う兄に、

「交代するなら、きちんと引き継ぎをしないといけませんからね。こっちが一段落したら、ニナさんとミーティオルさん、それから、サロッピスさんにも話をしなければ」

 キリナは努めて冷静に、その顔を見つめ返した。


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