ミミは生涯の番と別れられるか?

みづきかやの

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31話 熊男

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 掃除の仕事は順調に少しづつ増え、定期的に見てほしいと頼まれることもあった。

 ミミは将来を見越して個人事業者として国都に書類を提出した。職業名はシンプルに掃除屋さんだ。

 とはいえ臨時収入の域はまだ出れず、パン屋の仕事の合間に細々とやっている状況だった。

 依頼主のもとへ行くときは必ずサージュがついてくるのが定番となり、依頼主たちも微笑ましく見てくれている。ミミが困ったのは、サージュが報酬の一部を頑なに受け取らないことだ。悩んだ末、サージュに黙ってミミが貯めておくことにした。将来このお金が必要になるときがきっとくるとそう思っている。

 そしてもうひとつ、自分も含めて頑張ったご褒美を用意するこにしたのだ。

 一年の終わりが近づいてくると、どこもかしこもせわしなく慌ただしくなってくる。掃除の依頼もいつもより多く入り、今日もミミたちは一件の依頼を無事に終えることができた。

「ふぁ、さっぱりしたわね。待たせちゃったかな?」

 白い湯気をまといやってきたミミは、ひと足早く湯舟から出てきていたサージュに声をかけた。

「ついさっきあがったばかりだよ。はい、イチココミルク」

 ミミはお礼を言い、渡されたイチココミルクを手に取った。ひんやり冷たくて気持ちがいい。ふたりは並んでイチココミルクを飲んだ。

 この湯屋で飲むイチココミルクは、必ずサージュが買うようになっていた。ふだんの買い物はミミが出しているのだからここは自分が出すと、サージュが譲らなかったのだ。なかなかの頑固者だと思い、ミミは甘えることにした。

 湯屋で仕事の汗を流したあとは、赤レンガ通りの中央広場へふたりで向かう。そこで夕方からおこなわれている夜市の屋台で夕食を買ってから帰るのだ。食後のデザートもこのときだけは自分たちへのご褒美だと奮発している。

 何度か繰り返せばそれが当たり前になってゆく。新しくできた習慣を、ミミは楽しみにしていた。

 今日のサージュは魔獣肉を揚げてパンに挟んだ豪快な一品を選び、ミミは野菜のサンドイッチとカリカリに揚げた野菜スティックのセットにした。テテへのお土産も忘れない。帰ってこなければ自分たちの朝食になるので選ぶときは真剣だ。今日は魔獣肉の串焼きと、野菜ペーストを練りこんだ蒸しパンにした。

 デザートはどれも食べたいのだが、一種類と決めている。食べる楽しみをとっておくためだった。

「ミミ、これ季節限定だって」
「まあ! どうしましょう。今日は白いケーキを買おうと思っていたのに!」

 目の前には茶褐色をした四角や丸い形をしたお菓子が小分けした袋に入っている。確かに以前はなかったものだ。

「これはチョコレートと言って、異国のお菓子だよ。口の中で溶けるんだ」

 甘くて美味しいよ、と店主が誘惑してくる。ミミは隣にいるサージュの顔を見た。黒い瞳がきらきらと輝いている。

「今日は両方買っていこうか」
「いいの!?」
「今日は特別よ!」

 こんな日があってもいいのだ。自分で決めたこととわかっているが、サージュの輝く瞳にはかなわないのだから。

 サージュと手を繋げば、暗い夜道も怖くはない。不思議なことにミミはそう思うようになっていた。

 買い物袋からはいい匂いが漂っている。早く食べたいねと言いながら家路を急いだ。

 それは庭へと続く扉を開けて中に入ったときだった。

 少し歩くと、サージュがミミの手を引いて先に進むのを止めたのだ。

「ミミ戻ろう!」
「えっ!?」
「早く!!」

 あと少しで家に着くのに、サージュは戻ろうと言っている。

 思わず長屋のほうを見ると、自宅の外灯に照らされて一瞬だけ黒い影が動いた。

 空気が変わり、大きな黒い何かが勢いよく近づいでくる。ミミは胸騒ぎがしてサージュの言うとおり戻ろうと背を向けたのだが――。

「待て! テテか!?」

 大きな影は素早くて、ミミの小さな肩を鷲づかみした。

「痛い!」

 痛みが走り、ミミは叫んでいた。

「ミミ!?」

 サージュが大きな影の前に出ようとしたが、ミミが寸前で抱きしめ止める。振り返らなくてもわかるほどの相手の威圧がミミの肌に刺さりだす。震えながらも相手を見た。

 ミミの目の前には、種族の特徴を惜しげもなくさらし出した、大きな熊獣人の男が立っていた。

「……ん? テテじゃねーな」

 熊男はミミの匂いを嗅ぎだした。ミミの全身に鳥肌がたつ。

「テテの匂いもしねーなぁ」

 ミミをじろじろと見たあと、熊男はサージュを見た。

「このガキ、テテが連れてたガキじゃねーか?」
「違います!!」

 即座にミミは大声で嘘をついた。サージュを守るためなら何百回でも嘘をつけるだろう。

 ミミの本能がこの男は危険だと叫んでいる。

「この子は私の子です!」

 火事場の馬鹿力とはまさにこのことだろうか。ミミは買い物袋を持ちながらもサージュを抱え上げた。

「それにあなた! 勝手に女性の匂いを嗅ぐなんて最低です! 失礼します!!」

 異性の匂いを嗅いでいいのは番や親しい相手だけなのだ。

 まだしゃべりかけようとする熊男を無視して、ミミは全力で自宅のドアまで走った。

 鍵穴に鍵を入れる手が震えている。背には熊男の威圧がまだ刺さり続けていて、近づいてくる気配がしていた。鍵を回し終えると、威圧の気配が消えていることに気づく。ミミが振る返ると、暗くて顔は見えないが、なぜか熊男の足は止まっていた。

 サージュを抱きかかえ、急いで部屋の中へ入る。ミミが防犯のためにあとからつけた内鍵も一緒にかけて、床にしゃがみこんだ。


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