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11話 覚悟
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「ロベニカ、用紙を渡して」
ミミの冷たい声に、ベナスもロベニカも固まっていた。誰も声を出さず、聞こえてくるのは雨音だけだった。
「ミミ、用紙って……」
沈黙を破ったのはミミの膝に縋り付いていたベナスだった。不安と困惑の涙目でミミを見上げている。
「サインするの!?」
言われた言葉を理解したロベニカの顔には歓喜の色が浮かんでいた。嬉々として落ちていた用紙を拾い上げ、ミミの前に差し出してきたのだ。
ミミは渡された用紙の文字を蝋燭の灯りを頼りに目で追ってから、ペンを走らせた。
後戻りはできない。そう思った。
「それはなんの用紙なんだ!?」
ベナスの叫びに、ミミは答えなかった。
ミミの心は凍りつき、なにかが麻痺しているようだ。叩かれた両頬は熱を帯びているのに、痛みがずいぶんと遠い。
「ミミ! 無事か!?」
開け放たれた扉には、ホーデリオが護衛たちを引き連れて立っていた。手には魔道具のランタンが灯っていて、辺りは一気に明るくなる。
「あなたっ!」
「おまえは!!」
ベナスもホーデリオを知っているのだろうか、涙目から怒りの形相に変わっていた。
「ミミ、その顔は……」
ふたりを無視して、ホーデリオは一目散にミミのもとへやってきた。赤く腫れ上がったミミの頬に気づいたホーデリオは、護衛に治癒師を呼ぶように伝えている。
「お前の番がミミを叩きまくっていたんだぞ!」
ベナスはホーデリオの胸倉を掴もうと飛び掛かったのだが、ホーデリオに軽くかわされて、そばにいた彼の護衛によって床に押さえつけられてしまっていた。
「ちょっと叩いただけよ! あなたがこんな女と浮気なんてするから!!」
ロベニカの剣幕にも、ホーデリオは顔色を変えなかった。むしろ、軽蔑の目をロベニカに向けている。
「きみたちと一緒にしないでくれるかな。私たちはいたって健全な仲だよ」
きみの両親が心配しているよ、とホーデリオがそう言ってミミを馬車まで導こうとした。
「待て! ロベニカの持ってる用紙が何か確認しろ! ミミがサインしてるんだ!!」
床に拘束されながらも、ベナスは必死に叫んだ。
「これはミミさんの番解消請求書。渡さないわよ! 私が提出してあげるの!!」
ロベニカは持っていた用紙を大事そうに腕の中に隠した。その言葉にベナスの顔色が青くなる。
「そ、そんな……」
打ちのめされながらも必死に用紙を取ろうと手を伸ばすベナスをよそに、ロベニカは勝ち誇ったように用紙をなびかせてみせた。今にも踊り出しそうだ。
「大事な書類だ。もっと丁寧に扱いなよ」
ホーデリオの冷たい声に、ミミもロベニカも固まった。ミミが視線を向ければ氷のように冷たい目がロベニカを見据えている。
「ホーデリオ……?」
何を言っているのだろうか? ミミはホーデリオを凝視した。彼の目は鋭く暗く、底が見えない。ミミは、はじめてホーデリオを怖いと思った。
「審議会のときは、きみもちゃんと出席するんだよ。ロベニカ」
自分の番にそれだけ言うと、ホーデリオはミミだけを連れてその場を離れていく。
夜の雨はいつの間にか小降りになっていた。
「ミミ! 無事でよかった……」
「心配したのよ……!!」
帰宅したミミを、両親は泣きながら抱きしめた。ふたりに届いた手紙は、偽装されたもので、集会などはじめからなかったのだ。そばには両親の知らせで駆けつけてきたランエルもいて、ミミの無事に安堵の涙を流していた。
「本当にいいの、ミミ? 今なら取り消し請求ができるんだよ?」
今まであったことを聞いたランエルは、ミミにそう言った。
温かなお茶を飲み、ミミの両手にも心にも熱が戻ってきている。
「うん。ベナスとお別れしたいの。それに……ここにいるのが辛いんだ」
ミミの消え入りそうな声に、そばに座って話を聞いていた両親がまた抱きしめてきた。
「もう少し、一緒に居られると思っていたのだけどね」
父のジルドは優しくミミの背を撫でた。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。仕方のないことなんだ」
「あなたが笑顔でいてくれるのなら、どんな遠くにいても私たちは我慢できるわ」
