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10話 失ったもの
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大きな雷の音で、ミミは目を覚ました。
辺りは薄暗くて、カビ臭い。何度も目を瞬かせて辺りを確認すると、どうやら木の小屋のような場所にいることがわかった。
ミミは椅子に座らされて、手足が縛られている。
男たちの気配はない。目の前にいるのは――。
雷鳴の光が、小さな窓に射したとき、ミミは気づいた。
「……ロベ二カ!?」
腕を組んだロベニカが、椅子に座ってミミに微笑んでいる。
「ロベニカ! あなたが、私を……!?」
縄を解こうと、ミミは必死で身体を動かしたが、縄は固く縛られていて少しの隙間もできなかった。ロベニカは面白そうに笑って見ているだけだ。
「なんのことかしら? 私はミミさんがここにいるよ~って、知らない人に教えてもらったの!」
だから来たんだよ? とロベニカはわざとらしく微笑んだ。雷鳴が何度か光って部屋を一瞬だけ明るくしていく。ロベニカは立ち上がり、小屋の隅にあった蝋燭に火を灯しだした。
「ミミさんに、いいものを持ってきたの」
燭台を持ち、ロベニカはミミに近づいてきた。ロベニカの顔が、薄暗い小屋の中に浮かび上がっている。彼女は灯りと一緒に、ミミの目の前に用紙を差し出してきた。
「これは……」
暗くてよく見えない。意味がわからずにロベニカの顔を見上げると、ミミを見下ろした彼女の冷たい目の中に怒りの炎が燃えて見える。
「あなたに必要なものよ。番解消請求書」
はっきりと大きな声でロベニカはそう言った。
風が強く吹き、雨が窓を打ちつけている。大きな雨音が部屋中に響いたが、ロベニカの声がかき消されることはなかった。ミミのもとにもちゃんと届いていたのだが、無言だったのはその言葉を理解するには少しだけ時間が必要だったからだ。ロベニカは、困惑するミミを馬鹿にするように笑っていたが、次第に手にしていた用紙が震え出した。
「仕返しに人の番に手を出すなんて、最低の女ね!」
怒りが抑えきれなくなったのだろうか、ロベニカが仮面を外した瞬間だった。
あなたにだけは言われたくないと、ミミもロベニカを睨みかえしたのだが、彼女はさらに鬼の形相へと変わっていった。
「やるじゃない。褒めてあげるわ! いい度胸よ! 可愛い顔してやることやれるのね! でも絶対許さない!!」
ロベニカは右手に持っていた用紙を放り出し、ミミの頬を叩き出した。
「うっ」
ミミは歯を食いしばり痛みに耐える。
「あんたなんか、ここから追い出してやる!!」
ロベ二カは何度も何度もミミの頬を叩いた。連続の攻撃に、ミミは喋ることもできない。
泣くもんか! 身体の震えは止められないが、ミミは涙を必死で堪えていた。
どのくらいたったのだろうか。時間の感覚がなくなっていたミミにその声は突然届いた。
「ミミ!!」
いきなり扉が開いて、入ってきたのはベナスだった。
雨の中を走ってきたのだろうか、彼はずぶ濡れで息を切らしている。
「僕の番に何をしている!!」
ベナスはミミの頬を打つロベニカを突き飛ばした。
「いった~い! 何すんのよベナス!! あんたはお呼びじゃないのよ!!」
「それはこっちのセリフだ! 呼ばれて来てみれば、きみは僕の番に何をしているんだ!!」
ミミがここに居るから早く行くように、誰かに言われたらしいのだ。ベナスは急いでミミの手の縄を解きだした。
「お仕置きよ! 私の番と浮気した、罰よ!!」
ロベニカの言葉にベナスは固まった。床にしゃがみ込み、震えながらもミミの自由になった手に自分の手を重ねる。どちらの手も冷たくて氷のようだった。
「ミミ、そんなに僕のことを許せなかったんだね。真面目なきみが、仕返しをするほどに……」
ミミは自分の耳を疑った。ベナスは何を言っているのだろう。
「ベナス、私はそんなことしていないわ」
口の中が切れていてうまく喋れないが、ミミは懸命に訴えた。
「嘘をつかなくていい。何人もの町の住人がきみたちを見ているんだ……」
「私を……信じてくれないの?」
ミミの声は小さくかすれ、震えていた。
「お互いに心を入れ替えて、やり直そう。僕たち、まだやり直せるよ……」
ベナスはミミの膝に頬を寄せ、涙声で懇願している。
「私を信じてくれないの!? ベナス!」
ミミの叫びに、ベナスは答えなかった。
手を離せば二度と戻らないと知っているかのように、震える両手で、ミミの手を必死に握りしめているだけだ。ミミの目からは、大粒の涙がこぼれていた。
恐怖も痛みも我慢したのに――。涙が止めどなく溢れ、息が苦しい。
相手への信頼は、いつ消えてしまったのだろうか。
