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プロローグ
何もない空間と不思議な男
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私は何者だ?
ここはどこだ?
一体何がどうなってる?
暗い暗い闇の中。
周りに何も物体が無いのか、それとも物体は有るがそれを照らす光源が無いのか。
何も感覚がない。何も。
足の裏が地面に着いているという感覚も、手のひらが空気を掴む感覚も、髪が風でなびく感覚も、目が渇く感覚も、口や鼻から肺に空気が入っていく感覚も、その全てが今の私には感じられない。
そもそも私は今呼吸をしているのか? 立っているのか? しゃがんでいるのか? 歩いているのか? 走っているのか?
上も下も右も左も分からない。記憶にある限りの方法で左右を見渡すが、眼球が動いてるのかどうかさえ分からない。
何故こんなことになったのか、必死で脳内を検索してみても何も思い出せない。今まで私はどうやって生きてきた? どういう風に生きて、今ここにいる?
「ああ、ようやく見つけました」
唐突に、妙に耳障りの良い男の声が響く。
・・・・・・誰だ?
このような状況だ、突然知らない男に声をかけられたからと言って驚いてなどいられない。むしろ、この状況を理解する手がかりだと考えるのが妥当だろう。
「あなたは特殊なのに冷静ですね。こんな人は久しぶりです」
特殊、とはなんだ?
「そうですね、その前に自分の名前は分かりますか?」
自分の名前が分かるか、だと? いかにこの状況に混乱していようが分かるに決まっている。
矢野鷹斗、自分の名前を忘れるわけがない。
「なるほどなるほど」
「それでは、そろそろ姿を見せましょうか。流石にこのままではあなたも話しにくいでしょう」
そう私の頭に男の声が響くとほぼ同時に、私の前に背広姿の男が現れた。驚くことに、男の輪郭はボンヤリと光を帯びていて、所謂作り話の中の天使のようだ。性別は男のようだが・・・・・・。
普通ならばありえるはずのないこのような事態に、徐々に徐々に自分の置かれている状況が分かってきた。
この状況下で最も考えられる可能性・・・・・・。
できればその可能性は信じたくはないものだ。
「あなたは本当に賢いですね。想像している通りですよ」
私の期待を打ち砕くように、無感情でつめたい声が私の頭に響く。
やはりそうか、あまりそうあって欲しくはなかったが・・・・・・。
いつまでも否定的な考えでも事態は進まない。嫌々ながら、自分の置かれた状況を少しずつ受け入れていく。そのせいかどういう風に生きてきたのか、断片的な映像が頭に浮かんできた。
科学文明の栄えた世に生まれ、世界でも稀にみる道徳心の高い国で一人のサラリーマンとして生きた自分の姿が蘇ってくる。
「交通事故でここに来た人はたまに記憶がありませんからね。そのせいかなかなか受け入れられない方も多い。でもあなたは非常に賢く、聡明ですね。こちらとしても助かりますよ」
そうか・・・・・・。
ここに来る直前の映像がまだ思い出せてないが、私は交通事故に遭ったのか・・・・・・。
「さて、本題に入りましょう」
男がパンッと手を打ち鳴らす仕草をとったが、音は聞こえない。どうやら私の予想通り、ここには音というものは存在せず、この男の声は耳を通してではなく私の頭に直接響いているようだ。
「あなた、自分の人生に後悔はありませんか?」
後悔?
今あるだけの記憶を必死に掘り下げてみるが、どこにもそんな強い感情の入った記憶は見当たらない。強いて言うなら、望まぬ会社に入ってその能力の高さからか知らぬ間に中間管理職まで上り詰めたことくらいか。
「・・・・・・まあそれは実際に行ってみないと分かりかねますがね、でもそんなことではないはずですよ。人生を変えてしまうくらい悔いたことが他にあるはずです」
行く? どこへ?
いやそもそも『他にもあるはずです』 って言われても思い出せないんだけど。
「それでは、いってらっしゃい」
突如として視界が眩しい光に遮られた。
一体どこへ行くと言うのか。私は・・・・・・私はもう・・・・・・。
ここはどこだ?
一体何がどうなってる?
暗い暗い闇の中。
周りに何も物体が無いのか、それとも物体は有るがそれを照らす光源が無いのか。
何も感覚がない。何も。
足の裏が地面に着いているという感覚も、手のひらが空気を掴む感覚も、髪が風でなびく感覚も、目が渇く感覚も、口や鼻から肺に空気が入っていく感覚も、その全てが今の私には感じられない。
そもそも私は今呼吸をしているのか? 立っているのか? しゃがんでいるのか? 歩いているのか? 走っているのか?
上も下も右も左も分からない。記憶にある限りの方法で左右を見渡すが、眼球が動いてるのかどうかさえ分からない。
何故こんなことになったのか、必死で脳内を検索してみても何も思い出せない。今まで私はどうやって生きてきた? どういう風に生きて、今ここにいる?
「ああ、ようやく見つけました」
唐突に、妙に耳障りの良い男の声が響く。
・・・・・・誰だ?
このような状況だ、突然知らない男に声をかけられたからと言って驚いてなどいられない。むしろ、この状況を理解する手がかりだと考えるのが妥当だろう。
「あなたは特殊なのに冷静ですね。こんな人は久しぶりです」
特殊、とはなんだ?
「そうですね、その前に自分の名前は分かりますか?」
自分の名前が分かるか、だと? いかにこの状況に混乱していようが分かるに決まっている。
矢野鷹斗、自分の名前を忘れるわけがない。
「なるほどなるほど」
「それでは、そろそろ姿を見せましょうか。流石にこのままではあなたも話しにくいでしょう」
そう私の頭に男の声が響くとほぼ同時に、私の前に背広姿の男が現れた。驚くことに、男の輪郭はボンヤリと光を帯びていて、所謂作り話の中の天使のようだ。性別は男のようだが・・・・・・。
普通ならばありえるはずのないこのような事態に、徐々に徐々に自分の置かれている状況が分かってきた。
この状況下で最も考えられる可能性・・・・・・。
できればその可能性は信じたくはないものだ。
「あなたは本当に賢いですね。想像している通りですよ」
私の期待を打ち砕くように、無感情でつめたい声が私の頭に響く。
やはりそうか、あまりそうあって欲しくはなかったが・・・・・・。
いつまでも否定的な考えでも事態は進まない。嫌々ながら、自分の置かれた状況を少しずつ受け入れていく。そのせいかどういう風に生きてきたのか、断片的な映像が頭に浮かんできた。
科学文明の栄えた世に生まれ、世界でも稀にみる道徳心の高い国で一人のサラリーマンとして生きた自分の姿が蘇ってくる。
「交通事故でここに来た人はたまに記憶がありませんからね。そのせいかなかなか受け入れられない方も多い。でもあなたは非常に賢く、聡明ですね。こちらとしても助かりますよ」
そうか・・・・・・。
ここに来る直前の映像がまだ思い出せてないが、私は交通事故に遭ったのか・・・・・・。
「さて、本題に入りましょう」
男がパンッと手を打ち鳴らす仕草をとったが、音は聞こえない。どうやら私の予想通り、ここには音というものは存在せず、この男の声は耳を通してではなく私の頭に直接響いているようだ。
「あなた、自分の人生に後悔はありませんか?」
後悔?
今あるだけの記憶を必死に掘り下げてみるが、どこにもそんな強い感情の入った記憶は見当たらない。強いて言うなら、望まぬ会社に入ってその能力の高さからか知らぬ間に中間管理職まで上り詰めたことくらいか。
「・・・・・・まあそれは実際に行ってみないと分かりかねますがね、でもそんなことではないはずですよ。人生を変えてしまうくらい悔いたことが他にあるはずです」
行く? どこへ?
いやそもそも『他にもあるはずです』 って言われても思い出せないんだけど。
「それでは、いってらっしゃい」
突如として視界が眩しい光に遮られた。
一体どこへ行くと言うのか。私は・・・・・・私はもう・・・・・・。
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