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第33話 私を見て
しおりを挟むずっと、私を見て欲しかった。
妖精女王の子どもとしてじゃなくて、"一人の妖精"として扱って欲しかった。
私は妖精女王の七番目の子ども、花の妖精のブライア。
風の妖精は風から、花の妖精は花から産まれ、同じ種の妖精同士で群れを成して暮らしている。
妖精は、性別を持たずに産まれる。通常7歳までには、どちらかに変容するはずなのだ。
「女王様の子どもだから、絶対に素敵な恋に落ちるわ」
私を育てた花や、花の妖精みんながそう言ってくれた。
私はその日が待ち遠しかった。私を好きになってくれるのは、誰なんだろう。
男の妖精?女の妖精?どっちでもいいから、いっぱい愛してくれる妖精がいいな。
私は、7歳になっても性別が変容しなかった。
『あの子、まだ決まってないの?女王様の子どもなのにね』
『半端者だな。あれで花の妖精の長が務まるのか?』
年の離れた兄や姉からは半端者として扱われた。
女王の子どもだから、私がどれだけ癇癪を起こしても、誰も怒らない。でも本当は知っていた。
『あんな子、女王の子どもじゃなきゃ誰も相手になんかしない』
みんなが影で囁いていることを。
腫れ物に触るような扱い。誰も私のことを愛してくれない。思い通りにいかない毎日は、いつも私を苛々させた。
性別が決まらず、10歳を過ぎたある日のこと。妖精の森のキノコの上に一人で座っていたら、エルフの少年が急に現れた。
「……ちょっと。ここ、妖精の縄張りなんだけど」
「あ、そう。だから何?」
「……っ!私が誰だか知らないの!?」
癪に触って金切り声で怒鳴ると、彼のセレストブルーの瞳は私を真正面から見てこう言った。
「誰?知らないけど。ただの妖精でしょ」
その時私は、産まれて初めて妖精女王の子どもじゃなく、"ただの妖精"として扱われた。
ぞんざいな物言いなのに、それがとても嬉しかったのだ。
エルフの少年はアルサリオンと名乗った。彼はいつも、難しい本を読んでいた。彼の側は居心地がよくて、私は毎日アルサリオンが来るのを待っていた。
数年後、王宮に行った時にアルサリオンがエルフの王子だということにようやく気が付いた。
『なんで言ってくれなかったの?』
『別に聞かれなかったから』
この人は、身分なんかで態度を変えない。彼ならきっと、"本当の私"を見てくれる。
これが恋なんだ。
彼だけが私の中で特別になった。
彼のことを考えると、胸が躍った。
会える日を、指折り数えた。
それでも、私の性別は変容しなかった。
――どうして?
これは、恋よ。この気持ちは恋に決まってる。私はアルサリオンが好きなの。彼に愛してもらいたいの!
だから、女の子の格好をした。周囲からは哀れみの目を向けられたけど、そんなことどうでもいい。
私は絶対アルサリオンと結ばれるの。だってエルフの王子と妖精女王の娘だなんて、どこからどう見ても最高の組み合わせじゃない。
私は18歳になった。アルサリオンは成人の儀を迎え、そのまま人間界へと旅立ってしまった。
『アルサリオンは人間の本ばかり読むわね。人間界に行きたいの?』
『うん、大人になったら行くんだ。――約束したから』
その時に見せた彼の表情は、私に向けられたものではなかった。人間界に約束を交わした誰かがいるのだ。彼をこんなにも優しく柔らかい表情にさせる、誰かが。
そんなの、許せない。
その誰かは、イングランドに住むエヴェリーナ・エイヴェリーという人間だと分かった。
どんな子なんだろう。私はこっそり人間界へと足を踏み入れた。彼女に会うために。
朝露に濡れた花の中で体を小さくして横たわる私は、初めて彼女を見た時、呼吸することも忘れて息を呑んだ。
彼女は誰からも愛されている。
家族からも、屋敷の使用人からも、村人からも。
あの子を祝福しているかのように、たくさんの愛で優しく包まれている。
その上、アルサリオンからも愛されるの?
そんなの狡い!一つくらい、私にちょうだいよ!
♢♢♢
アルサリオンが彼女を見つめる瞳。あんな視線、私には向けてくれたことがない。
あの子の手を握って、あんなに嬉しそうに優しく微笑んでいる。
まるで私なんか目に入っていないみたい――最初から知っていた。相手にされていないって。付け入る隙なんかないって。
分かってる、ただの悪あがきだってことは。
でも、駄々をこねずにはいられないの。
私も、誰かに愛されたい――。
ありのままの私で、愛されたいの。
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