あの日には、もう戻れない。
ミミは覚悟を決めて、小さく息を吐いた。
辺りは薄暗くて、カビ臭い。何度も目を瞬かせて辺りを確認すると、どうやら木の小屋のような場所にいることがわかった。
ミミは椅子に座らされて、手足が縛られている。
男たちの気配はない。目の前にいるのは――。
雷鳴の光が、小さな窓に射したとき、ミミは気づいた。
「……ロベ二カ!?」
腕を組んだロベニカが、椅子に座ってミミに微笑んでいる。
「ロベニカ! あなたが、私を……!?」
縄を解こうと、ミミは必死で身体を動かしたが、縄は固く縛られていて少しの隙間もできなかった。ロベニカは面白そうに笑って見ているだけだ。
「なんのことかしら? 私はミミさんがここにいるよ~って、知らない人に教えてもらったの!」
だから来たんだよ? とロベニカはわざとらしく微笑んだ。雷鳴が何度か光って部屋を一瞬だけ明るくしていく。ロベニカは立ち上がり、小屋の隅にあった蝋燭に火を灯しだした。
「ミミさんに、いいものを持ってきたの」
燭台を持ち、ロベニカはミミに近づいてきた。ロベニカの顔が、薄暗い小屋の中に浮かび上がっている。彼女は灯りと一緒に、ミミの目の前に用紙を差し出してきた。
「これは……」
暗くてよく見えない。意味がわからずにロベニカの顔を見上げると、ミミを見下ろした彼女の冷たい目の中に怒りの炎が燃えて見える。
「あなたに必要なものよ。番解消請求書」
はっきりと大きな声でロベニカはそう言った。
風が強く吹き、雨が窓を打ちつけている。大きな雨音が部屋中に響いたが、ロベニカの声がかき消されることはなかった。ミミのもとにもちゃんと届いていたのだが、無言だったのはその言葉を理解するには少しだけ時間が必要だったからだ。ロベニカは、困惑するミミを馬鹿にするように笑っていたが、次第に手にしていた用紙が震え出した。
「仕返しに人の番に手を出すなんて、最低の女ね!」
怒りが抑えきれなくなったのだろうか、ロベニカが仮面を外した瞬間だった。
あなたにだけは言われたくないと、ミミもロベニカを睨みかえしたのだが、彼女はさらに鬼の形相へと変わっていった。
「やるじゃない。褒めてあげるわ! いい度胸よ! 可愛い顔してやることやれるのね! でも絶対許さない!!」
ロベニカは右手に持っていた用紙を放り出し、ミミの頬を叩き出した。
「うっ」
ミミは歯を食いしばり痛みに耐える。
「あんたなんか、ここから追い出してやる!!」
ロベ二カは何度も何度もミミの頬を叩いた。連続の攻撃に、ミミは喋ることもできない。
泣くもんか! 身体の震えは止められないが、ミミは涙を必死で堪えていた。
どのくらいたったのだろうか。時間の感覚がなくなっていたミミにその声は突然届いた。
「ミミ!!」
いきなり扉が開いて、入ってきたのはベナスだった。
雨の中を走ってきたのだろうか、彼はずぶ濡れで息を切らしている。
「僕の番に何をしている!!」
ベナスはミミの頬を打つロベニカを突き飛ばした。
「いった~い! 何すんのよベナス!! あんたはお呼びじゃないのよ!!」
「それはこっちのセリフだ! 呼ばれて来てみれば、きみは僕の番に何をしているんだ!!」
ミミがここに居るから早く行くように、誰かに言われたらしいのだ。ベナスは急いでミミの手の縄を解きだした。
「お仕置きよ! 私の番と浮気した、罰よ!!」
ロベニカの言葉にベナスは固まった。床にしゃがみ込み、震えながらもミミの自由になった手に自分の手を重ねる。どちらの手も冷たくて氷のようだった。
「ミミ、そんなに僕のことを許せなかったんだね。真面目なきみが、仕返しをするほどに……」
ミミは自分の耳を疑った。ベナスは何を言っているのだろう。
「ベナス、私はそんなことしていないわ」
口の中が切れていてうまく喋れないが、ミミは懸命に訴えた。
「嘘をつかなくていい。何人もの町の住人がきみたちを見ているんだ……」
「私を……信じてくれないの?」
ミミの声は小さくかすれ、震えていた。
「お互いに心を入れ替えて、やり直そう。僕たち、まだやり直せるよ……」
ベナスはミミの膝に頬を寄せ、涙声で懇願している。
「私を信じてくれないの!? ベナス!」
ミミの叫びに、ベナスは答えなかった。
手を離せば二度と戻らないと知っているかのように、震える両手で、ミミの手を必死に握りしめているだけだ。ミミの目からは、大粒の涙がこぼれていた。
恐怖も痛みも我慢したのに――。涙が止めどなく溢れ、息が苦しい。
相手への信頼は、いつ消えてしまったのだろうか。
あの日には、もう戻れない。
ミミは覚悟を決めて、小さく息を吐いた。
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