両親の言葉に、ミミの目頭がまた熱を帯びる。
ふたりの温もりを忘れたくなくて、ミミは時間が許す限り両親を抱きしめていた。
ミミの冷たい声に、ベナスもロベニカも固まっていた。誰も声を出さず、聞こえてくるのは雨音だけだった。
「ミミ、用紙って……」
沈黙を破ったのはミミの膝に縋り付いていたベナスだった。不安と困惑の涙目でミミを見上げている。
「サインするの!?」
言われた言葉を理解したロベニカの顔には歓喜の色が浮かんでいた。嬉々として落ちていた用紙を拾い上げ、ミミの前に差し出してきたのだ。
ミミは渡された用紙の文字を蝋燭の灯りを頼りに目で追ってから、ペンを走らせた。
後戻りはできない。そう思った。
「それはなんの用紙なんだ!?」
ベナスの叫びに、ミミは答えなかった。
ミミの心は凍りつき、なにかが麻痺しているようだ。叩かれた両頬は熱を帯びているのに、痛みがずいぶんと遠い。
「ミミ! 無事か!?」
開け放たれた扉には、ホーデリオが護衛たちを引き連れて立っていた。手には魔道具のランタンが灯っていて、辺りは一気に明るくなる。
「あなたっ!」
「おまえは!!」
ベナスもホーデリオを知っているのだろうか、涙目から怒りの形相に変わっていた。
「ミミ、その顔は……」
ふたりを無視して、ホーデリオは一目散にミミのもとへやってきた。赤く腫れ上がったミミの頬に気づいたホーデリオは、護衛に治癒師を呼ぶように伝えている。
「お前の番がミミを叩きまくっていたんだぞ!」
ベナスはホーデリオの胸倉を掴もうと飛び掛かったのだが、ホーデリオに軽くかわされて、そばにいた彼の護衛によって床に押さえつけられてしまっていた。
「ちょっと叩いただけよ! あなたがこんな女と浮気なんてするから!!」
ロベニカの剣幕にも、ホーデリオは顔色を変えなかった。むしろ、軽蔑の目をロベニカに向けている。
「きみたちと一緒にしないでくれるかな。私たちはいたって健全な仲だよ」
きみの両親が心配しているよ、とホーデリオがそう言ってミミを馬車まで導こうとした。
「待て! ロベニカの持ってる用紙が何か確認しろ! ミミがサインしてるんだ!!」
床に拘束されながらも、ベナスは必死に叫んだ。
「これはミミさんの番解消請求書。渡さないわよ! 私が提出してあげるの!!」
ロベニカは持っていた用紙を大事そうに腕の中に隠した。その言葉にベナスの顔色が青くなる。
「そ、そんな……」
打ちのめされながらも必死に用紙を取ろうと手を伸ばすベナスをよそに、ロベニカは勝ち誇ったように用紙をなびかせてみせた。今にも踊り出しそうだ。
「大事な書類だ。もっと丁寧に扱いなよ」
ホーデリオの冷たい声に、ミミもロベニカも固まった。ミミが視線を向ければ氷のように冷たい目がロベニカを見据えている。
「ホーデリオ……?」
何を言っているのだろうか? ミミはホーデリオを凝視した。彼の目は鋭く暗く、底が見えない。ミミは、はじめてホーデリオを怖いと思った。
「審議会のときは、きみもちゃんと出席するんだよ。ロベニカ」
自分の番にそれだけ言うと、ホーデリオはミミだけを連れてその場を離れていく。
夜の雨はいつの間にか小降りになっていた。
「ミミ! 無事でよかった……」
「心配したのよ……!!」
帰宅したミミを、両親は泣きながら抱きしめた。ふたりに届いた手紙は、偽装されたもので、集会などはじめからなかったのだ。そばには両親の知らせで駆けつけてきたランエルもいて、ミミの無事に安堵の涙を流していた。
「本当にいいの、ミミ? 今なら取り消し請求ができるんだよ?」
今まであったことを聞いたランエルは、ミミにそう言った。
温かなお茶を飲み、ミミの両手にも心にも熱が戻ってきている。
「うん。ベナスとお別れしたいの。それに……ここにいるのが辛いんだ」
ミミの消え入りそうな声に、そばに座って話を聞いていた両親がまた抱きしめてきた。
「もう少し、一緒に居られると思っていたのだけどね」
父のジルドは優しくミミの背を撫でた。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい。仕方のないことなんだ」
「あなたが笑顔でいてくれるのなら、どんな遠くにいても私たちは我慢できるわ」
両親の言葉に、ミミの目頭がまた熱を帯びる。
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