知識欲の鬼才と叡黎書(アルトワール) 第一章

麒麟

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第一章

反発と恐怖

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 シルヴァが賞状やトロフィーを適当に鑑賞していると、ゼラから声がかかった。

「食事の用意が出来たよ」
「あぁ。今行く」

 そのまま、シルヴァはゼラに別の部屋へと案内される。

 その部屋は、黒光りの長テーブルが並び、シャンデリアの柔らかい光の照らす広い部屋だった。

「凄いな……」

 シルヴァが感嘆して漏らす。金細工や天井画という錚々たる装飾がなされ、この部屋だけほかの部屋とはまるで違っていた。

「この部屋は今ある部屋で唯一、昔の名残なんだ。懐かしいな、あの頃は」

 空を向き、昔を撫でるように語るゼラに、シャルロッテが肘を入れた。

「昔のことでしょ。いちいちそんなのに縋ったところでなんにもなんないわよ」
「はは、シャルちゃんにはかなわないな。よし、じゃ俺は料理を運んでくるから、シルヴァは適当に座っていてよ」

 シルヴァは、空いている……というより、無難な席を選んだ。座ってみて、改めて周囲を眺める。

 50人は座れる椅子があるにも関わらず、座っているのはシルヴァだけ。シルヴァがいない時は、四人、もしくは二人でここで食事をしていたのだろう。

 広すぎる部屋は、寂しさを増す。響く音も、ゼラとシャルロッテが厨房から食事を運ぶ音だけであった。

「それじゃ食べようか」

 ゼラがシルヴァの隣、シャルロッテがシルヴァの前の席に腰掛ける。シルヴァが食前の祈りをした時に、ゼラの目が細くなったのを、シルヴァは見逃さなかった。

「なぁ、まだゼラの妹さん達は帰らないのか?」
「うーん、ギルドが混んでたりしたら遅れるけど、いつもはもう帰ってくるはずなんだけどな」
「そうか」

 シルヴァが料理に手をつける。柔らかくなるまで煮込んだミネストローネがシルヴァの体を温めた。

「うっま……」

 シルヴァが軽く漏らすと、ゼラはサムズアップした。

「だろ?」

 ゼラの顔は、満面の笑みであった。

 ひとしきり食事を食べ終え、これからどうするかについて話始めようとした時であった。

「ただいま」
「ただいまです」

 玄関から二つの声が響いた。

「兄さん、今回の報酬は……!」
「いい匂い……今日はご馳走ですか?お兄ちゃん……!」

 二人は一直線に食堂へと歩いてきた。そこで、初めてシルヴァと目が合った。

 片方の手に紙を持っている少女は、黒髪黒目。獲物であろうマシンガンを片手に持っている少女は、白髪白目。

 二人とも身長は同じくらいで、同じ服装、同じ髪飾りをしていた。挨拶するためにシルヴァは立ち上がったのだが、その二人は

「兄さん、誰なの?この無礼にも私達の家に乗り込んできてあまつさえ貴重な食糧を貪る男は」
「お兄ちゃん、なんで家族でもない男が私達の家で食卓を囲んでいるのですか?」

 死んだ魚のような目の奥に静かな怒りを宿わせ、シルヴァを睨んだ。

「ノラ!サラ!」

 ゼラが大声をあげる。どうやらこの二人はノラとサラと言うらしい。どっちがどっちだかはまだ分からないが。

「初対面の人に向かって言っていい言葉じゃないだろう!謝罪しなさい」

 ゼラが諌める。だが、二人とも無視しているようだ。

「この人は新規入団希望者なんだぞ!追い返したいのか?」

 さらにゼラが言うが、二人は引く様子がない。

「別にいいわよ。今更新規の人なんて」
「サラの家族はお兄ちゃんとお姉ちゃんとシャルちゃんと団長だけでいいです」
「だがそれはさすがに言い過ぎだろう」
「何よ!兄さんはそいつの肩を持つの?」
「この人はここがいいって言ってくれたんだぞ?それを追い返すような真似なんて」
「追い返したいのよ!私達の世界に他人は要らないわ」
「サラもお姉ちゃんと同意見です」
「二人とも……」
「兄さんがあいつを追い出すまで私は部屋から出ません!行こう!サラ」
「はい。お姉ちゃん」

 ミネストローネをさっさと啜って二人は自室へと戻って行った。その途中で、二人はシルヴァを再度睨んだ。

 二人の姿が完全に見えなくなったあと、ゼラが頭を抱えて椅子に倒れ込む。

「はぁー。なんかすまないね」
「んあ、俺は別にいいんだが……」

 ゼラが水を一気に飲む。そのあと、長い溜息を吐いた。

「あいつらは根は優しいんだけどね……家族以外には極端に当たりが厳しいんだよ」
「……何かあったのか?」
「……聞きたい?」

 ゼラがゆっくりとシルヴァを向く。ゼラの心の中に埋もれる海のような絶望が顔を覗かせた。

「……辞めておく」
「ありがとう。あまり人に話したい思い出ではないから」
「シルヴァはどうするの?この後」

 シャルロッテが聞いてくる。シルヴァは、考える様子もなく即答した。

「あいつらの協力を取り付けるよ。そのために俺はここに来たんだから」

 シルヴァの返答に、ゼラもシャルロッテも笑顔を見せた。

「それじゃ個人部屋に案内するよ。備え付けの家具は自由に使っていいから」

 ゼラが立ち上がる。その後に続いてシルヴァも歩き出した。

 ◆◇◆

「ここがシルヴァの部屋だ。入浴は女性が夜8時から10時。男性が10時から12時だから、間違えないようにね。後は自由にしてていいよ。それじゃ」

 ゼラが部屋を後にする。シルヴァは、その部屋を見て、指で箪笥の上を軽く拭いて、感嘆した。

「……なるほどね。綺麗なのは保証するってことか」

 綺麗に整えられた寝具に、指に埃一つもついていなかった。寝具からは、天日干しされたであろう香りがしていた。

 入浴時間まであと2時間以上。そこまで明確に行動指針を決めていなかったシルヴァは、暇潰しに叡黎書アルトワールを捲った。

「家族ねぇ……何があったんだろうな」

 ゼラが言っていた、“話したくない思い出”。ゼラ達三人の身に、一体何が起きたのだろうか。どれほどのことが起きれば、そこまで家族に依存するようになるのか。

 だが、ここのクランに入るためにはあの二人のうちどちらかの協力は最低でも得られないといけない。そのためには、どうすればいいのか。

「家族……擬似的な家族になるのが一番かね」

 答えは、簡単なものであった。だが、いざしようとする、かなり難しい事だというのは明白だった。

「明日からどうしよか……」

 シルヴァの虚しき問いかけが、風の中に消えていった。

 ◆◇◆

「兄さん、ちゃんと追い出したかしら」
「さぁ。お兄ちゃんはあの人のことあんまり警戒してないっぽいし……」

 浴場の中で、ノラとサラが話していた。

「警戒?まさか、あの男って……」
「いえ、それは分かりません。ですが……」

 サラの口が止まる。ノラが心配そうに見つめた。

「あの男……人間じゃありません」
「え?どういうことよ?」

 ノラがサラの肩を掴む。

「あの男に、生命の灯火が見えませんでした。お姉ちゃん」
「生命の灯火がない?」
「ええ……ほんの少しでも見逃さないはずなのに」
「ということは……」
「私の……“生命の明眸”すら凌駕する隠蔽アイテムを所持している。ということです」

 サラの白い左目が、ゆっくりと青色に変化した。
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