4 / 9
4. 決闘と昇格
しおりを挟む俺は今、強面のおっさんににらまれている。何かやらかしたのだろうか。
「マスター、そんなに威嚇しないでください!!」
受付嬢の言葉にギルドマスターはその表情を崩す。
「威嚇などしておらんわ。失礼な。」
そしてまた、俺の顔をのぞく。このおっさん、俺のことを測っているようだ。
「…さて、シオン君。隣に座るセリーナ君は、君がゴブリンを12匹、ブラッド・タイガーを4匹倒したと主張している。はっきり言って疑わしい。セリーナ君のことは信頼している。ただ、客観的に考えて、冒険者登録をしたばかりの少年にそんなことができるとは思えないのだ。」
ふむ。仕方あるまい。常人に理解できる俺ではないからな。
ギルドマスターはまた口を開く。
「ただ、嘘だと決めつけるのも立場上よくないのでな。君の実力を測らせてもらうことにする。…ルカ、特別試験の準備だ。」
この受付嬢、ルカという名前だったのか。いや、それよりも特別試験とは何だろう。
「ギルドマスターっ!アレは思いつきで行うようなものではありません。Aランク冒険者と、さらには闘技場の使用許可が必要なのですよ」
ふむ。察するにAランク冒険者に実力を測られる、ということか。だが、Aランク冒険者など忙しいだろ。すぐに用意できるのだろうか。
するとギルドマスターはこう答えた。
「闘技場はマスターとしての権限で許可を出させるから心配するな。…そして、相手は」
その顔は、まさか…
「この儂だ!」
ルカのあきれ顔が目に映る。このおっさん、いつもこうなのだろう。ルカさんも苦労するな。
――夕暮れ。俺は闘技場に立っていた。目の前にはあのおっさん。この人、まじで出てきたのか。
観客席にはすさまじい数の人が並ぶ。…ほとんど私闘なのだが、どこから噂を拾うのだろう。…てかセリーナもいるな。暇なのか?
試験のルールはいたって簡単だった。木刀での決闘。どちらかが降参するまで戦い続けるだけだ。戦いが終わると試験官(今回はおっさん)に結果を判定されるらしい。…ちなみに、決闘の勝敗と試験の合否は関係ないとのこと。
――「はじめっ!!」
ルカさんの声とともに試験がスタートした。
とりあえず様子を見る。と、おっさんが飛び掛かってきた。何の工夫もない、ただの振り下ろし。
(…舐められてるな)
木刀で受けようと思った。が、瞬間、嫌な気がしたので、すんでのところで回避する。すると、剣先が地面に触れた。
ボコッ
…地面がえぐれたぞ。ありえるか?ほんとに木刀か?
その後もおっさんが木刀を振り、俺がそれをかわす展開が続く。
2分ほど続いただろうか。ふいにおっさんが剣を止め、口を開いた。
「なぜ攻撃してこない?」
…確かに俺は今まで一回も攻撃していない。それにはもちろんしっかりとした理由がある。
「殺してしまうのでな。」
「……。ふっ。生意気な小僧だ」
おっさんは笑った。
「儂は木刀じゃ死なぬ。思いっきり打ってこい」
おっさんの太刀筋が、先ほどまでとは比べ物にならないほど鋭くなる。なんだ、おっさん手を抜いてたのか。…というか、これは少しまずいな。
キンッ!
かわし切れなくなり、ついに木刀で受けてしまった。途端、おっさんが畳みかけてくる。…重っ。このヒト本当に人間か?
――キンッ! キンッ! キンッ!
しばらく受け続けるが、…これは腕が持たない。
……仕方ない。やるしかないか。
その思った瞬間だった。
「…降参だ。」
ギルドマスターはそう言い放つ。
観客、ルカさんは茫然としている。いや、俺もだ。おっさんの突然の負け宣言に思考が追いつかない。
「試験結果は言うまでもないだろう。彼の今日の実績を認めるとともに、冒険者シオンはAランクに昇格とする。…以上だ。解散」
淡々と試験結果を述べるとおっさんは去っていった。なんだというのだ。まったく。
試験後、ルカさん発案で飯に行くことになった。俺、ルカさん、そしてセリーナの3人でだ。会話に花が咲く中で、やはり、話題は今日の試験のことになった。
「どうしてギルドマスターは降参したのでしょうか」
ルカさんは疑問を口に出した。その目線で、俺に種明かしを求めているのが分かる。
「…さあ」
そう答えると、ルカさんは頬を膨らます。いや、本当に俺もわからないんだよ…。
セリーナは満足げに言う。
「ギルドマスターは、シオンの強さに気づいたんだよ」
「と、言うと?」
…。ルカさんそんなに深堀りしないであげてくれ。
「…それはわからないけど」
ほらボロがでた。
俺はため息をつきながら、あることを考える。
(もしやアレに気づいたのか?いや、それはないか。)
結局、宿屋に帰れたのは、深夜であった。
今思い出しても、身の毛がよだつ。“あの瞬間”、儂は恐れたのだ。
「マスター、お紅茶でも入れましょうか?」
儂にそう問いかけるのは、古くからギルドに努める職員、マーチ。
「あぁ、コーヒーを頼む。…今夜は眠れそうにないので、仕事でもと思ってね」
コーヒーを注ぎながら、マーチは物思いにふける。
「天下のSランク冒険者様が、今や事務職とはねぇ」
彼女は小声でつぶやいた。
「……昔の話だよ」
そう。儂はSランク冒険者だった。この世に、自分と並ぶものはいても超えるものはいないと、そう思っていた。先ほどまでは。
刀で受けさせ、畳みかけた。“あの瞬間”まで、完全に俺に有利な状況だったのである。…彼は何もしていない。強いて言えば、殺気を放っただけだ。それだけ......なのに、ただの木刀の決闘で、“死”を予感させられた。
...そういえばあの男と戦っている時、やけに懐かしい感じがしなぁ。
(...お前は達者でやっとるか、アラン)
マスターが、シオンがアランの息子だと知るのは、次の日のことであった。
編集
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる