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4話 理想の両親
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翌日の天気は少し曇っていたが、優しい風が花々の匂いを運んでくる。
ミミはランエルの家を出るとベナスの居る自宅へは帰らずに両親のもとへ向かった。十八歳まで過ごした我が家は小さくて狭いが、赤い屋根が特徴で可愛いとミミは思っている。町からは少し離れているので不便なときもあるが、緑も一段と多く静かに暮らせる自慢の家だ。
突然の訪問にミミの両親は驚いていたが、ふたりは数年前に仕事を辞めていたのでゆっくりできる時間があった。温かく迎えてくれた両親にそれまであったすべてのことを話した。
「ミミ、こんな日が来ないことを願っていたわ……」
母のティローゼは優しくミミを抱きしめて背を撫でた。
「しばらくは別の場所で暮らしていくしかないだろうな。世間は気づくだろうが、ミミの性格では……彼と一緒に暮らすのは無理だろう」
父のジルドは低く静かな声でそう言った。
「しばらく……」
しばらくとはいつまでなのだろうか。
「ミミ、ベナス君と番になる前に言ったはずだ。我々、兎獣人族は番の解消をすることができないと。彼が不貞行為をしたらどうするのかと訊いたね?」
覚えている。ミミは答えたのだ。ベナスはそんなことしない! と……。
過去に戻れるなら戻りたいと思った。その男は浮気します! と全力で伝えたい。
「我々の番契約はどちらかが死ぬまで永遠だ。そう思って本来はもっと慎重に相手を見極める」
ミミの両親はお互いに慎重な性格で、長い交際期間を得てから番となっている。ミミを授かったのも、だいぶ年を重ねてからだった。彼らほどではないが、兎獣人族の番選びはみな慎重で、すぐには番にならないのが一般的なのだ。
ミミも両親に最低四年の交際期間を設けるように説得されたのだが、ミミはすぐにでも番になりたいと言い張った。
それは年上で当時三十二歳だったベナスの意向が大きい。当時は両親と大喧嘩となったが、勘当されなかったのはふたりのミミへの愛情が大きかったからだろう。
「恋とはそんなものなのよ」
ティローゼは優しく夫に話しかけた。
「ティー」
ふたりは見つめ合い、ミミにはわからない心の声で話し合う。仲睦まじい両親はミミの自慢で理想だった。同級生の親たちよりも一回り年上で、子どものころは揶揄う言葉を聞くこともあったが、ミミは両親が大好きだ。
いつかミミもベナスとふたりのように、見つめ合うだけで会話をしたかった。そう思うと、ミミの目から涙が滲んだ。
「ミミには時間が必要よ、しばらくはこの家で過ごしなさい」
ティローゼはミミがきつく握りしめていた手を優しく包んだ。期限付きとはいえ、戻る場所があることにミミは感謝した。今はベナスと居たくない。パン屋の仕事は今日は休みだが、実家から向かうには明日はいつもより早起きする必要があるだろう。
気分転換をかねて町に向かっていたミミは、必要な物を考えながら歩いていたのでその存在に気がつかなかった。
「ミミ!」
そこには、今は会いたくないベナスが立っていたのだ。
「ミミ、探したよ! ランエルのところに行ったんだ。彼女、ここにはいないって言っていたから、お義父さんたちのところかなって……会えてよかった……」
安堵するベナスの飴色毛はぼさぼさで、顔には疲労の色が見えた。
「話を聞いてほしい」
真剣な目を向けてくるベナスに、ミミは目を逸らす。
「今は無理」
「ミミ! お願いだよ!!」
「今ベナスと話したら、汚い言葉しか出てこないの! 私は汚い言葉は使いたくないの!!」
言葉には魂がある。汚い言葉は使わないようにと母と約束しているのだ。そんなミミが心にしまっていた言葉がベナスを見ると飛び出してきそうになる。
「最悪な気分なの! 今はひとりにして!!」
向きを変えミミは実家を目指して歩き出した。
「ミミ!!」
ふと歩くのを止めてベナスを見た。訊きたいことが一つだけあったのだ。
「あの女はどこの誰?」
「えっ……ロベニカのこと?」
ミミは黙って頷いた。
「僕もよく知らないんだ……仕事仲間の紹介で知り合って、それで……」
訊きたいことはそれだけだと、向きを変えミミはまた歩き出した。後からベナスの声が聞こえてくる。
「三か月前に知り合って! それで……つい、でき心で!」
今は知りたくない情報まで喋り出すベナスを吹っ切るためにミミは実家まで走り出した。
「ミミっ!! 待ってくれ! 愛しているのは君だけなんだ!! 信じてくれ!!」
叫びながらベナスが追いかけてくる。ミミは少しだけ振り向き叫んだ。
「私たちは神様の前で誓った! 生涯お互いだけだと! 裏切者!! ついてくるな変態野郎!!」
「ミミっ!!」
ふたりの大きな声は、影から様子を覗っていた女にも届いていた。
ミミはランエルの家を出るとベナスの居る自宅へは帰らずに両親のもとへ向かった。十八歳まで過ごした我が家は小さくて狭いが、赤い屋根が特徴で可愛いとミミは思っている。町からは少し離れているので不便なときもあるが、緑も一段と多く静かに暮らせる自慢の家だ。
突然の訪問にミミの両親は驚いていたが、ふたりは数年前に仕事を辞めていたのでゆっくりできる時間があった。温かく迎えてくれた両親にそれまであったすべてのことを話した。
「ミミ、こんな日が来ないことを願っていたわ……」
母のティローゼは優しくミミを抱きしめて背を撫でた。
「しばらくは別の場所で暮らしていくしかないだろうな。世間は気づくだろうが、ミミの性格では……彼と一緒に暮らすのは無理だろう」
父のジルドは低く静かな声でそう言った。
「しばらく……」
しばらくとはいつまでなのだろうか。
「ミミ、ベナス君と番になる前に言ったはずだ。我々、兎獣人族は番の解消をすることができないと。彼が不貞行為をしたらどうするのかと訊いたね?」
覚えている。ミミは答えたのだ。ベナスはそんなことしない! と……。
過去に戻れるなら戻りたいと思った。その男は浮気します! と全力で伝えたい。
「我々の番契約はどちらかが死ぬまで永遠だ。そう思って本来はもっと慎重に相手を見極める」
ミミの両親はお互いに慎重な性格で、長い交際期間を得てから番となっている。ミミを授かったのも、だいぶ年を重ねてからだった。彼らほどではないが、兎獣人族の番選びはみな慎重で、すぐには番にならないのが一般的なのだ。
ミミも両親に最低四年の交際期間を設けるように説得されたのだが、ミミはすぐにでも番になりたいと言い張った。
それは年上で当時三十二歳だったベナスの意向が大きい。当時は両親と大喧嘩となったが、勘当されなかったのはふたりのミミへの愛情が大きかったからだろう。
「恋とはそんなものなのよ」
ティローゼは優しく夫に話しかけた。
「ティー」
ふたりは見つめ合い、ミミにはわからない心の声で話し合う。仲睦まじい両親はミミの自慢で理想だった。同級生の親たちよりも一回り年上で、子どものころは揶揄う言葉を聞くこともあったが、ミミは両親が大好きだ。
いつかミミもベナスとふたりのように、見つめ合うだけで会話をしたかった。そう思うと、ミミの目から涙が滲んだ。
「ミミには時間が必要よ、しばらくはこの家で過ごしなさい」
ティローゼはミミがきつく握りしめていた手を優しく包んだ。期限付きとはいえ、戻る場所があることにミミは感謝した。今はベナスと居たくない。パン屋の仕事は今日は休みだが、実家から向かうには明日はいつもより早起きする必要があるだろう。
気分転換をかねて町に向かっていたミミは、必要な物を考えながら歩いていたのでその存在に気がつかなかった。
「ミミ!」
そこには、今は会いたくないベナスが立っていたのだ。
「ミミ、探したよ! ランエルのところに行ったんだ。彼女、ここにはいないって言っていたから、お義父さんたちのところかなって……会えてよかった……」
安堵するベナスの飴色毛はぼさぼさで、顔には疲労の色が見えた。
「話を聞いてほしい」
真剣な目を向けてくるベナスに、ミミは目を逸らす。
「今は無理」
「ミミ! お願いだよ!!」
「今ベナスと話したら、汚い言葉しか出てこないの! 私は汚い言葉は使いたくないの!!」
言葉には魂がある。汚い言葉は使わないようにと母と約束しているのだ。そんなミミが心にしまっていた言葉がベナスを見ると飛び出してきそうになる。
「最悪な気分なの! 今はひとりにして!!」
向きを変えミミは実家を目指して歩き出した。
「ミミ!!」
ふと歩くのを止めてベナスを見た。訊きたいことが一つだけあったのだ。
「あの女はどこの誰?」
「えっ……ロベニカのこと?」
ミミは黙って頷いた。
「僕もよく知らないんだ……仕事仲間の紹介で知り合って、それで……」
訊きたいことはそれだけだと、向きを変えミミはまた歩き出した。後からベナスの声が聞こえてくる。
「三か月前に知り合って! それで……つい、でき心で!」
今は知りたくない情報まで喋り出すベナスを吹っ切るためにミミは実家まで走り出した。
「ミミっ!! 待ってくれ! 愛しているのは君だけなんだ!! 信じてくれ!!」
叫びながらベナスが追いかけてくる。ミミは少しだけ振り向き叫んだ。
「私たちは神様の前で誓った! 生涯お互いだけだと! 裏切者!! ついてくるな変態野郎!!」
「ミミっ!!」
ふたりの大きな声は、影から様子を覗っていた女にも届いていた。
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